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疾患のケミカルバイオロジー教育研究拠点

骨格筋におけるAdiponectin/AdipoR1経路の運動模倣効果

2011.05

岩部 真人 医学系研究科内科学専攻 現在、医学部付属病院糖尿病・代謝内科、医学部付属病院、22世紀医療センター統合的分子代謝疾患科学講座特任助教

わが国の死因の上位を占める心血管疾患(心筋梗塞・脳梗塞など)の主要な原因は、エネルギー収支バランスの崩れによる肥満を基盤とした耐糖能障害・脂質代謝異常・高血圧が一個人に重積するいわゆるメタボリックシンドロームと考えられる。現代人が抱えるこのエネルギー収支バランスの崩れは、食生活の欧米化(動物性高脂肪・高タンパク食)に加え、社会全般のオートメーション化、自動車普及などによる身体活動量の低下、すなわち「運動不足」が大きく関与している。

当研究室ではこれまでに、脂肪細胞から分泌されるアディポネクチンが代謝に重要な各組織におけるアディポネクチン受容体(AdipoR)を介して、抗糖尿病、抗メタボリックシンドローム作用を発揮することを明らかにしてきたが、今回、骨格筋におけるアディポネクチン/AdipoR1シグナルがミトコンドリアの量と機能を改善させることにより代謝と運動持久力を高め、運動した場合と同様の効果をもたらすことを発見した(Nature 464:1313,2010)。

実際に骨格筋特異的AdipoR1欠損マウスを作製し解析したところ、骨格筋においては活性化したPPARγ coactivator-1α(PGC-1α)の量が約25%にまで低下し、ミトコンドリア含量と機能の低下、type I fiber の割合が低下し運動持久力の低下が認められ、個体レベルでの耐糖能障害、インスリン抵抗性が認められた。更にその詳細なメカニズムをC2C12細胞やXenopus laevis oocytesを用いて検討したところ、アディポネクチンがAdipoR1を介し“細胞内Ca2+濃度を上昇させること”と“AMP キナーゼ(AMPK)/長寿遺伝子SIRT1 の活性化”の両方をもたらすなど運動を模倣するシグナルを有すること発見し、前者がPGC-1αの発現上昇に、後者がPGC-1αの活性化に、すなわち、PGC-1αをdual に制御する重要な役割を果たしていることを明らかにした(Nature 464:1313,2010)。

運動を含めて、このアディポネクチン/AdipoR1シグナルを増強させることによって代謝の質を変化させることは、個体の代謝環境を補正するうえでも非常に貢献をもたらすことができる。今後、アディポネクチンやAdipoRの増加薬、究極的にはAdipoR活性化薬は運動をした時と同じような効果をもたらす“運動模倣薬”となる可能性が大いにあり、メタボリックシンドローム・2型糖尿病・動脈硬化の根本的な治療法開発の道を切り開くだけではなく、内科的疾患や運動器疾患等によって、運動ができない場合でもそれら病態の効果的な治療薬となることが強く期待され、その開発が待たれる。

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