東京大学教員の著作を著者自らが語る広場

ベドジフによるチャペックのR.U.R.(ロボット)の舞台美術

書籍名

ベドジフ・フォイエルシュタインと日本

著者名

ヘレナ・チャプコヴァー (著)、 阿部 賢一 (訳)

判型など

288ページ、A5判、上製

言語

日本語

発行年月日

2021年6月

ISBN コード

978-4-86520-053-9

出版社

成文社

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ベドジフ・フォイエルシュタインと日本

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明治以降、数多くの欧米の建築家が日本を訪れ、近代建築の礎を築いたことはよく知られている。英国の建築家ジョサイア・コンドル (1852-1920) は工部大学校 (現・東京大学工学部) で教鞭を執り、鹿鳴館、三菱一号館などを設計し、辰野金吾らを建築家に育て上げた。チェコ出身のアントニン・レーモンド (1888-1976) もまた、その系譜に連なる人物である。フランク・ロイド・ライトに師事し、帝国ホテルの設計をともに手がけ、以降、日本のモダニズム建築に多大な影響を与える。
 
レーモンドに負けず劣らぬ才能を発揮したチェコ出身の建築家にベドジフ・フォイエルシュタインがいる。本書は、パリ、プラハ、東京で活躍した建築家、美術家フォイエルシュタインの足跡を丁寧にたどり、その文化的な意義を捉えた画期的な論考である。
 
プラハ時代、フォイエルシュタインは前衛芸術家集団デヴィエトスィルの一員として、同グループの雑誌の装丁やチャペック『ロボット』の舞台美術などを手掛ける。パリでは、コンクリート建築の祖として知られるオーギュスト・ペレの許で学び、ピュリスム建築の影響を受ける。
 
当時のヨーロッパの最先端の潮流を独自に消化していたフォイエルシュタインの才能を見抜いたのは、レーモンドだった。東京での事業展開で人手を求めていた彼は、フォイエルシュタインに日本の事務所で一緒に働くよう勧め、1926年、フォイエルシュタインは来日する。東京では、聖路加国際病院、ソ連大使館など、当時の最先端のプロジェクトに参画し、その才能を存分に発揮する。そればかりか、土浦亀喜・信子とも共作し、国境を越えた芸術家のネットワークを築く。しかしながら、レーモンドの関係が悪化したため、1930年、プラハに戻り、以降は不遇の晩年を過ごす。
 
本書の特徴は、チェコ語、フランス語、英語、日本語の資料を丁寧に調べ、これまで断片的にしか知られていなかったフォイエルシュタインの全体像を提示することに成功した点にある。次いで、建造物が単に設計者個人による産物ではなく、とりわけ大正・昭和期の日本においてトランスナショナルなネットワークのなかで構築されたことを明らかにした点である。なかでも、チャプコヴァー氏は聖路加国際病院に着目し、レーモンド、フォイエルシュタインに加え、アメリカの建築家バーガミ二ら、様々な建築家たちによるアマルガムであることを明らかにした。
 
本書には、フォイエルシュタインによる貴重な絵画が複数掲載されているほか、論考「日本の建築について」の翻訳も収録されている。畳をモダニズムの観点から分析するなど、今なお、刺激を与えてくれる一冊となっている。
 

(紹介文執筆者: 人文社会系研究科・文学部 准教授 阿部 賢一 / 2022)

本の目次

I はじめに
日本の「オリエントのオリエンタリズム」/モダニズムの源泉としての日本のデザイン/チェコスロヴァキアと日本の外交関係の始まり/両大戦間期チェコスロヴァキアにおけるジャポニスム
 
