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ロシア国立歴史文書館長らを招聘して、2週連続「日露関係史料をめぐる国際研究集会」を開催

掲載日:2018年6月1日

実施日: 2018年05月21日 ~ 2018年05月28日

 5月21・28日(月)の両日、日本学士院(塩野宏院長)と共催による「日露関係史料をめぐる国際研究集会1・2」を2週連続で開催しました。
 史料編纂所では、ロシアに所在する日本関係史料の系統的な調査・研究と収集に取り組み、現地の研究機関と協力して国際研究集会や共同研究を継続しています。今回は2週連続の取組となり、ロシアの旧都サンクトペテルブルクから計4名の研究者を招聘してロシアの文書館が所蔵する史料群に基づいた報告などをお願いしました。
 5月21日(月)の研究集会では、3本の報告が行われ、全国から約50名の専門研究者が参加しました。まず、プロジェクトリーダーでもある史料編纂所保谷徹所長が挨拶に立ち、この国際研究集会が通算18回目となったこと、昨年冬に『ロシア国立海軍文書館所蔵日本関係史料解説目録2』が刊行されたこと、今回「ロシア国立歴史文書館所蔵史料解説目録(財務省フォンド、1201項目)」を受理したことを報告しました。
 第1報告では、ロシア科学アカデミー東洋古籍文献研究所ワジム・クリモフ上級研究員から、「日露関係のなかで成立しなかったことの歴史から―レザノフ使節がもたらし日本人が受取らなかったロシアの贈り物―」と題し、1804年に来航したロシア使節レザノフが、将軍宛に持参した贈り物、とくに「象のからくり時計」を中心に報告がありました。金メッキされ、鼻や尻尾を時報とともに動かすこの「象」時計は、英国の著名な宝石工芸職人ジェームズ・コックスの作でした。時計は、キングストン公妃からポチョムキン公爵を経て、エルミタージュの蒐集品となります。クリモフ研究員は、この時計に関するさまざまな史料記事を取り上げ、将軍が受け取りを拒否し、ロシアへ持ち帰った過程を検討しました。ロシア皇帝の宝物であった「象」時計は、1817年、ペルシャの王ファテ・アリ・シャーへ贈られたといいます。贈り物の使いまわしでした。当日は、この同じ職人が作ったというエルミタージュの孔雀時計の映像が流され、会場内にどよめきを生みました。
 第2報告はロシア国立海軍文書館ワレンチン・スミルノフ館長でした。報告は「『日本の諸港に来るロシアの軍艦は皆この国が友好国だと感じる‥』(明治期の日露関係エピソードの数々)」と題し、1861年ポサドニック号事件以後のロシア太平洋分艦隊の動向を、日本を訪れた艦隊司令官との関係で描いたもの。ロシア国立海軍文書館が所蔵する太平洋艦隊のフォンドから、関係史料を丹念に紹介していただきました。
 第3報告は、ロシア国立歴史文書館セルゲイ・チェルニャフスキー館長による「天皇睦仁に関する情報(ロシア国立歴史文書館所蔵文書より)」でした。同館が所蔵するロシア財務省文書のフォンドに、外務省から写しで回された駐日外交官の報告書などが含まれ、明治天皇の死亡情報などを伝えていました。
 研究集会に先立ち、3人の招へい者は、日本学士院を訪問し、塩野宏院長・斯波義信会員と懇談する機会を得ました。研究集会の翌日から報告者らは広島へ出張し、広島県立歴史博物館(福山市)において、第1報告にあった「レザノフ屛風」(同館寄託資料)の調査・見学をおこないました。また、広島平和記念資料館をはじめ、ロシアゆかりの史跡を見学しています。お世話になったみなさまには感謝したいと思います。
 5月28日に開催された2週目の研究会(通算19回目)にも、札幌・大阪を含む各地の専門研究者50名以上が参加しました。当日は、研究代表者の保谷徹(所長)から、開会の挨拶ののち、「在外日本関係史料の調査事業とロシアにおける日本コレクション」と題し、史料編纂所における海外史料調査の歴史について報告をおこないました。とくに、サハリンアイヌとの交易帳簿を筆頭に、武器・武具や日用品、大砲、縄張り図などの図面類、そして松前藩の史料など、ロシア調査で次々と「発見」された日露間の北方紛争招来品について紹介し、こうしたコレクションの形成史について研究がまとまることへの期待を述べました。次に、東洋古籍文献研究所ワシーリー・シェプキン上級研究員から、「長崎に限らない―近世日本古典籍がロシアに渡った経緯について―」と題した報告がおこなわれました。報告では、大黒屋光太夫やシュトゥッツェルのコレクションを皮切りに、古籍文献研究所(旧東洋学研究所、その前身はピョートル大帝が設立したアジア博物館)が所蔵する古典籍コレクションについて、ロシア側に残る史料や目録を紹介しつつその形成過程を詳細に論じてみせました。その結果、近世日本コレクションの多くが、北方での紛争(フヴォストフ事件)を通じ、露米会社を介し、あるいは海軍局の収集活動によってサンクトペテルブルクへもたらされたものであることが明らかになりました。コメントにたった北海道大学谷本晃久教授から、この形成過程を図式化した詳細な見取り図が画像で紹介され、会場内を沸かせています。また、同じくコメントにたったワジム・クリモフ上級研究員から、1850年代以降のコレクションもまた、旧都サンクトペテルブルクの各機関に分散して所蔵されているものがあることが指摘されました。活発な議論があり、充実した研究会となりました。
 



開催看板の前で記念写真

国際研究集会(1)会場の様子

国際研究集会(2)報告するシェプキン上級研究員
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