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Five University Conference “Internationalism in Retreat? Future of Cooperation in the Asia-Pacific”

掲載日:2017年2月8日

実施日: 2016年12月02日 ~ 2016年12月03日

東京大学政策ビジョン研究センター安全保障研究ユニット(SSU)は、国際文化会館の協力により、五大学会議を主催した。本会議は毎年、5つの関係学術機関(東京大学、プリンストン大学、北京大学、高麗大学、シンガポール国立大学)により構成されており、今年度は東京大学が主催校であった。

本会議は、2日間にわたるもので、5つのパネルが実施され、最終日には大学院生によるセッションが行われた。議論の主なトピックは東アジア地域における国際政治の現状と展望に関するものであり、特に、米国大統領選におけるドナルド・トランプの勝利を契機に顕在化した、「リベラルな国際秩序」の危機について検討が行われた。

 

1日目 – 2016年12月2日(金)

藤原帰一、東京大学法学政治学研究科教授・SSUユニット長が会議の開会を宣言し、本会議は五大学会議の第8回年次会議にあたること、また現在の国際情勢を鑑みれば、国内政治と国際政治との結びつきを考えることがとりわけ重要であることを指摘するとともに、本会議が現在進行中の変化にいくらかでも光を当て、理解を深める一助となればとの期待を表明した。

 

パネル1 – 国内政治と国際関係

本セッションでは、国内政治がどのように国際関係に影響が与えるのか、特にトランプ氏の勝利を念頭に、以下について議論が行われた。

第一に議論されたのが、トランプ氏の勝利の要因とその影響である。トランプ氏の勝利の要因は、米国民の変化を求める声を捉えたからであるとの議論が提示された。また、このトランプ氏勝利の影響は、アメリカにおける安全保障と経済両面における国際主義の後退と、ヨーロッパにおける極右勢力の伸長を招く可能性が高く、またアジアでもアメリカの同盟からの後退と中露の影響力の増大がもたらされるとの予測が示された。

第二に、中国のトランプ氏の勝利に対する反応について議論が行われた。中国では、米大統領選の衝撃は比較的少なく、トランプ氏の登場を鄧小平のような国家再生の試みととらえる見方と、米国の政治制度に内在する修正メカニズムの結果と捉える意見が示されていると指摘された。また米中関係に関しては、中国では、トランプ氏は、中国に人権問題などを提起しないと予測される点で望ましいが、貿易面では強硬とも考えられており、今後の見通しは不確実性が増大したと考えられているとの分析が示された。

第三に、ロシアと韓国について議論された。ロシアの外交政策は国内政治を重視したものとなる傾向を強めているが、今後は人口問題などで困難に直面するということ、またトランプ氏当選をロシアは望んでいたが、その結果はこれから示されるであろうとの予測が提示された。また韓国については、韓国国内情勢の変動とトランプ氏の当選により、米韓関係は混乱期を迎えると議論された。

第四に、リベラルな国際秩序の問題点についての議論が提起された。リベラルと言われる秩序には、国連安全保障理事会、世界銀行、国際通貨基金などに欧米諸国の影響力が過剰に代表されており、また核不拡散体制は二重基準に基づくものであると指摘された。そして、米国のみの利益の追求するトランプ氏の登場により、米国は世界の指導的役割を主張できなくなるだろうとの予測が提示された。

第五に、現在の世界の特徴は、プーチン、エルドアン、モディ、ドゥテルテ等、リベラルではないデモクラシーが台頭するという現象が広くみられることであり、さらにアメリカにトランプ氏の登場により自由主義と民主主義の古典的な緊張関係が明確となったとの議論が提示された。リベラルな国際秩序は、アメリカの覇権により支えられたものではあるが、同時に、他国との合意の確保に基づく秩序との側面も持つ。アメリカが国際制度の枠内で制度を行使している限り、アメリカの覇権は正統なものとみなされ、その影響力も拡大した。しかし、今後は力の自制と合意が失われ、また自由貿易が後退することが予想される。そしてその結果として、大国外交への回帰、軍事力行使への抑制の低下、アメリカ以外の国の台頭、中小国にとっての国際情勢の複雑化が起こるとの見通しが示された。

 

