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「より小さく」ではなく「柔らかく」。電子部品の新たな可能性を開きたい | UTOKYO VOICES 013

掲載日:2018年2月23日

UTOKYO VOICES 013 - 「より小さく」ではなく「柔らかく」。電子部品の新たな可能性を開きたい

大学院工学系研究科 電気系工学専攻 教授 染谷隆夫

「より小さく」ではなく「柔らかく」。電子部品の新たな可能性を開きたい

手の平に載せた薄いフィルムは、部屋の中の空気がわずかに動いただけであおられ、ふわりと揺れた。調理用ラップのおよそ10分の1の薄さだが、このフィルムはタッチセンサーとして機能するれっきとした電子部品だ。

「これぐらい薄くて柔らかいと皮膚に貼っても本人には違和感がほとんどない。こういう、人と親和性の高い電子部品を作りたくて」

電子部品といえば硬いのが当然。人の皮膚に貼り付けられるような柔らかい電子部品を作ろうという発想が出てきたのは人体や医療に興味があったからかと聞くと、染谷は首を振った。

「研究者としてまだ駆け出しのころ、電子部品の『より小さく』を目指す進化は近いうちに飽和するんじゃないかと感じたことが出発点でした。ならば、別の可能性を追求しようと」

より小さくではなく、柔らかく。ほかの人が目を向けない方向へと踏み出して、数々のパイオニアワークを生み出してきた。世界初の伸び縮みする電子回路、世界初の皮膚貼りつけ型タッチセンサー、世界初の通気性に優れた伸縮センサー……。

最初は「ぐにゃぐにゃした電子部品なんて何の役に立つのか」という目で見られていたという。しかし考えてみれば、スマートフォンやスマートウォッチがいくら小さくなっても文字通り「身につける」には硬過ぎる上にすぐ壊れてしまうだろうが、柔らかく伸び縮みする薄いデバイスなら、壊れにくく、皮膚にぴったり貼り付いてタッチセンサーや体温計の役目を果たし、心電や筋電も継続的に計測できる。

つい先ごろ開発に成功したのは、センサーで読み取ったデータを表示できる極薄のディスプレイ。手の平や手の甲に貼って心電波形を表示できるので、たとえば心拍を常時モニターする必要がある人にも在宅療養の選択肢が生まれる。心電波形を定期的に病院に送り、担当医が確認をして問題がなければディスプレイに「いいね!」のマークを送信し表示させることもできる。まるで近未来の世界だ。

「ただこの技術が社会で実際に使われるものになるためには、我々のほうにも人体や医療に関してはもちろん、社会制度や人間心理へのより深い理解が必要になってくる。その点はまだ全然足りないと痛感しています」

と言いつつも、表情に気負いは感じられない。

「研究には失敗がつきものですが、それでも続けるから成果が出る。だからおめでたいぐらいに楽観的な人間のほうが無理なくやっていけるんじゃないでしょうか。……自分は明らかにおめでたい人間だと思いますね(笑)」

足りない知識も失敗も、すべてがこの先の伸びしろ。この楽観が数々の「世界初」を導き出している。

取材・文/江口絵理、撮影/今村拓馬

Memento

薄さ1,000分の1mmのタッチセンサー。肌に貼るとぴったりと密着する。このほか、心拍数や筋電などの生体信号を皮膚から読み取れる極薄センサーも開発。アスリートに装着すればスポーツ科学への貢献も期待できる

Message

Maxim

「この研究は他分野の研究者や企業の方々と一緒に進めることで大きな成果につながりますから、自分が楽しむことと同時に、周りの人にも楽しく関わってもらうこと、面白そうだなと思ってもらうことを大事にしています」

プロフィール画像

染谷隆夫(そめや・たかお)
1997年東京大学大学院工学系研究科を修了し、東京大学生産技術研究所助手に。米国コロンビア大学やベル研究所での客員研究員や先端科学技術研究センター助教授などを経て2009年より現職。伸縮性、柔軟性に優れる大面積有機電子デバイスの研究・開発を続けている。03年に開発したロボット用人工皮膚「E-skin」は05年の米国タイム誌でInvention of the yearの一つに選ばれ、表紙を飾った。

取材日: 2018年2月6日

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