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次世代にバトンをつなぐ |  総長室だより~思いを伝える生声コラム~第1回

掲載日:2018年3月9日

実施日: 2017年08月25日

東京大学第30代総長 五神 真

次世代にバトンをつなぐ
 

本欄では、私が普段考えていることを皆さんにお伝えしていきます。少しでも思いを共有し、総長室を身近に感じて頂ければ幸いです。

さて、私も委員を務める政府の未来投資会議は、これまで10回会議がありましたが、毎回「スマート」とつくテーマが議題になっていました。たとえばスマート農業です。従来は、農地を集約して大規模化し機械化を進め、生産性を向上することをめざしてきましたが、日本人独特の土地文化などもあり、なかなか進みませんでした。しかし、センサーやドローンを駆使してデータを取得し活用するスマート農業だと、分散した小さな農地のままでも高い生産性が得られるというのです。このようなスマート化は、大規模化を求める資本集約型と違い、個の多様性を活かすことができます。第1次、第2次、第3次産業を問わず様々な分野で進むことが期待されます。それによって社会の姿も大きく変わり、深刻化する都市と地方の格差も解消されるかもしれません。未来投資会議ではこれを未来ビジョン「Society 5.0」として掲げました。実現に向け、大学が先導的な役割を果たすことが期待されています。

このように大学の役割はますます重要になりますが、足腰は弱くなっていると感じます。特に法人化後は若手研究者の雇用の不安定化が深刻です。東大では40歳未満の任期無し雇用が10年で903から383に減りました。若手は次の学問を切り拓く活力の源ですが、腰を据えて研究に集中するのが難しい状況です。私が30代の頃、大学の財政状況は今以上に厳しかったのですが、知的好奇心のもと失敗を気にせず研究に没頭できる環境はありました。未来への投資として若手研究者の雇用安定化は最優先すべきです。多様な財源を確保し大事な所にきちんと配分する仕組みが必要です。

そのための出発点は、大学の価値を可視化し、学外から「投資したい」と思ってもらうことです。学内の資源配分については、現場から積極的な提案をしてもらい、何に優先して資源配分すべきかを予算委員会等で全学の知恵を使って考えます。大学の真の価値は現場から生まれるので、自由な発想によるボトムアップ提案を大事にし、大学全体のスケールメリットを活かしてそれを支援する。そうすることで価値を最大化する仕組みを構築しました。動き始めたばかりですが、この1年で40歳未満の任期無し雇用は89人回復しました。未来に投資し、バトンを次世代につなぐことをさらに進めるために、特に若い研究者の皆さんの声を大切にしたいと思っています。(つづく)

「学内広報」1499号(2017年8月25日)掲載



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