パネル2 – 朝鮮民主主義人民共和国と地域安全保障の展望

本セッションでは、北朝鮮が核兵器を保有し、朝鮮戦争をめぐる国際情勢が大規模な危機へと発展しかねないという状況にあることが確認され、現状についての分析と議論が行われた。

第一に、北朝鮮の意図と韓国の対応について議論された。北朝鮮は核の脅威を高めることでアメリカとの直接交渉の実現を追求しているが、韓国は北朝鮮の核保有国化を承認することはできない。韓国は国際協調と制裁を続けるが、同時に防衛力の強化に取り組んでおり、また北朝鮮の体制崩壊に備えて準備する必要があると指摘された。

第二に、北朝鮮をめぐる国際情勢について議論された。アメリカの対北朝鮮政策は党派間で大きな違いはなく、また先制攻撃を検討する可能性がある。また中国は、核をめぐる北朝鮮と、ミサイル防衛をめぐる韓国双方の行動に苛立ちを強めていると指摘された。また時間の経過とともに米韓両国は北朝鮮への関心を強めるが、アメリカが関係国をとりまとめることは難しいとの予想が提示された。

第三に、アメリカの北朝鮮をめぐる将来のシナリオについて議論された。可能性としては、朝鮮半島非核化、韓国と北朝鮮の再統一、北朝鮮の再建という比較的穏当なシナリオが描ける一方で、北朝鮮への攻撃、経済制裁による体制崩壊、また秘密工作による体制転換といった難しい状況も想定できると指摘された。

第4に、中朝関係について議論された。現在の中朝両国の指導者は密接な関係を持っておらず、また中国は北朝鮮に戦略的価値を見出している一方で、その自律的な行動に苛立っていると指摘された。またアメリカは北朝鮮に大きな関心はないと議論された。

第5に、アメリカ、中国と北朝鮮情勢について、北朝鮮情勢は深刻であり、また中朝関係の悪化が多国間協議を妨げていると議論された。また問題の解決には、中国が北朝鮮に圧力をかけるとともに、アメリカが非核化した北朝鮮の存続を保障することが重要だと指摘された。

 

パネル3 – 天然資源分布と領土紛争

本セッションでは、天然資源、領土紛争、国際的な紛争と協力について議論が交わされた。

第一に、南シナ海と中国について議論された。中国は、国際仲裁裁判所の判決に拘束されないという立場をとっているが、ドゥテルテ大統領の下で中比関係は改善していると指摘された。またアメリカが中国の領域に軍事干渉を行い、日本が中国の軍事的脅威を誇張していることが、相互の誤解を生むと論じられ、相互の自制とガバナンスの強化が重要との見解が示された。

第二に、環太平洋地域のエネルギーと安全保障について議論された。まず、アメリカが新たな炭素水素の生産を拡大していることで、現在、エネルギー供給の状況が大きく変わりつつあるとの指摘がなされた。そしてアメリカのエネルギー生産は中東やロシアと競争できる規模であり、日本や韓国はアメリカからのエネルギー輸入量を増大させることが可能となると論じられた。

第三に、海洋の国際管理について議論された。共同資源の開発の大前提は領土紛争の安定化であり、また同時に、関係の全般的安定が領土問題のエスカレートを防止すると指摘された。そして、このような関係の安定化には、地域機関や国際機関の果たす役割が大きいと論じられた。

第四に、資源問題と環境悪化について議論された。外国企業による環境破壊に関しては環境保護活動が重要であり、かつての日本企業の東南アジアにおける環境破壊は日本の環境団体によって告発された。しかし、現在は、グローバル化によって環境破壊の責任追及が難しくなっていると論じられた。

第五に、資源管理をめぐる海洋と宇宙の比較検討がなされた。現在、海洋では領土化の過程が進み、資源管理体制が構築されつつある。しかし、宇宙については、類似の動きはなく、今後も進む可能性は少ない。したがって比較的宇宙は規制の少ない領域として残されるであろうが、共通の規範と合意形成によってこの状況を担保することが重要と論じられた。

 

