コラム「バリアフリーの東京大学」の実現に向けて 第2回 東大で学ぶ −障害をもった学生として−  本学のバリアフリーに関するコラムの第2回目です。今回は、聴覚障害のある中條美和さんと、視覚障害のある西田友和さんという東大で学ぶ立場のお二人からのバリアフリー支援に関するコメントを紹介します。 「利用と貢献」 中條美和(法学政治学研究科院生)  私の東大入学は平成8年であるから、平成14年10月に支援準備室として発足し、平成16年4月に「室」として正式にスタートしたバリアフリー支援室は、私からしてみれば「遅れてきた支援室」である。  支援室がなかったころ、私は、残存聴力をフル活用して授業を受け、ディスカッションは「居るだけ」を通してきた。日本だから許された学生態度かもしれない。実をいえば、私は支援の方法を知らなかった。難聴の場合、何が聞こえなかったのかという情報の欠落の存在を知ることは難しく、漠然と自分の立場の不利に気づいても、それを補う具体的方法について私は無知であった。  支援の具体的方法の提示は支援室の役割の1つである。支援の方法は技術発展によっても変化する。現在、私は「音声の文字化」を利用している。リアルタイムでの100%文字化を目指すこのシステムは、開発中でコストも高い。けれども、音声の文字化は、例えば、会議録作成やインタビュー記録、などにおいても望まれるプログラムだろう。廉価なソフトが出回れば、口述筆記で秘書を酷使している教授だって購入するかもしれない。支援というものは無理なく持続可能でなければならなく、そのためには、需要供給の論理にのっとったある程度の一般性が必要なのである。その意味で、今後の音声の文字化の開発には期待している。  東京大学のバリアフリー支援室は他の大学に先駆けてリードしていく心意気である。支援室は、具体的支援の提供や支援方法など専門知識の提供のみならず、ともすれば力関係が難しい学生と教員の間でコーディネイトする存在でもある。本学における障害者支援システムの存在は、日本における諸学校のモデルともなりえるし、社会に対する情報発信にもなるだろう。障害学生が圧倒的に少ない中で、私が、本学のバリアフリー支援室と意識的に関わるのは、自分に支援が必要なことに加えて、私の参加によって支援システムの安定化に貢献することになればと思うからである。 「ノーリーズン」 西田友和(文学部学生)  一昔前、とある清涼飲料水の広告で用いられたキャッチコピーだ。友人に何故東大に入ったのかと尋ねた際、「コーラと同じだよ」と涼しげな答えが返ってきたのを今でもよく覚えている。東大は、その入学の理由を問われることのない類まれな大学なのだ。  しかし、こと話が障害学生となれば、必ずしも東大が「ノーリーズン」であるとは限らない。まず入学に際して未だに障害を理由に受験拒否を行っている大学も少なからず存在するし、仮に入学を認めても、学生への支援を一切行わないことを誓約させる大学さえある。障害学生はまだ悲しいかな一般の学生とは別の労苦を担わされている。  さて、話を本題に戻すとして、東大における障害学生の受け入れはどうだろう。幸いなことに、東大では障害を理由に受験拒否を行った例はないと聞いている。また、入学後の配慮も、障害学生に出来る限り協力的である点は評価していいだろう。しかし、入学後の配慮に関しては、大学としての取り組みというより、入学した学部学科にその責任を全て「丸投げ」していた実情があったことは否定出来ない。総合大学でありながら支援に関しては個々の裁量に委ねるという姿勢は些か無責任だと言わざるを得ないのではないか。そこで例えば全学共通の支援センターのようなものがあればいいなと感じていた矢先、発足したのがバリアフリー支援準備室だった。  スタッフの方々とは何度も面談を行い、ときにはいい兄貴分として相談にも乗ってもらい、とても頼もしい存在だ。席を置く学科と支援する担当部署が同じ場合、ときとして不都合を生じる。学科内でどうしても遠慮してものの言えないときでも、支援室では心を開いて本音で話が出来る。そうやっていくつものバリアをこれまで改善してきた。バリアフリーはもはや現代のメインストリームと言っていい概念だ。東大でのこうした取り組みが、社会全体に好影響を与えてくれることを切に望んでいる。 <東京大学バリアフリー支援室 連絡先>  TEL:03−5452−5067  FAX:03−5452−5068  E-mail:spds-staff@mm.itc.u-tokyo.ac.jp