日印交流プラットフォーム構築プログラム
Japan India Exchange Platform Program

第3回JIEPP日印交流セミナー
ONLINE

インド人留学生OBが語る わたしの日本留学と就職活動
日本に留学するインド人学生は2019年には1869人にのぼり(JASSO調べ)、日本で活躍する高度人材としての期待も高い。このセミナーでは、インド人の日本留学経験者3名が語るそれぞれの就職活動での経験、日本留学での学び、そして現在の仕事から、日本での就職においてインド人留学生が期待することとは何か、理解を深めたい。
日程
2021年11月26日(金)
時間
17:00 - 18:30 JST / 13:30 - 15:00 IST
開催方式
Zoom ウェビナー
言語
日本語
参加費
無料
主催
文部科学省補助金「大学の世界展開力強化事業」インド(B)
「日印交流プラットフォーム構築プログラム(JIEPP)」(東京大学経営企画部国際戦略課)
お問い合わせ
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パネリスト
Imtiaz Ahmed
Imtiaz Ahmed
東京大学大学院工学系研究科修士課程2013年修了、日本タタ・コンサルタンシー・サービシズ株式会社
2009年卒業、2013年までIITH&東京大学で研究。
2013年4月、株式会社イチワンに入社して技術者として日本で仕事開始。
2017年5月から日本タタ・コンサルタンシー・サービシズでAlliance Manager として働いています。主に日本の技術パートナとインドの技術者を組み合わせてHybridモデルでデジタルトランスフォーメーション・エンジニアリング・インダストリアルサービスなどビジネスソリューションを提供することを担当しています。
パネリスト
Abhijeet Ravankar
Abhijeet Ravankar
北海道大学大学院工学院博士課程2017年修了、北見工業大学
インド出身。インドで電子工学卒業。2011年会津大学コンピュータ理工学研究科修士課程修了。2011年パナソニック社R&D部門(大阪)にソフトウェアエンジニアとして就職。2017年北海道大学大学院博士後期課程を修了し、博士(工学)の学位を取得。その後北海道大学の学術研究員を経て,2018年北見工業大学の特任助教として着任後、2019年に助教,2021年に准教授となり現在に至る。ロボティクスと人工知能を専攻。
パネリスト
Ravishankar Vishal
Ravishankar Vishal
長岡技術科学大学大学院工学研究科修士課程2020年修了、株式会社アサヒプレシジョン
アンナ大学で電子工学・計測学の学士号を取得。卒業後、Virtu Technologies private ltdにI.T.エンジニアとして入社。
2018年に来日し、長岡技術科学大学で原子力システム・安全工学の修士号を取得。2021年2月に長岡技術科学大学卒業後、アサヒ・プレシジョン株式会社で6ヶ月間のインターンシップを開始した。
2021年9月より、アサヒ・プレシジョン株式会社にて生産・技術部門で正社員のソフトウェア開発者として勤務。
コメンテーター
原田麻里子
原田麻里子
東京大学相談支援研究開発センター 留学生分野専任講師
立教大学大学院(社会デザイン学)博士。民間企業、外資系銀行、自治体等を経て2006 年から現職。
東大留学生支援室にて、キャリア教育支援、地域連携を主軸とした留学生の相談全般に対応。留学生対象の就活関連事業の企画実施をするとともに、個別相談にも多数対応。移民政策学会監事、東京外国人支援ネットワーク副代表。主論文に「元留学生社会人の「定住・定着」感の考察―その意識構造の把握を試みて―」『キャリアデザイン研究』(2015)分担執筆に吉原直樹他編『コミュニティ事典』,留学生の居場所とコミュニティ,春風社(2017)
司会
加藤 隆宏
加藤 隆宏
東京大学大学院人文社会系研究科・文学部 インド哲学仏教学研究室 准教授
1973年生まれ。東京大学文学部インド哲学仏教学専修課程卒業、同大学院修士課程修了、博士課程単位取得退学。
博士課程在学中の2003年から2005年までインド・プネー大学サンスクリット学高等研究所に留学。2006年から2012年まではドイツ・マルティンルター大学に在籍(Dr.Phil,ドイツ・マルティンルター大学)。マルティンルター大学時代には、独日ダブルディグリープログラム講師として国際交流事業に従事した経験もある。
専門はインド哲学、サンスクリット文献学。
インド留学時よりサンスクリット写本収集のためにインド各地の図書館や寺院を訪ね歩いている。

開催報告

【概要】

2021年11月26日、第3回日印交流セミナーが「インド人留学生OBが語る わたしの日本留学と就職活動」をテーマにzoomウェビナーを用いて開催されました。大学教職員、学生、企業関係者を中心に、97名の参加がありました。

