Go Global Gateway エッセイ2
上野先生の入学式祝辞
2019/05/16     

国際化教育支援室長・情報学環教授・総長特任補佐     
矢口祐人     

  2019年度の入学式からほぼ一ヶ月が過ぎました。
  この間、上野千鶴子東京大学名誉教授(ウィメンズ・アクション・ネットワーク理事長)の祝辞が話題になりました。大切な指摘がたくさんありました。1年生のみなさんは武道館で実際に聞く機会を持ち、どう思われましたか。
  祝辞でひとつ、上野先生が触れられなかったことがあります。それは東大の男女比を巡る問題を国際的な視点から考えるという点です。
みなさんも知っているように、東大の学部生の男女比はほぼ8:2です。今年度の女性学生比率は20%を切ってしまいました。これが「低すぎる」ということが指摘されますが、国際的に見てどうでしょう。
  以下は本学が全学交換留学協定校、あるいは同じ大学連盟などに入っている、お付き合いの深い大学です。皆さんが出会う確率の高い学生が所属する大学です。そこの男女比をネット検索で簡単に調べたものです。中国の二大学以外はそれぞれのホームページに英語で統計が出ていますので、皆さんも調べてみてください。

大学名 男女比(男 : 女)
プリンストン大学 50.8 : 49.2 ※1
    カリフォルニア州立大学バークレー校     47 : 53
ジョンズホプキンズ大学 48 : 52
マサチューセッツ工科大学(MIT) 54 : 46
オックスフォード大学 49.9 : 50.1 ※2
ケンブリッジ大学 50.4 : 49.6 ※2
国立シンガポール大学 49 : 51
北京大学 52 : 48 ※3
精華大学 66 : 34 ※3
台湾大学 60 : 40 ※3
ソウル大学 59 : 41 ※4
ミュンヘン大学 40 : 60
コペンハーゲン大学 44 : 56
スイス連邦工科大学(ETH) 2 : 1 ※5
スウェーデン王立工科大学(KTH)  67 : 33
オーストラリア国立大学 47 : 53

        ※1:2018年入学者
        ※2:2017年入学者
        ※3:Times Higher Educationデータ
        ※4:2014年データ
        ※5:"almost a third of the total number of students"

ご覧のように、女性の方が多い大学も少なくありません。世界的にみて、東大の女性学生比率は明らかに低いし、社会状況が比較的似ていると思われるアジアの大学と比べても低いことがわかります。つまり、東大の女性学生比率は世界の一流大学でだんとつに低いのです。
  ちなみに東大の女性学生比率が低いことの理由に「理系が多いから」「工学部が大きいから」を挙げる人は少なくありません。しかしそれは十分な理由にはなりません。現状の東大の数値が低すぎるのはMIT、ETH、KTHなどの一流工科大学と比べても明らかでしょう。
  あるいは、アジア諸国ではもともと理系を志望する女性が少ないから仕方がないという説明をする人もいます。そういう傾向は実際にあります。それでも、シンガポール国立大学と台湾大学の学部別男女比を東京大学工学部と比べると以下のような数値になります。

大学名 男女比(男 : 女)
シンガポール工学部 73 : 27
台湾大学工学部 79 : 21
東京大学工学部 89 : 11

どうでしょうか。台湾大学工学部でも、東大全体の女性比率を上まわっているのです。
  海外から来た研究者や留学生は東大の学生男女比の状況を知って驚愕します。世界の状況とあまりにも違う。それはどうしてなのかを知りたがります。そしてこの比率について東大生はどう考えているのか、東大や日本社会は何をしようとしているのかと問います。なかには社会のリーダーを育てる一流大学がこのような男女比であることは許されないと批判をする人もいます。日本の男女共同参画を阻んでいる元凶は東京大学ではないかという指摘すらあります。
  批判の声が強い理由のひとつは、世界のどこの大学でも、もともと女性の比率が低かった状況を改善してきた歴史があるからです。たとえばプリンストン大学に女性が入学したのは1969年です。オックスフォードには1970年まで女性が入学できないカレッジが5つもありました。つまり1946年に最初の女性が入学した東京大学よりずっと遅れていたのです。しかしそれでも現状の学生男女比は半々になっている。では、東大は何をしてきたのか、という問いが出てきます。
  皆さんはこのような問いや批判に対してどのような答えがあるでしょう。東京大学の学生として、ぜひ意見を持ってください。グローバルな舞台で声をあげてください。それが出来なければ、皆さんが学ぶこの大学はどんどん世界の状況から取り残されていってしまいます。
  東大の男女比は東京大学が直面する大きな国際的な問題のひとつです。この解決なしに、東大がグローバルな大学になることはできません。皆さんひとりひとりがこの状況について世界に発信できる意見を持つことがその一歩になります。
  このようなことを考えるためにも、この夏、海外サマープログラムに挑戦してみませんか。ぜひ以下を参照してください。
https://www.u-tokyo.ac.jp/adm/go-global/ja/program-list-short-summer2.html

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