○東京大学憲章
平成15年3月18日
目次
前文
T 学術
1 学術の基本目標
2 教育の目標
3 教育システム
4 教育評価
5 教育の国際化と社会連携
6 研究の理念
7 研究の多様性
8 研究の連携
9 研究成果の社会還元
U 組織
10 基本理念としての大学の自治
11 総長の統括と責務
12 大学の構成員の責務
13 基本組織の自治と責務
14 人事の自律性
V 運営
15 運営の基本目標
16 財務の基本構造
17 教育・研究環境の整備
18 学術情報と情報公開
19 基本的人権の尊重
W 憲章の意義
20 憲章の意義
X 憲章の改正
21 憲章の改正
附則
前文
21世紀に入り、人類は、国家を超えた地球大の交わりが飛躍的に強まる時代を迎えている。日本もまた、世界に自らを開きつつ、その特質を発揮して人類文明に貢献することが求められている。東京大学は、この新しい世紀に際して、世界の公共性に奉仕する大学として、文字どおり「世界の東京大学」となることが、日本国民からの付託に応えて日本社会に寄与する道であるとの確信に立ち、国籍、民族、言語等のあらゆる境を超えた人類普遍の真理と真実を追究し、世界の平和と人類の福祉、人類と自然の共存、安全な環境の創造、諸地域の均衡のとれた持続的な発展、科学・技術の進歩、および文化の批判的継承と創造に、その教育・研究を通じて貢献することを、あらためて決意する。この使命の達成に向けて新しい時代を切り拓こうとするこの時、東京大学は、その依って立つべき理念と目標を明らかにするために、東京大学憲章を制定する。
東京大学は、1877年に創設された、日本で最も長い歴史をもつ大学であり、日本を代表する大学として、近代日本国家の発展に貢献してきた。第二次世界大戦後の1949年、日本国憲法の下での教育改革に際し、それまでの歴史から学び、負の遺産を清算して平和的、民主的な国家社会の形成に寄与する新制大学として再出発を期して以来、東京大学は、社会の要請に応え、科学・技術の飛躍的な展開に寄与しながら、先進的に教育・研究の体制を構築し、改革を進めることに努めてきた。
今、東京大学は、創立期、戦後改革の時代につぐ、国立大学法人化を伴う第三の大きな展開期を迎え、より自由にして自律性を発揮することができる新たな地位を求めている。これとともに、東京大学は、これまでの蓄積をふまえつつ、世界的な水準での学問研究の牽引力であること、あわせて公正な社会の実現、科学・技術の進歩と文化の創造に貢献する、世界的視野をもった市民的エリートが育つ場であることをあらためて目指す。ここにおいて、教職員が一体となって大学の運営に力を発揮できるようにすることは、東京大学の新たな飛躍にとって必須の課題である。
大学は、人間の可能性の限りない発展に対してたえず開かれた構造をもつべき学術の根源的性格に由来して、その自由と自律性を必要としている。同時に科学・技術のめざましい進展は、それ自体として高度の倫理性と社会性をその担い手に求めている。また、知があらゆる領域で決定的な意味をもつ社会の到来により、大学外における知を創造する場との連携は、大学における教育・研究の発展にますます大きな意味をもちつつある。このような観点から、東京大学は、その自治と自律を希求するとともに、世界に向かって自らを開き、その研究成果を積極的に社会に還元しつつ、同時に社会の要請に応える研究活動を創造して、大学と社会の双方向的な連携を推進する。
東京大学は、国民と社会から付託された資源を最も有効に活用し、たえず自己革新を行って、世界的水準の教育・研究を実現していくために、大学としての自己決定を重視するとともに、その決定と実践を厳しい社会の評価にさらさなければならない。東京大学は、自らへの評価と批判を願って活動の全容を公開し、広く世界の要請に的確に対応して、自らを変え、また、所与のシステムを変革する発展経路を弛むことなく追求し、世界における学術と知の創造・交流そして発展に貢献する。
東京大学は、その組織と活動における国際性を高め、世界の諸地域を深く理解し、また、真理と平和を希求する教育・研究を促進する。東京大学は、自らがアジアに位置する日本の大学であることを不断に自覚し、日本に蓄積された学問研究の特質を活かしてアジアとの連携をいっそう強め、世界諸地域との相互交流を推進する。
