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栗の名産地で進むハムづくり/李俊佑の畜産学@茨城県 | 広報誌「淡青」35号より

掲載日:2017年10月27日

実施日: 2017年09月08日

畜産学 @ 茨城県
 
イベリコ、パルマの次はカサマ?
栗の名産地で進むハムづくり

イベリコ豚やパルマ豚が有名ですが、ドングリや栗を食べて育った豚はおいしくなるといわれます。そこで立ち上がったのが、栗の名産地・笠間市に位置する牧場に本拠を構える李先生。
市役所や地元レストランとの連携で、栗豚を用いたカサマハムづくりを進めています。

 

李 俊佑
Li JunYou
農学生命科学研究科附属牧場
助教


 


イベリコ豚

東京大学には日本全国に渡って、数多くの附属施設があります。その中で、牛、馬、山羊および豚を飼育し、大学の教育・研究に資している附属施設が農学部の附属牧場です。茨城県笠間市に位置しており、弥生キャンパスから約100km離れています。笠間市は笠間焼で全国にその名が知られていますが、栗の生産量も日本有数です。よって、栗を使用した商品が数多くあります。生栗・栗甘露煮・栗渋皮煮・栗ペースト・栗菓子・栗焼酎等が挙げられます。ところで、これらの商品を生産する過程では沢山の副産物が出てきます。

熟成が進む「カサマハム」。

一方、世界で有名なハムと言えばイベリコハム、そしてパルマハムがあります。これら二種類のハムには共通点があります。共に仕上げ段階(60~70kg体重)からドングリか栗を約二カ月以上給与しています。豊富なドングリ畑と栗畑があるから可能なことで、現代の一般的な養豚法と違ってドングリ畑あるいは栗畑に放牧されるのです。元気でストレスが少ない豚の生産体系です。一方、現代の養豚では生まれてから出荷まで(生まれてから約6か月間、体重約110kgまで)すべてウィンドウレスの屋内で飼育しています。我々の食卓に上る豚肉は豚舎内でトウモロコシと大豆をベースとした飼料で飼育されます。最近、テレビのコマーシャルや焼き肉屋さんでよく聞く三元豚の豚肉ですが、実は三つの品種(ランドレス種デンマーク原産(25%)、大ヨークシャー種イギリス原産(25%)、デュロック種アメリカ原産(50%))を掛け合わせて作った豚肉です。その中で、50%の寄与率を占めるデュロック種は主に精肉用で肉質と味が優れています。しかも、この豚は毛色が赤毛(写真)で栗の色ともよく似ています。
  

附属牧場では毎年秋に一般公開デーを開催しています。見学ツアー、クイズラリー、写生大会、乗馬体験などイベントが盛りだくさん。今年は10月28日(土)に開催。
我々はこれらのことに着目し、市の行政側と栗商品生産過程で出てくる副産物の再利用の一環として、栗の副産物を飼料に混入して栗豚を生産し、栗豚ハムの研究開発を目的としたプロジェクトを5 年前から開始しました。ハム作りには後腿のみを使いますが、栗豚ハム作成は既に仕込んで半年が過ぎ、出来上がるまでにはまだ1年を必要としています。また、栗投与により豚肉の味がどう変わるのだろうかと考え、試食会を試みました。栗投与豚肉と投与していない対照群の豚肉との比較調査です。参加者は我々附属牧場のスタッフと市の職員、市内のレストラン経営者等で、二つの調理方法、すなわちシャブシャブと焼き肉方式を用いました。30数年間豚の教育と研究に携わってきましたが、このような方法での試食会は初めての体験でした。しかも、予想外の結果で驚きました。シャブシャブ方式では7割近い人が栗を投与していない豚肉のほうが美味しいとの判定でした。ところが焼いて試食した結果は、ほとんどの参加者が栗を投与した栗豚肉のほうが美味しいとの判定でした。要は、豚肉は飼育方法と調理方法の適切な組合せによりもっと美味しく食べられることが分かりました。イベリコハムやパルマハムもそうやって生まれて来たのでしょう。仕込んである栗豚ハムの試食会が待ち遠しくなりました。将来、調理方法で豚肉を選ぶ時代が来るかもしれませんね。研究はまだ進行中で、脂肪諸成分分析、肉質分析など科学的根拠の探究を継続しています。
 
※本記事は広報誌「淡青」35号の記事から抜粋して掲載しています。PDF版は淡青ページをご覧ください。

 


 
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