「明日の東京大学-危機に立つ財政」(説明会)質疑応答まとめ

| 総長室からインデックスへ |

「明日の東京大学-危機に立つ財政」(説明会)質疑応答まとめ

 

 
 濱田総長と前田理事の説明に続いて、会場の参加者との質疑応答が行われました。その模様を一部紹介します。なお、用語の簡単な解説や関連ホームページへのリンクも追加しましたので併せてご覧ください。

質問1

 
  教員: 若手研究者対象の研究費が今後削減されるのではないかと心配しています。  
       
  前田理事: 科学研究費補助金では若手研究(S)(※)がなくなるなど、システムが頻繁に変更されています。日本学術振興会の特別研究員制度も事業仕分けの対象とされています。また、国立大学法人の人件費が毎年削減されている影響で、若手、特に助教のポストが減ってきています。これも若い研究者にとって不安な要素だと思います。このような状況の中で、どうすれば安心して研究が行える環境が整えられるか考えているところです。  
   

※日本学術振興会が平成21年度まで交付していた若手対象の研究費

http://www.jsps.go.jp/j-grantsinaid/19_startup/koubo.html

 
       
  濱田総長: 科学研究費補助金は、使いやすくすることも大事です。例えば、基金化が可能になれば、研究費を複数年度にまたがって使えるようになり、より効率的で満足が得られる使い方ができると思います。  

質問2

 
  教員: 政策コンテストでは、大学の現状を国民に発信して後押ししてもらうことが必要になると思います。具体的な取り組みを考えていますか?  
       
  濱田総長: 国民にわかりやすく伝えるためにメッセージの発信の工夫をしたいと思います。例えばホームページを充実させて研究内容の説明をする努力を続けます。同時に、メッセージを受け取る側の学術についてのリテラシーを日本全体でどのように育てていくか、ということにも目を向ける必要があると考えています。  

質問3

 
  教員: 科学研究費補助金は、研究の基盤を支えています。しかしそのことは研究者ではない人には実感できないと思います。基盤的な研究の重要性をもっと広く発信してもらいたいです。  
       
  濱田総長: それはぜひみなさんからも発信していただきたいです。  
       
  前田理事: 過去の重要な発見の基盤となった研究は、科学研究費補助金の支援を受けていました。基盤的経費の重要性は、RU11(※)などの場で、他の大学の仲間たちと一緒に訴えていきたいと考えています。  
   

※学術研究懇談会の略称。北海道大学、東北大学、筑波大学、東京大学、早稲田大学、慶應義塾、東京工業大学、名古屋大学、京都大学、大阪大学及び九州大学が参加。学術研究等をめぐる諸課題について懇談を行っている。

 

質問4

 
  学生: 財政が今後も悪化していくことが予想されますが、授業料を値上げして賄うことについてどう考えていますか?  
       
  前田理事: 授業料だけではとても賄えません。東京大学の運営費交付金(※)は約800億円です。そのうち、授業料収入等は約160億円です。授業料についてはルールが定められており、20%までは国立大学法人の裁量で値上げすることができます。しかし、たとえば10%値上げしたとしても16億円です。対して、来年度の予想削減額が90億円くらいなのです。また、私個人的な考えでは、教育の機会均等のための用意を十分に整備しないと、授業料の改訂は難しいと考えています。  
   

※国との間で合意された中期目標・中期計画に記載された事業が確実に実施できるよう、国が各国立大学法人に対し、毎事業年度交付する運営費のこと。本学の年間収入の大部分を占める。

 
       
  濱田総長: 授業料の問題は、財政的な問題だけにとどまらず、高等教育自体をどう考えるか、ということにも関わっています。高等教育にかかる負担をどこが負うのかということをきちんと議論していかなければなりません。単にお金が足りないから授業料で賄うということはできません。授業料免除、奨学金とセットにして、大きな枠組みの中で考えたいと思っています。  

質問5

 
  学生: 財政が縮小する中、行動シナリオを推進していくための具体的な方策はあるのでしょうか?  
       