パネリストとしてインド人の元留学生であるAhmed IMTIAZ氏(東京大学大学院工学系研究科修士課程2013年修了、日本タタ・コンサルタンシー・サービシズ株式会社)、Abhijeet Ravankar准教授(北海道大学大学院工学院博士課程2017年修了、北見工業大学)、Ravishankar Vishal氏(長岡技術科学大学大学院工学研究科修士課程2020年修了、株式会社アサヒプレシジョン)が、それぞれの日本留学からの学びや就職活動での体験、また現在の仕事への思いなどを語りました。続いて、コメンテーターとして原田麻里子講師(東京大学相談支援研究開発センター 留学生分野)より、東京大学における留学生向け就職活動支援プログラムの内容について詳しい説明がありました。その後、司会の加藤隆宏准教授(東京大学大学院人文社会系研究科 インド哲学仏教学研究室)も加わっての全体討論において、登壇者全員で参加者からの質問に回答しました。

【各登壇者の発表内容】
Ahmed IMTIAZ氏(東京大学大学院工学系研究科修士課程2013年修了、日本タタ・コンサルタンシー・サービシズ株式会社)

幼少期から日本の自動車メーカーになじみがあったことから日本に憧れの感情を抱いていたImtiaz氏は、インド工科大学ハイデラバード校(IITH)在学中に日本の大学で行われている研究に触れたことで、日本留学を目指すことに決め、文部科学省の奨学金を得ました。

日本での就職を決めた理由は、日本企業で行われている「カイゼン」を実際に体験してみたいと考えたことと、高品質な”Made in Japan”の背景にある精神性を探求し、身につけたかったかったためだといいます。

日本での就職活動はなかなか難しかったものの、大学の先生方やコメンテーターの原田講師が勤務する留学生支援室(当時)が大きな助けになったとのことです。

日本で働くことへの適応度合の変化や時間経過により、日本での生活に強い幸福感を覚えるいわゆる「ハネムーン期」と、カルチャーショックに悩む「ショック期」を経験するなど心理的な変動はあったといいます。しかし、総合的には日本での仕事は自身にとって大変満足のいくものであり、他の人にもぜひ勧めたいと語りました。Imtiaz氏は日本での仕事生活で重要なこととして[1]日本語を学ぶこと、[2]文化を理解すること、[3]日本の美を楽しむこと、の3点を挙げました。

心理的適応度
Abhijeet RAVANKAR准教授(北海道大学大学院工学院博士課程2017年修了、北見工業大学)

北見工業大学のRavankar准教授が日本への留学を決めた理由は、英語圏への留学とは異なり、日本語の勉強が必要であることから、ライバルが少なく挑戦する価値があると考えたことが理由だったといいます。また,文部科学省奨学金を獲得したことも理由でした。

その後、就職活動にあたっては、日本語教育やビジネスマナー講座などを生かし、インターンシップにも3度挑戦して、パナソニックに就職しました。同社では社長賞を受賞するなど充実した会社員生活を送りましたが、進学して博士号を取りたいという強い希望があり、文部科学省奨学金をもう一度獲得できたので,退職して北海道大学の博士課程に進学しました。

大学でして良かったと感じていること

大学のアカデミックポスト獲得のための就職活動は楽ではありませんでした。その原因として、大学のサポート体制がないこと、外国人が採用されにくいこと、また、企業での経験が重視されない傾向などをRavankar准教授は挙げました。加えて、企業でも、博士号の取得をメリットと捉えない傾向があるために、工学系博士号取得者数が伸び悩んでおり、日本のイノベーションに悪影響を与えていると語りました。そのことから、大学が博士課程学生への就職サポートを行う必要性を感じたと話します。

また、インド人が働く国としてアメリカを選びがちな理由は、アメリカには世界的なトップ企業やトップ大学が存在し、高賃金であるうえ、ワークライフバランスを重視した生活ができることにあり、日本ではそのような選択肢が少ない、と指摘しました。最後に,自分の性格とパッションを真面目に理解したうえでキャリアパスを考えることを主張しました。

Vishal RAVISHANKAR氏(長岡技術科学大学大学院工学研究科修士課程2020年修了、株式会社アサヒプレシジョン)

チェンナイ出身のRavishankar氏は、インドでITシステムエンジニアとして勤務していましたが、外国で高等教育を受けたいという強い希望がありました。このため退職し日本留学を決め、長岡技術科学大学大学院工学研究科修士課程に留学しましたが、同大学を選んだ決め手となったのは、日本で学んだ経験を持つ母校Anna大学の恩師の勧めでした。

