特別記事 「バリアフリーの東京大学」の実現に向けて(U) 1329号の特別記事では、バリアフリー支援室の様々な活動についてお伝えしました。その後も、支援室は「本郷支所設置」、「知的障害者の積極的雇用推進」など活発な取組を展開しています。そこで、今回は「雇用」と「支援」に関して、新たに開始された活動をご紹介します。本学は「バリアフリーの東京大学」の実現に向けて着々と歩を進めています。 知的障害者の環境整備チーム活動中! 本郷では、この4月から知的障害のある職員(スタッフ)が、コーディネーターと共にキャンパスの清掃に従事しています。すでに1336号で施設部保全課環境整備チームの発足についてはお伝えしてありますが、今回はコーディネーターやスタッフの肉声をお伝えします。 チームは5月26日、小宮山宏総長から激励を受けました。まず、いつもは環境整備チームの控え室で行っているミーティングを総長室で行いました。総長室での歓談後は、総長も一緒に構内に出て、赤門付近で清掃作業を行いました。  暑い日も雨の日も環境整備チームは「ゴミ清掃のプロフェッショナル」として活動中です。読者の皆様の応援を是非、お願いします。 コーディネーターからのメッセージ 渡邊福治・矢作和子 学生、教職員の皆さん、ブルーの帽子と腕章を着け、竹ぼうきとちり取りを持って本郷キャンパスを清掃している人たちを見かけたことがありますか。そうです。この人たちが東京大学がこの4月から職員として雇用し、クリーンなキャンパスを目指す、障害を持つ勇士の一団であります。正式には「施設部保全課環境保全チームスタッフ」です。  スタートして2ヶ月が過ぎた今、キャンパスがきれいになったと、あちらこちらから聞こえてきます。それは当然のことです。なぜならスタッフ戦士は、「ゴミ清掃のプロフェッショナル」になることを合言葉に、個人とチームで責任をもって仕事を行い、大学で学び働く人が気持ちよい環境で、勉強や仕事ができるようにすることを目標に全力を傾けているからです。 しかし、戦士にも不満があります。それは自転車、バイクの無秩序なとめ方、分別していないゴミ類の投入や放置、投げ捨て、OA機器やビニール傘、タバコの吸殻のポイ捨て、放置などが、たくさんあるということです。これらの行為は作業に支障をきたすばかりでなく、そもそもキャンパスの環境を汚し、こわすものです。  コーディネーターは、クリーンなキャンパスを目指す戦士が働く喜び、給料がもらえる喜び、生きる喜びを育むよう、一丸となって仕事を進めています。そうした願いを実現するためには、本学で学び働く皆さんの協力と応援が必要不可欠です。知と技の連携で、日本一クリーンなキャンパスを本学で実現したいものです。 スタッフからのメッセージ 落合盛太 東大は広くて、清掃が大変です。安田講堂、三四郎池、赤門、正門、本郷通り、図書館前、バス停を掃除しています。 片寄英一  自分で仕事をしてがんばっています。東京大学は全体が広いです。 タバコを捨てないでください。自転車のスピードを落としてください。 北沢聡 ぼくはゴミの回収と分別をしています。掃除のほかには、理学部図書館で本の整理とラベル貼りをしています。スタッフルームでは、トイレ掃除をしています。軍手洗いもしています。 木下光洋 最初は緊張しましたが、だんだんと慣れてきました。みんなといっしょに働いて、すごい汗をかいて気持ちよかったです。 高橋裕 自分は4月から東大の清掃の仕事について、落ち葉掃除は大変でしたが、やりがいのある仕事だと思いました。一番困るのは、タバコがやたらにあっちこっちに落ちていることです。タバコは吸殻入れに捨ててください。 波多野義明 掃除が終わって、給料をもらいました。パリの旅行に行きたいと思っています。 濱田龍太郎 お金をもらってとても嬉しいです。犬の糞を捨てないでください。また、自転車はきちんと駐輪してください。 早川健太 東大の中はとても広いので、とても大変です。赤門、正門、弥生門と3ヶ所回っています。とても大変だけど、分別のほうは簡単に早くできるようになりました。 森田建一 葉っぱを拾う仕事をしています。タバコの吸殻のごみが多くて大変です。タバコを捨てないでください。 吉村忠彦 自分は東大の清掃の仕事について、1ヶ月ちょっとたちます。掃除の仕事を自分ではきちんとやっているつもりです。これからも一生けんめい仕事をがんばって、みんなと仲良く、楽しい職場にしたいです。困っているのは、ゴミの分別がきちんとされていないことです。特にコンビニで買ったお弁当や、お茶のカンやタバコの投げ捨てをやめてもらいたいです。 ヘルスケアルーム、オープン! 保健センターではこの度、学生及び教職員の健康増進・福利厚生の一助として保健センター駒場支所にヘルスケアルームを開設し、ヘルスキーパー(※)によるマッサージの提供を行うことになりました。 