  前田理事: みなさんと一緒に考えたいと思います。運営費交付金は減っていますが、大学の総予算は僅かですが増えています。また一方、科学研究費補助金などの研究費には間接経費(※)が措置されています。しかし、これも次の世代を育てるための基盤的経費とするためには増額が必要でしょう。たとえば学寮についてですが、現在寮費は非常に低額なためメンテナンスが行えない状態なので、入居者の方にはもう少し辛抱していただきたい。今後は寮費が民間と同額くらいで、クオリティが高く、キャンパスからも近く学生さんにとって魅力的な学寮が提供できると考えています。キャンパス計画はみなさんと共に考えていきたいと思っています。  
   

※競争的資金や受託・共同研究費、寄附金等を獲得した研究者・研究グループが属する機関に対して、研究環境を維持・向上させるために配分される経費のこと。研究機関にとって、持続的運営の基盤となる不可欠な経費である。

 
       
  濱田総長: 東京大学はやるべきことはやるという姿勢を大事にしていきます。今大事なことは、大学に投資をすれば国や国民の富となって還元されるというサイクルを絶やさないようにすることです。そのために研究開発力・教育力のある大学は今、頑張らなくてはなりません。  

質問6

 
  職員: 学生のクオリティが落ちているように感じています。よい学生を育てて世の中へ出していけば予算も増えるのではないでしょうか。  
       
  濱田総長: 何かをすれば直ぐ効果が表れるわけではないと思います。手をかけなくても育つ学生もいるし、手をかけたことによって伸びる学生もいます。工夫の余地はまだまだあるのではないでしょうか。  

質問7

 
  職員: 大学院重点化に伴い、大学院学生の数が増加しています。その中で、他大学に入学できなかった学生が本学に入学するというケースがあると耳にしたことがあります。入学が簡単なのはよいことではないと思います。  
       
  濱田総長: これまでより成績が悪くなったかどうかはともかく、いろんな学生が大学院に入学するようになったのは事実でしょう。学部教育で受けた知識が不十分であれば、補講や学部での教育も必要でしょう。試験の成績はそれほどではなくても、研究で力を発揮できる学生がいるかもしれません。画一的な教育システムではなく、多様な教育の仕組みを作る必要があります。そうなると教員の時間も割くことになるので、教員へのサポートを工夫することも必要になるでしょう。  

質問8

 
  職員: プロフェッショナルな職員(※)とはどういった姿なのか、どういう方向に進めばよいのか、どのように作り上げていくものか教えてください。  
   

※行動シナリオの中の重点テーマの一つ。(行動シナリオパンフレット16ページ参照)

http://www.u-tokyo.ac.jp/scenario/ (パンフレットは、ページ右下からダウンロードできます)

 
       
  濱田総長: 自分の専門を持ってください。そして他の人と一緒になって専門を深めてください。狭い領域でこれが得意というだけでなく、他の人とのコミュニケーションを取りながらその専門を利用し広げていくのがプロだと思います。  
       
  前田理事: あなたの周りにも尊敬できる先輩は多いと思います。私は、職員・教員を問わず対等に話ができる人、尊敬できる人と仕事をしたいと思っています。大学は教員だけのものではなく、学生・教員・職員という全構成員で担っています。その中で職員が担うプロフェッショナルな仕事は幅広くあると思います。ひとつの仕事は5年くらいしないとものにならないので、ある程度時間をかけて作り上げるような環境整備を行いたいと思います。また、他の国立大学・私立大学・海外の大学・一般企業の経営を見ることも必要だと考えます。是非、教員に負けずに論争のできる職員になってください。  

質問9

 
  学生: 「『タフな東大生』の育成」(※)の取組一覧を読みましたが、本当にこれでタフな東大生が育成できるのか疑問です。私は、他の大学の学生に「東大生はプレゼン・説明能力が不足している」と、きつく言われたことがあります。学生の実態に合った取り組みを行うために、学生の声を取り入れてほしいです。  
   

※行動シナリオの中の重点テーマの一つ。(行動シナリオパンフレット14ページ参照)

http://www.u-tokyo.ac.jp/scenario/ (パンフレットは、ページ右下からダウンロードできます)

 
       
  濱田総長: 是非、学生の声を聞かせてもらいたいです。今行っているプロジェクトのいくつかは、学生の声を反映しながら動かしています。ALESS(※)を受けたことはありますか?  
   