インド人学生にとって日本は必ずしも上位の選択肢ではない中で、Ravishankar氏が日本を選んだ主な理由として、テクノロジーに強いイメージがあり、治安が良く、日本企業がインドに多く進出しており、教育の質が高い割に学費が他国と比べて安価であるという点を列挙しました。特に治安の良さは、留学生として子を外国に送り出す保護者たちにとって重要な点であるとのことでした。

修士課程修了後、長岡市のあっせんで地元企業であるアサヒプレシジョンへのインターンシップに参加し、8カ月経験を積んだのち、正社員として採用が決まったといいます。地元テレビ局の番組でインド出身の有望な社員として登場した映像も一部が披露されました。同社では将来的にチェンナイに拠点を作り、南アジア市場でのプレゼンス確立を目指しているとRavishankar氏は語りました。

Future works

就活生へのアドバイスとして、スケジュールを早めに立てる必要性を強調したほか、インターンシップや各種説明会への積極的な参加、また日本語での会話力の向上が重要であると話しました。

【コメント】
原田麻里子講師(東京大学相談支援研究開発センター 留学生分野)

原田講師からは、留学生の日本での就職の現状分析および東京大学で実施されている留学生向け就職活動支援に関する情報提供がありました。

まず、近年、留学生数や日本で働く元留学生は増加傾向にあるものの、非漢字圏の留学生の就職機会は少ない傾向があると現状を整理しました。そのような現実を受けて、原田講師は、高度人材としての留学生受入を促進する国家戦略がある中で、実際に日本社会で彼らが定着できているのか、そのためにはどうすればよいかという点に問題意識を持っているといいます。

留学生を採用する際に、企業は建前としてはグローバル人材を求めると言うが、本音では、日本語を話せて日本を知っている人材を求めがちであり、日本人では補えない言語要員として捉えている側面があるのではと原田講師は推察します。他方で留学生は日本企業について情報が不十分で、日本流の就職活動に戸惑いがあるそうです。

相互間に大きな溝・コミュニケーション不足

こうした現状を受け、東京大学で実施されている就職支援プログラムの内容が紹介されました。プログラムでは、在留資格全般に関する相談をはじめ、スケジュールの立て方や留学生ならではの履歴書の書き方など基礎的な知識を伝えるガイダンス、OBや企業関係者など学外の人と議論できるセミナー等、多岐にわたる取組が行われています。これらの取組を通じて、留学生はもちろん、企業関係者にとっても新しい気付きを得る体験となっているといいます。

【全体討論】

フロアからの質問を司会の加藤准教授が2件選び、登壇者の意見を尋ねました。

1つ目の質問は、日本からインドに行く学生がインドで学べることについてでした。この質問に対しRavankar准教授は、リソースが不十分な条件下で結果を出すという実践的な面が磨かれること、競争が日本以上に厳しいこと、ハングリー精神が育つことを挙げました。

2つ目の質問として、日本で就職するにあたり、どのようなサポートが特に助けになったか、また、情報収集はどのように行ったかを尋ねました。

これに対しImtiaz氏とRavankar准教授は、大学の留学生支援部署によるサポートが重要で、情報収集もそこから行うのがよいと答えました。Imtiaz氏にとっては、就職活動に関係する種々のサポートが得られたことが大きかったそうです。また、Ravishankar氏は、就職に直接結びついたインターンシップでは長岡市のサポートがあったと話しました。これに関連し、原田講師は、留学生の状況によっては、所属する研究科・研究室からサポートや情報提供を受けることが有益な場合もあると付け加えました。加えて、コロナ禍の影響でリモートでの就職活動が可能になっていることから、地方の大学から日本全国の企業に挑戦してほしいと呼びかけました。

最後に各留学生OBから、現役留学生たちに向け英語でメッセージが贈られ、会が締めくくられました。

Imtiaz氏は「もし日本で学び働くことに関心があるなら、日本語を勉強し続け、様々なウェブサイトなどから情報を得てほしい。ここには機会がある」と呼びかけました。続いてRavankar准教授は「日本は学ぶにも働くにも素晴らしい環境があるので、強くお勧めする。しかし、常に努力は必要であり、日本語を勉強して検定を受験し、レベルアップし続けることが重要である」と述べ、日本語検定についても説明を加えました。そしてRavishankar氏は「日本で働くうえで重要なのは日本語を勉強することと、適切な場でインターンシップを経験すること。これらがよいスタートにつながる」と、自身の経験に基づいて語りました。