東京大学として初の試みとなりますヘルスケアルームをぜひご利用ください。 ※ヘルスキーパーとは・・・  一般的に、企業等の施設内に設けられたマッサージ室で疲労その他の症状緩和を図るため、マッサージを行う有資格者を言います。  今回開設された東京大学内のヘルスケアルームでは、按摩マッサージ指圧師免許取得者である視覚障害者がヘルスキーパーとして施術を行います。 問い合わせ:保健センター駒場支所(内線46481) 設置場所  駒場キャンパス内 保健センター駒場支所(2階) 利用者   本学の学生・教職員。ただし教職員は、休憩時間、勤務時間外または年次有給休暇を取得の上で利用頂けます。 利用方法  a.電話(内46481)による予約制で、同一人は週1回を限度として利用できます。        b.申込は翌週分を前週の月曜以降に受付け、空いている場合は当日でもお受けします。        c.やむを得ずキャンセルする場合はできるだけ早めにご連絡をお願いします。 利用料金  時間帯にかかわらず1回500円(現金)といたします。1回40分。(昼は20分。注参照) 支払方法  利用前に駒場支所事務室(1階)で支払いをお済ませください。 時 間   月曜日〜金曜日(祝日は除く)の10時20分〜16時40分 時間帯 午    前 1 10:20〜11:00 2 11:20〜12:00     午    後 3 12:20〜12:40 4 13:00〜13:40 5 14:00〜14:40 6 15:00〜15:40 7 16:00〜16:40 注) 「3(12:20〜12:40)」の時間帯は職員優先とし、所要時間は20分間となります。 (利用料金は変わりません。) ヘルスキーパーからの一言 ヘルスケアルームに勤務している渡辺旭です。今の自分の目標はこのマッサージルームを皆さんに知ってもらい、来ていただき、身体をほぐすだけでなく、「保健室のおばちゃん」的な、何でも話すことができる雰囲気作りと、ゆったりうっとりできる心身ともに癒せる空間を作っていくことです。皆さん是非お越しください。 はじめまして。ヘルスケアルームの大楽スミヨと申します。私の所属しているところは、5月15日にスタートしたばかりのマッサージルームです。仕事に勉学に励んでおられる皆様が肩の凝りや眼の疲れを感じたときに、マッサージを受けて見ませんか。きっとリフレッシュできます。私たちは少しでも皆様に喜んでいただけるよう努力してまいります。どうぞよろしくお願いいたします。 障害者雇用の新しい取り組み −雇用率を超えて− 先端科学技術研究センター 領域創成・バリアフリープロジェクト 中邑賢龍 1.大学における障害者雇用の課題    東京大学における障害者雇用の推進は他大学の先駆けとなる試みで注目を集めています。しかし、大学における障害者雇用はまだ始まったばかりであり課題も山積しています。障害者雇用を安定した長期的な取り組みとしていく上では、個々の問題解決を図ると同時に、新しい試みを始めていく必要があります。  (1)常用雇用の難しさ:法定雇用率達成のための雇用では常用雇用(1週30時間以上)を行う必要がありますが、大学にとってフルタイムの仕事を新たに作ることは容易ではありません。法定雇用率達成のために障害者雇用を行う企業も多く、その結果、長時間働けない多くの人がいつまでも職に就けないままになっています。  (2)人材供給の偏り:障害があるからといって専門的知識を習得した人材が必ずしも少ないわけではないですが、通勤し、かつ、フルタイム働ける人となるとその数は極端に減少します。 2.短時間雇用のメリット   そこで、領域創成プロジェクト・バリアフリープロジェクトでは、以下のような考えに基づき、短時間の障害者雇用を実施しています。労働時間を短時間にすることで以下のようなメリットが生じることになります。  ・ハードルの低さ:障害者雇用の必要性を感じても、その準備、配慮等を考えると躊躇する人が多いと思われるが、短時間ならハードルが低い。  ・専門性の高い人材の活用:重度肢体不自由、アスペルガー症候群や軽度精神障害のある人などの中には、優れた知識・技能を持ちながら長時間就労が困難な人がいる。彼らの中には短時間なら働ける専門性の高い人が数多くいる。  ・重度障害のある人への門戸開放:重度障害のある人も短時間なら可能な仕事が多い。彼らは在宅生活、あるいは作業所等で僅かな収入を得ている。短時間ではあるが、彼らの収入をアップすることが可能である。  ・フレキシビリティ:雇う側は必要な時に必要な仕事を頼める。雇われる側も他の仕事と合わせることが容易。  ・専門家を有する研究機関としての義務:短時間の就労はワークシェアリングにもつながる重要な考えであるが、障害者雇用となると、多くの企業にはメリットがあるかどうか明確ではない。