パネル4 – 貿易協定の展望

本セッションでは、変動期における貿易の現状と展望についての議論が行われた。

第一に、自由貿易によって世界の反映と成長が実現されたが、現在は保護貿易主義が、特にグローバル化の恩恵を受けられなかった人々の支持を受けて急速に台頭していることが指摘された。そして、自由貿易を守るには、TPPのように、公正性を強化し、重要な社会的価値を保護する規定を貿易協定に盛り込むことで、再度人々の支持を獲得しなければならないとの議論が提起された。

第二に、東アジアの貿易について議論された。東アジアの貿易体制は、政治の影響が非常に強く、これが地域機関の創設の障壁となる可能性があると指摘された。地政学的考慮が優先された典型例がTPPであり、貿易の非政治化必要との議論が行われた。

第三に、貿易協定について議論され、現在は、グローバルな貿易協定の進捗が行き詰まり、TPPやT-TIPなどの様々な地域貿易協定が進んでいると指摘された。しかし、英国のEU離脱や、米国大統領選でのトランプ勝利に表われているように、これらの枠組みもグローバルな保護貿易主義の高まりによって困難に直面しているとの分析が示された。

第四に、リベラルな国際秩序と経済の関連についての議論が提示された。最も根本的な問題は、経済成長の欠如であり、特に今後、世界経済はキンドルバーガーの言う貿易縮小スパイラルに突入する可能性があると指摘された。そして、このような状況では、大幅な事態の好転を求めるのではなく、欧米諸国で国内問題が収束するまでの忍耐が必要だと論じられた。

第五に、米大統領選の結果を受けての現況および日本の貿易政策への影響について議論された。トランプの勝利によって、アメリカがTTPから離脱することが決定的となり、その行く末は極めて不透明なものとなったと指摘された。そして、長期的には、日本には、次の3つの可能性があるとの議論が提示された。1)日米FTA締結、ただしこの場合は日本に不利となる可能性が高い。2)米離脱後の残りの11か国とTPPの再交渉。3)東アジア地域包括的経済連携(RCEP)など、現在交渉中の他のFTAに注力する。

 

パネル5 –東アジアにおける同盟の展望

本セッションでは、東アジアにおけるアメリカの同盟網の現状と、トランプ政権における展望について議論された。

第一に、トランプ政権における同盟の展望について議論され、日米同盟はアメリカにとって極めて重要であるが、トランプ氏がこれを理解していなければアメリカは東アジアにおける影響力を喪失すると指定された。またフィリピンの対米・対中政策と、韓国の国内的混乱にみられるように、すでに地域秩序は変動期にあると論じられた。最後に、現段階で最善のシナリオは大国間の合意が形成されることであり、次善のシナリオはアメリカの政権交代まで日本が同盟の維持・強化に取り組むことだとの展望が示された。

第二に、米中関係について議論され、米中両国は国際的安定の要であると指摘された。また米中関係は、グローバルな問題では協力関係にある一方で、東アジアでは南シナ海および東シナ海における軍事的活動に関して対立が生じていると指摘された。

第三に、東南アジアの動向について議論され、ASEAN諸国は米中間の狭間で対応が揺れ動いているが、今後は多数の国々が貿易上の利益を求めて中国に接近するとの展望が提示された。また、アメリカのプレゼンスが縮小されるのか、またその時日本および韓国はどのように行動するのか不明瞭であるとして、現状の不確実性が強調された。

第四に、リベラルな国際秩序の展望について議論された。冷戦後、リベラルな国際秩序が、かつての東側陣営との対峙という共通目標を失い、その政治的側面と経済的側面に断層が生じたことが、現在の危機の構造的要因だと指摘された。では、どうすれば、現在の危機を逆転させることができるのか。1)ロシア、トルコなどの国々から発せられる反リベラルな言説に対抗するナラティブの構築、2)ナショナリズムと国際主義の再融合、3)米国が反リベラルな行動に走らないように圧力をかける、4)相互安定化のためのネットワーク構築、労働目標、環境目標などを考慮に入れて自由貿易のコンセプトを構築し直す、といった対策が提示された。そして最後に、利益の一致や価値の共有だけでなく、互いが持つ脆弱性をも認識した上で、秩序および国際協力の基盤を再考する必要があると論じられた。

関連URL:http://pari.u-tokyo.ac.jp/unit/ssu/events/2016-12-02/index.html



Photo: Izawa Hiroyuki
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