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国際ワークショップ "The Shifting Dynamics of the U.S.-Japan Alliance" 開催報告

掲載日:2016年7月25日

実施日: 2016年06月15日 ~ 2016年06月16日

東京大学政策ビジョン研究センター安全保障研究ユニット(SSU)は、プリンストン大学、ダートマス大学、国際文化会館との協力の下、「Alliance in Today's World(今日の世界における同盟)」をテーマに国際ワークショップを開催した。本ワークショップは、2016年6月15日~16日の二日間に亘って国際文化会館(東京・六本木)で開催され、4つの非公開セッションと1つの公開セッションが行われた。なお、本ワークショップの開催は、外務省の外交・安全保障調査研究事業費補助金によって実現したものである。

Photos: Izawa Hiroyuki
 

CLOSED SESSIONS

開会にあたり、藤原帰一安全保障研究ユニット長(東京大学大学院法学政治学研究科教授)が挨拶を行い、遠方からお越しの方をはじめ、ワークショップの参加者に対して感謝の言葉を述べた。続けて、藤原教授は、今回のワークショップのテーマである「同盟」について説明を行った。一般的に日本では、同盟というと、それをなくしては安定が望めない地域を安定させる効果があることから、国際的な政治問題の解決策として概念化されるか、それとは逆に、日本が戦争に巻き込まれるリスクを孕む問題として受け止められている。両者の立場は、昨年の憲法改正論議で生じた内の政治的対立にも大きく反映された。しかし、このような二項対立の構図は、いくぶん単純すぎるきらいがある。実際には、同盟には両方の要素が含まれ、リスクと機会は複雑に絡み合っているからである。

続いて、プリンストン大学のジョン・アイケンベリー教授が挨拶を行い、この歴史的節目にあって、現在、グローバル・地域・国内レベルで揺らいでいる日米同盟の本質を探ることの重要性を強調した。そして、本ワークショップが日米同盟を従来とは少し異なる角度から理解しようと試みること、域内の変化を中心に、より変化に視点を置いて捉えること、さらに、そうして得た見解を政策立案者に報告する方法を探ることによって、日米同盟の問題点を解き明かすことになるであろうと期待を述べた。

また、ダートマス大学のマイケル・マスタンドゥーノ教授は、今回のワークショップの趣旨を高く評価した上で、これまでに日米の国際政治学者によって開催された会議を1960年代初頭にまで遡って紹介した。こうした会議は、今回がそうであるように、過渡期に行われる傾向がある。確かに、ここ数十年の中でも熾烈を極める大統領選が繰り広げられていることを踏まえ、米国の国内政治の様相が急速に変化していることは明白である。しかし、日本も状況は同じであり、中国をはじめ東アジア各国も同様であることはいうまでもない。

これらのスピーチに続き、参加者が自己紹介を行い、セッションが開始された。なお、各参加者の報告は事前に配布された資料に基づいて行われた。
 

セッションI : Alliance in Time of Global Changes(世界的な過渡期における同盟)

モデレーター: ジョン・アイケンベリー(プリンストン大学教授)
パネリスト: ヴィクター・D・チャ(ジョージタウン大学教授)
藤原帰一(東京大学教授)
ジェニファー・M・リンド(ダートマス大学准教授)


セッションII:Regional Contention and Alliance Politics(域内の対立と同盟の政治)

モデレーター: マイケル・マスタンドゥーノ(ダートマス大学教授)
パネリスト: ウィリアム・グライムス(ボストン大学教授)
高原明生(東京大学教授)

セッションIII:Domestic Politics and Alliance Politics(国内の政治と同盟の政治)

モデレーター: 藤原帰一(東京大学教授)
パネリスト: 五百旗頭薫(東京大学教授)
ピーター・トゥルボウィッツ(ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)教授)
久保文明(東京大学教授)、デイビッド・レーニー(プリンストン大学教授)


セッションIV:A Globalizing Alliance?(グローバル化する同盟?)