※教養学部の理系学生を対象とした英語の能動的学習を行うプログラム。教員は英語のネイティブ・スピーカーで、ひとクラスの学生数が平均15人。

淡青24号で特集しています。

http://www.u-tokyo.ac.jp/gen03/tansei_j.html (「ALESS ─英語を『当たり前の言語』とするために」)

 
       
  学生: 日本語でもまだ満足に論文を書いたり、プレゼンしたりできないのに、何故英語?と感じています。また、ALESSは授業のやりかたが毎年変わっており、教育の仕方がまだ定まっていないのではないかと感じます。  
       
  濱田総長: ALESSは始まったばかりなので、試行錯誤の部分もあるのかもしれませんね。何かひとつのことをやればタフになれるということはありません。結局は場数を踏むということが大切です。他大学の学生と議論したり、アルバイトをしたりいろいろな経験の積み重ねによって鍛えられると思います。外国に出ることによって自分の言葉が通じないという経験もそうです。私たちは試行錯誤を続けながらそういう場を増やすことで、みなさんが何かを見つける機会、衝撃を受ける機会を増やしたいと思います。  
       
  前田理事: 教員も学生に育てられることがよくあります。ぜひ、今日のように質問をたくさん投げかけて、教員を鍛えてください。  

質問10

 
  学生: 奨学金を必要としている学生はとても多いと思いますが、予算が厳しくなる中で東大は奨学金や授業料免除についてどのように取組むのでしょうか?  
       
  前田理事: 東大としてやるべきことはどんな情勢でもやります。本学では、学生・大学院生に授業料免除を含めた奨学制度として23億円を用意しています。国が用意しているものより遥かに大きいです。できる限りの支援を行いたいと考えています。  

質問11

 
  学生: 行動シナリオの中に、女性や外国人の学生を増やすという目標がありますが、どのような方法で実現するのでしょうか?入試で優遇措置をとったりするのでしょうか?  
       
  濱田総長: みなと同じ土俵で競ってもらうのが大原則ですので、例えば女性枠や外国人枠を作って入試で優遇することは考えていません。入学者数を増やすためには、女性や外国人へもっとアピールしなければいけないと思います。例えば、「東京大学が女性のキャリアにとってこういうふうに意味があるのだ」、「東京大学はこんなに女子学生を求めているのだ」、など、女子高校生にはっきりメッセージを出していくことを考えています。外国人についても分野によっては、もっと東大の良さをアピールする余地があると思っています。  
       
  前田理事: 女子高校生の受験者数が頭打ちになっています。まずは入試を受けていただかなければ始まりません。みなさんからも東大のよさを後輩に伝えてください。  

質問12

 
  職員: 私の職場では留学生用の宿舎不足が大きな問題となっています。借り上げ宿舎の整備をしてほしいです。  
       
  前田理事: 宿舎は、借り上げ、建築も含めてなるべく早く数を用意したいと考えています。  
       

閉会の言葉

 
  濱田総長: 本日はお集まりくださりありがとうございました。私は、これまでの東京大学を全体にわたって見直して、良いものは残し悪いものは改善していきたいと思っています。それにはしっかりした議論が必要ですので、また折をみて、みなさんが思っていることを気楽に言える場を用意したいと思います。  

 

アクセス・キャンパスマップ
閉じる
柏キャンパス
閉じる
本郷キャンパス
閉じる
駒場キャンパス
閉じる