東京大学は、構成員の多様性が本質的に重要な意味をもつことを認識し、すべての構成員が国籍、性別、年齢、言語、宗教、政治上その他の意見、出身、財産、門地その他の地位、婚姻上の地位、家庭における地位、障害、疾患、経歴等の事由によって差別されることのないことを保障し、広く大学の活動に参画する機会をもつことができるように努める。
日本と世界の未来を担う世代のために、また真理への志をもつ人々のために、最善の条件と環境を用意し、世界に開かれ、かつ、差別から自由な知的探求の空間を構築することは、東京大学としての喜びに満ちた仕事である。ここに知の共同体としての東京大学は、自らに与えられた使命と課題を達成するために、以下に定める東京大学憲章に依り、すべての構成員の力をあわせて前進することを誓う。
T 学術
1 (学術の基本目標) 東京大学は、学問の自由に基づき、真理の探究と知の創造を求め、世界最高水準の教育・研究を維持・発展させることを目標とする。研究が社会に及ぼす影響を深く自覚し、社会のダイナミズムに対応して広く社会との連携を確保し、人類の発展に貢献することに努める。東京大学は、創立以来の学問的蓄積を教育によって社会に還元するとともに、国際的に教育・研究を展開し、世界と交流する。
2 (教育の目標) 東京大学は、東京大学で学ぶに相応しい資質を有するすべての者に門戸を開き、広い視野を有するとともに高度の専門的知識と理解力、洞察力、実践力、想像力を兼ね備え、かつ、国際性と開拓者的精神をもった、各分野の指導的人格を養成する。このために東京大学は、学生の個性と学習する権利を尊重しつつ、世界最高水準の教育を追求する。
3 (教育システム) 東京大学は、学部教育において、幅広いリベラル・アーツ教育を基礎とし、多様な専門教育と有機的に結合する柔軟なシステムを実現し、かつ、その弛まぬ改善に努める。大学院教育においては、多様な専門分野に展開する研究科、附置研究所等を有する総合大学の特性を活かし、研究者および高度専門職業人の養成のために広範な高度専門教育システムを実現する。
東京大学の教員は、それぞれの学術分野における第一線の研究者として、その経験と実績を体系的に教育に反映するものとする。また、東京大学は、すべての学生に最善の学習環境を提供し、学ぶことへの障壁を除去するため、人的かつ経済的な支援体制を整備することに努める。
4 (教育評価) 東京大学は、学生の学習活動に対して世界最高水準の教育を目指す立場から、厳格にして適切な成績評価を行う。
東京大学は、教員の教育活動および広く教育の諸条件について自ら点検するとともに、学生および適切な第三者からの評価を受け、その評価を教育目標の達成に速やかに反映させる。
5 (教育の国際化と社会連携) 東京大学は、世界に開かれた大学として、世界の諸地域から学生および教員を迎え入れるとともに、東京大学の学生および教員を世界に送り出し、教育における国際的ネットワークを構築する。
東京大学は、学術の発展に寄与する者を養成するとともに、高度専門職業教育や社会人再教育など社会の要請に応じて社会と連携する教育を積極的に進める。
6 (研究の理念) 東京大学は、真理を探究し、知を創造しようとする構成員の多様にして、自主的かつ創造的な研究活動を尊び、世界最高水準の研究を追求する。
東京大学は、研究が人類の平和と福祉の発展に資するべきものであることを認識し、研究の方法および内容をたえず自省する。東京大学は、研究活動を自ら点検し、これを社会に開示するとともに、適切な第三者からの評価を受け、説明責任を果たす。
7 (研究の多様性) 東京大学は、研究の体系化と継承を尊重しつつ学問分野の発展を目指すとともに、萌芽的な研究や未踏の研究分野の開拓に積極的に取り組む。また、東京大学は、広い分野にまたがった学際的な研究課題に対して、総合大学の特性を活かして組織および個人の多様な関わりを作り出し、学の融合を通じて新たな学問分野の創造を目指す。
8 (研究の連携) 東京大学は、社会・経済のダイナミックな変動に対応できるように組織の柔軟性を保持し、大学を超えて外部の知的生産と協働する。また、東京大学は、研究の連携を大学や国境を超えて発展させ、世界を視野に入れたネットワーク型研究の牽引車の役割を果たす。
