前文

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21世紀に入り、人類は、国家を超えた地球大の交わりが飛躍的に強まる時代を迎えている。

日本もまた、世界に自らを開きつつ、その特質を発揮して人類文明に貢献することが求められている。東京大学は、この新しい世紀に際して、世界の公共性に奉仕する大学として、文字どおり「世界の東京大学」となることが、日本国民からの付託に応えて日本社会に寄与する道であるとの確信に立ち、国籍、民族、言語等のあらゆる境を超えた人類普遍の真理と真実を追究し、世界の平和と人類の福祉、人類と自然の共存、安全な環境の創造、諸地域の均衡のとれた持続的な発展、科学・技術の進歩、および文化の批判的継承と創造に、その教育・研究を通じて貢献することを、あらためて決意する。この使命の達成に向けて新しい時代を切り拓こうとするこの時、東京大学は、その依って立つべき理念と目標を明らかにするために、東京大学憲章を制定する。

東京大学は、1877年に創設された、日本で最も長い歴史をもつ大学であり、日本を代表する大学として、近代日本国家の発展に貢献してきた。第二次世界大戦後の1949年、日本国憲法の下での教育改革に際し、それまでの歴史から学び、負の遺産を清算して平和的、民主的な国家社会の形成に寄与する新制大学として再出発を期して以来、東京大学は、社会の要請に応え、科学・技術の飛躍的な展開に寄与しながら、先進的に教育・研究の体制を構築し、改革を進めることに努めてきた。

今、東京大学は、創立期、戦後改革の時代につぐ、国立大学法人化を伴う第三の大きな展開期を迎え、より自由にして自律性を発揮することができる新たな地位を求めている。これとともに、東京大学は、これまでの蓄積をふまえつつ、世界的な水準での学問研究の牽引力であること、あわせて公正な社会の実現、科学・技術の進歩と文化の創造に貢献する、世界的視野をもった市民的エリートが育つ場であることをあらためて目指す。ここにおいて、教職員が一体となって大学の運営に力を発揮できるようにすることは、東京大学の新たな飛躍にとって必須の課題である。

大学は、人間の可能性の限りない発展に対してたえず開かれた構造をもつべき学術の根源的性格に由来して、その自由と自律性を必要としている。同時に科学・技術のめざましい進展は、それ自体として高度の倫理性と社会性をその担い手に求めている。また、知があらゆる領域で決定的な意味をもつ社会の到来により、大学外における知を創造する場との連携は、大学における教育・研究の発展にますます大きな意味をもちつつある。このような観点から、東京大学は、その自治と自律を希求するとともに、世界に向かって自らを開き、その研究成果を積極的に社会に還元しつつ、同時に社会の要請に応える研究活動を創造して、大学と社会の双方向的な連携を推進する。

東京大学は、国民と社会から付託された資源を最も有効に活用し、たえず自己革新を行って、世界的水準の教育・研究を実現していくために、大学としての自己決定を重視するとともに、その決定と実践を厳しい社会の評価にさらさなければならない。東京大学は、自らへの評価と批判を願って活動の全容を公開し、広く世界の要請に的確に対応して、自らを変え、また、所与のシステムを変革する発展経路を弛むことなく追求し、世界における学術と知の創造・交流そして発展に貢献する。

東京大学は、その組織と活動における国際性を高め、世界の諸地域を深く理解し、また、真理と平和を希求する教育・研究を促進する。東京大学は、自らがアジアに位置する日本の大学であることを不断に自覚し、日本に蓄積された学問研究の特質を活かしてアジアとの連携をいっそう強め、世界諸地域との相互交流を推進する。

東京大学は、構成員の多様性が本質的に重要な意味をもつことを認識し、すべての構成員が国籍、性別、年齢、言語、宗教、政治上その他の意見、出身、財産、門地その他の地位、婚姻上の地位、家庭における地位、障害、疾患、経歴等の事由によって差別されることのないことを保障し、広く大学の活動に参画する機会をもつことができるように努める。

日本と世界の未来を担う世代のために、また真理への志をもつ人々のために、最善の条件と環境を用意し、世界に開かれ、かつ、差別から自由な知的探求の空間を構築することは、東京大学としての喜びに満ちた仕事である。ここに知の共同体としての東京大学は、自らに与えられた使命と課題を達成するために、以下に定める東京大学憲章に依り、すべての構成員の力をあわせて前進することを誓う。

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