モデレーター: 高原明生(東京大学教授)
パネリスト: 細谷雄一(慶應義塾大学教授)
植木(川勝)千可子(早稲田大学教授)
ジェフリー・W・レグロ(ヴァージニア大学教授)

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公開セッション:The Shifting Dynamics of the US-Japan Alliance(日米同盟のダイナミクスの変化)

公開セッションの司会は、安全保障研究ユニット長を務める東京大学法学政治学研究科の藤原帰一教授が務めた。またパネリストとして、ジョージタウン大学のヴィクター・D・チャ教授、プリンストン大学のG・ジョン・アイケンベリー教授、ダートマス大学のマイケル・マスタンドゥーノ教授、慶應義塾大学の細谷雄一教授が参加した。

藤原教授は、セッションの開始にあたり、参加者およびパネリストに対して、またこの度のイベント開催にご協力いただいた国際文化会館および外務省に対して感謝の言葉を述べた。続けて、各登壇者を紹介した後、テーマである日米同盟について簡単な紹介を行った。日米同盟に関しては、日本のマスメディアの論調は二極化の傾向がある。すなわち、日米同盟の強化による「巻き込まれる恐怖」と日米同盟の弱体化による「見捨てられる恐怖」である。しかし、今回のワークショップでは、この問題の複雑さを捉える別のアプローチが紹介されている。藤原教授は、各パネリストに発表を求めた。

チャ教授は、東アジア地域における中国の台頭によって、周辺諸国はある範囲内の選択肢の中で戦略的な判断をしなければならないとの見解を述べた。その範囲を決めるのは二つの重大要素、すなわち国内の安定・政治的共同体の結束と覇権国に対する信頼度である。この戦略的可能性の範囲は、二つの要素のどちらかが低下すると狭くなる。チャ教授は、過去の事例をいくつか取り上げて自身の論点を解説した。現在の状況については、次の四つの論点を挙げた。1)日本国内は安定しているようだが、域内諸国は国内問題を抱えており、そのことから中国の台頭を受け入れざるを得ず、結果的に日本が孤立を深めることになっている。2)日米韓の協力強化が優先課題と思われる。3)米国はこれまで以上にリバランス政策(いわゆるアジア基軸戦略)に力を入れる必要がある。4)同盟において価値観が重要なのは、国家間の「協定」やトレードオフのためばかりではない。

アイケンベリー教授は、東アジア地域と世界全体で起きているパワーシフトを背景に、日米同盟の変容について概略を説明しつつ、日米は協力して秩序を形成する必要があると述べた。アジアの国際政治環境は、外交・経済交流ならびに軍事的対立の面で複雑さを増しつつある。現在、二元的なヒエラルキー、すなわち米国を中心とする安全保障のヒエラルキーと、中国を中心とする経済協力のヒエラルキーが形成されつつあるが、その意味合いとして次の3点が挙げられる。1)日本をはじめとする各国は厳しい選択を避けようとしている。2)米中はリーダーシップを巡ってしのぎを削っているが、一方で対話の余地は残っている。ただし、中国の攻撃的な姿勢が自己包囲につながるというリスクもある。3)ルールと国際規範が、リベラルな国際秩序における反自由主義的パワーの台頭によってますます脅かされている。安倍総理が米議会で行った演説で述べたように、日米はこうしたルールを守り抜くために協力しなければならない。

マスタンドゥーノ教授は、東アジア地域は急速かつ大きな変化の渦中にあると主張した。近年を振り返ってみると、1990年代は大きな期待の時代であった。当時、米国は強大な力を誇り、世界秩序について、中国との戦略的提携も含め、世界経済のガバナンスを中心に、かなり明確な考えを持っていた。しかし、2008年の金融危機の影響などによって、その後の状況は一変した。一方、中国の台頭はその強硬な政治的主張から、ますます問題となっている。最近では米国にも、孤立主義や保護貿易主義の傾向が再び現れており、不安を招いている。私たちは今、不確実な時代にいる。この状況は、米国の大陸への関与について懸念が高まった1945年~1949年の欧州にある意味で似ている。しかし、米中は互恵的なルール作りができる関係を築こうとしており、この点は朗報である。

細谷教授は、戦後の日本の対外姿勢の歴史を再構築し、日本が朝鮮戦争やベトナム戦争、朝鮮半島の核危機など、域内の重大危機にどのように対応したかに焦点を当てて報告を行なった。しかし、「パワーシフト」あるいは「中国の台頭」などと表現される現在の状況は、域内の長期的な構造変化とそのダイナミクスが関係することから、これまでとは異なる性質を伴う。では、日米同盟への影響はどうだろうか。ドナルド・トランプが次期大統領になった場合、仮に現在の態度を軟化させたとしても、私たちが目の当たりにするのは、孤立主義を強める米国と強硬姿勢を強める中国という構図かもしれない。細谷教授はしたがって、守るべきリベラルな国際秩序に逆行するポピュリスト勢力に対抗することの必要性を訴え、日本はそのために全力で取り組むべきだと主張した。

関連URL:http://pari.u-tokyo.ac.jp/unit/ssu/events/2016-06-16/index.html



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