9 (研究成果の社会還元) 東京大学は、研究成果を社会に還元するについて、成果を短絡的に求めるのではなく、永続的、普遍的な学術の体系化に繋げることを目指し、また、社会と連携する研究を基礎研究に反映させる。
東京大学は、教育を通じて研究成果を社会に還元するため、最先端の研究成果を教育に活かすとともに、これによって次の世代の研究者を育成する。
U 組織
10 (基本理念としての大学の自治) 東京大学は、大学の自治が、いかなる利害からも自由に知の創造と発展を通じて広く人類社会へ貢献するため、国民からとくに付託されたものであることを自覚し、不断の自己点検に努めるとともに、付託に伴う責務を自律的に果たす。
11 (総長の統括と責務) 東京大学は、総長の統括と責任の下に、教育・研究および経営の両面にわたって構成員の円滑かつ総合的な合意形成に配慮しつつ、効果的かつ機動的な運営を目指す。東京大学は、広く社会の多様な意見をその運営に反映させるよう努める。
12 (大学の構成員の責務) 東京大学を構成する教職員および学生は、その役割と活動領域に応じて、運営への参画の機会を有するとともに、それぞれの責任を自覚し、東京大学の目標の達成に努める。
13 (基本組織の自治と責務) 東京大学の学部、研究科、附置研究所等は、自律的運営の基本組織として大学全体の運営に対する参画の機会を公平に有するとともに、全学の教育・研究体制の発展を目的とする根本的自己変革の可能性を含め、総合大学としての視野に立った大学運営に積極的に参与する責務を負う。
14 (人事の自律性) 大学の自治の根幹が人事の自律性にあることにかんがみ、総長、副学長、学部長、研究科長、研究所長および教員ならびに職員等の人事は、東京大学自身が、公正な評価に基づき、自律的にこれを行う。基本組織の長および教員の人事は、各基本組織の議を経て、これを行う。
V 運営
15 (運営の基本目標) 東京大学は、国民から付託された資源を、計画的かつ適切に活用することによって、世界最高水準の教育・研究を維持・発展させ、その成果を社会へ還元する。そのために公正で透明な意思決定による財務計画のもとで、教育・研究環境ならびに学術情報および医療提供の体制の整備を図る。
16 (財務の基本構造) 東京大学は、その教育・研究活動を支え、発展させるために必要な基盤的経費および施設整備の維持拡充を可能とする経費が国民から付託されたものであることを自覚し、この資源を適正に管理し、かつ、最大限有効に活用するとともに、大学の本来の使命に背馳しない限りにおいて、特定の教育・研究上の必要に応じて、国、公共団体、公益団体、民間企業および個人からの外部資金を積極的に受け入れる。
17 (教育・研究環境の整備) 東京大学は、教育・研究活動の発展と変化に柔軟に対応しつつ、常に全学的な視点から、教育・研究活動を促進し、構成員の福利を充実するために、各キャンパスの土地利用と施設整備を図る。また、心身の健康支援、バリアフリーのための人的・物的支援、安全・衛生の確保、ならびに環境および景観の保全など、構成員のために教育・研究環境の整備を行うとともに、地域社会の一員としての守るべき責務を果たす。
18 (学術情報と情報公開) 東京大学は、図書館等の情報関連施設を全学的視点で整備し、教育・研究活動に必要な学術情報を体系的に収集、保存、整理し、構成員に対して、その必要に応じた適正な配慮の下に、等しく情報の利用手段を保障し、また広く社会に発信することに努める。
東京大学は、自らの保有する情報を積極的に公開し、情報の利用に関しては、高い倫理規範を自らに課すとともに、個人情報の保護を図る。
19 (基本的人権の尊重) 東京大学は、基本的人権を尊重し、国籍、信条、性別、障害、門地等の事由による不当な差別と抑圧を排除するとともに、すべての構成員がその個性と能力を十全に発揮しうるよう、公正な教育・研究・労働環境の整備を図る。
東京大学は、男女が均等に大学運営の責任を担う共同参画の実現を図る。
W 憲章の意義
20 (憲章の意義) 本憲章は、東京大学の組織・運営に関する基本原則であり、東京大学に関する法令の規定は、本憲章に基づいてこれを解釈し、運用するようにしなければならない。
X 憲章の改正
21 (憲章の改正) 本憲章の改正は、別に定める手続により、総長がこれを行う。
附 則
この憲章は、平成15年3月18日から施行する。