II ベドジフ・フォイエルシュタイン
パリ/火葬場の東洋風建築、ヌィンブルクの火葬場/オーギュスト・ペレのアトリエ、パリ万博
 
III 日本への出発
アントニン・レーモンド/帝国ホテル/霊南坂/東京でのベドジフ・フォイエルシュタイン/レーモンド事件/在東京チェコスロヴァキア大使館
 
IV 日本のモダニズム建築、そしてフォイエルシュタインと土浦の親交
土浦とフォイエルシュタインの往復書簡
 
V 聖路加国際病院
初期/第一次世界大戦/アントニン・レーモンドの第一案/アントニン・レーモンドの第二案/フォイエルシュタインのアメリカ滞在/病院の基礎に関する事件/レーモンドの辞任および聖ルカ礼拝堂
 
VI ソ連大使館
ソ連旅行
 
VII ライジングサン石油会社
 
VIII 日本からの出発
フォイエルシュタイン、ヨーロッパへ
 
IX フォイエルシュタイン、日本建築について語る
 
X 日本の演劇とフォイエルシュタインの舞台美術
 
XI 結びに
ネリ・アルンシュタイノヴァーとの仕事/フォイエルシュタイン、カフカ、日本の風景/一九三〇年代/フォイエルシュタインの死後
 
資料:ベドジフ・フォイエルシュタイン「履歴書」「哀愁」「日本の建築について」
 
フォイエルシュタインの主要作品一覧
 
訳者あとがき
 
図版一覧/参考文献/訳注/原注/人名索引

関連情報

自著解説:
新刊紹介: ベドジフ・フォイエルシュタインと日本 (『REPRE』Vol.43 2021年10月25日)
https://www.repre.org/repre/vol43/books/translation/kenichi/
 
ベドジフ・フォイエルシュタインの足跡 (チェコ語の翻訳/Wunderkammer | note 2021年6月15日)
https://note.com/kenichi_abe/n/nd8e311ef8535
 
書評:
本田晃子 評 (『CONFORT』182号2021年12月号 2021年11月4日)
https://confortmag.net/no-182/
 
本よみうり堂: 柴崎友香 評「チェコの才人 作品と生涯」 (『読売新聞』 2021年10月22日)
https://www.yomiuri.co.jp/culture/book/review/20211018-OYT8T50029/
 
五十嵐太郎 評「徹底的に調べあげたダイナミックな人間模様――チェコと日本の架け橋となった知られざる建築家の全貌」 (『図書新聞』第3514号 2021年10月9日)
http://www.toshoshimbun.com/books_newspaper/shinbun_list.php?shinbunno=3514
 
沖縄タイムス+プラス:[出版]「ベドジフ・フォイエルシュタインと日本」(ヘレナ・チャプコヴァー著、阿部賢一訳) (『沖縄タイムス』 2021年9月21日)
https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/834106
 
石川達夫 評 (『週刊読書人』 2021年8月20日号)
https://jinnet.dokushojin.com/products/2021%E5%B9%B48%E6%9C%8820%E6%97%A5%E5%8F%B7-3403%E5%8F%B7
 
書籍紹介:
欧州と日本で活躍する12人に聞いた「今私たちが読むべき本」
ペトル・ホリーさんおすすめの3冊 (『英国ニュースダイジェスト』1594号、『ドイツニュースダイジェスト』1161号 2021年12月17日)
http://www.newsdigest.de/newsde/features/12633-lesetipps-in-zeiten-des-wandels/
 
チェコの建築家フォイエルシュタインの作品と生涯を辿る グローバル教養学部のヘレナ・チャプコヴァー准教授が著書を出版 (立命館大学ホームページ 2021年7月13日)
https://www.ritsumei.ac.jp/news/detail/?id=2162
 
関連記事:
No.023 - そうだ人文機構、行こう - 外来研究員ヘレナ・チャプコヴァーさんの場合 (大学共同利用機関法人 人間文化研究機構 2018年3月6日)
https://www.nihu.jp/ja/publication/nihu_magazine/023

トークイベント:
ベドジフ・フォイエルシュタインと日本建築 | ヘレナ・チャプコヴァー & 阿部賢一 (チェコフェスティバル2021 2021年10月24日)
https://czechrepublic.jp/sneak-peak/czechfestival/czechfestival2021/
 

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