大学だから可能な先進的試みである。  ・正規の就労に向けてのウォームミングアップの手助け:短時間であるがゆえに働く人に負担が少ない。正規の就労に向けての準備が可能である。  ・教員が障害のある人と接する機会の増加:障害者雇用は事務サイドにだけ関係することではない。教員サイドにとっても障害のある人と働く良いきっかけになると思える。  ・社会的インパクトの大きさ:コンプライアンスとしてだけでなく障害のある人を必要な労力として雇用するモデルを提示できれば社会に大きな影響を及ぼす。 3.バリアフリープロジェクトにおける短時間雇用の試み   現在、領域創成プロジェクトおよびバリアフリープロジェクトでは視覚障害、肢体不自由、認知障害、精神障害のある4人に1週数時間から15時間程度、データ入力や書類の整理などをアルバイトとして依頼しています。その中の一人である精神障害のあるAさんは、以下のように語っておられます。  「私は、38歳になってから、発達障害者であると診断され、それまで一般就労をしてきましたが、2次障害のうつ病を併発するに至って、自宅療養をする身となりました。その状況になり、約3年半になります。その間に、何度か就労についてのアプローチをしましたが、それまでの対人関係やコミュニケーションにおける不適応があって、職場恐怖を感じてしまい、また職務上不適切な行動をする自分にも不安を感じております。その為、一般就労にはなかなか前向きにはなれずにいます。ですが、そのような中、今回お誘い頂いて非常に有難く思っております。特に、書籍の編集の仕事については、以前そのような仕事を8年程していたこともあり、パソコン作業も自分には向いていると思っていましたので、毎回仕事に伺うことが楽しく感じられています。」  一人の人を週30時間雇用することと、30人の人を週1時間雇用することは同じこととも言えます。短時間雇用は雇用率算出にカウントできないものの以上のような点で多くのメリットをもつのです。 パソコンノートテイク支援 バリアフリー支援室では、平成18年4月から法学政治学研究科法曹養成専攻に入学した、聴覚に障害をもつ学生の講義保障を行うため、法学政治学研究科との連携・協力のもと、以下のような支援を行っています。 主な支援内容 1.講義時のパソコンノートテイク   聴覚に障害をもつ学生に、パソコン入力で、講義内容や周りの様子をリアルタイムで文字化し伝える方法です。  法学政治学研究科が担当教員の了承を受け、バリアフリー支援室の支援コーディネーターが、各講義に入るパソコンノートテイクを行う人(ノートテイカー)のローテーションを組みます。ノートテイカーは、2人1組で講義に入り、聞こえるあらゆる種類の音声情報を入力します。  入力された文字は、聴覚に障害をもつ学生の前にあるパソコン画面上に表示され、その文字を読むことで講義内容を知ることができます。 2.講義後の文字起こし 講義時のパソコンノートテイクだけでは補いきれない言葉などを、録音したテープを聞きながら文字化する作業です。それにより、全ての音声情報を提供することができます。 実際に支援を行っているのは? 現在、バリアフリー支援室に登録されている、おもに学生からなる36名の支援者の方々です。この支援は、有償でアルバイトの形態をとっています。支援者は、日々の講義保障になくてはならない存在です。 支援を受けている学生の感想 文字化された言葉を見て初めて、主に話し言葉から成る講義で私の今まで得ていた情報量が5%、質としては1%もなかったのか、ということを知りました。そして、今まで得てきたこのような断片的な情報は、話し言葉の文字化によって初めて理解できることがとても多く、毎日たくさんの新しい発見があります。多くの方々の支援によって、私も「人の話を聞く」ことができることを、心より感謝しています。 支援を行っている学生の感想 ・自分のやっているテープ起こしが役立っている声を聞いて、やりがいを感じます。(学部生・男) ・テープ起こし作業をするようになったせいか、「障害」のことに関心が向くことが多くなりました。(学部生・男) ・法科大学院では、自分の課題で精一杯になりがちですが、このような身近な人を支える活動は、心の余裕を生むものだと感じました。 (院生・女) ・第一に、支援の存在を多くの人に知ってもらうことが大事だと思います。また、参加しやすい環境作りも、とても重要だと思います。 (院生・男) 今後の支援のあり方 障害をもつ学生と障害のない学生が一緒に学習・研究を行うためには、法学政治学研究科やバリアフリー支援室が行う支援のみならず、障害をもつ学生自身、他の学生、教員、職員など、関係する全ての人々が出来る範囲での協力をすることが大切です。そのことによって初めて、皆にとっての生活しやすい環境が実現するのではないかと考えています。