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歴史の風、未来への風 |  総長室だより~思いを伝える生声コラム~第4回

掲載日:2018年3月20日

実施日: 2017年11月24日

東京大学第30代総長 五神 真

歴史の風、未来への風
 

去る10月21日、東京大学140周年を記念して開催された講演会では、登壇された加藤陽子先生と池谷裕二先生のお話に大いに刺激を受けました。今回は、そこで受けた知的な感動を共有したいと思います。

加藤先生は、私の著書を読んでみて、東大は東と西の学問を融合し独自の学問を創ることを伝統としているという捉え方が新鮮だった、という話から講演を展開されました。その中で特に印象深かったのは、「消えた「大学」」の話です。創設時、東大に国学・漢学が入らなかったことが重要な意味を持つと指摘されました。もし東大が国学・漢学も入れた形で始まっていたら、学問も歴史も今とは違ったものになっていたかもしれない……と想像が広がります。

140周年の節目を機に、改めて長いスケールで歴史を捉え直したことで、今の社会を考えるのに役立つ新たな視点を得られることにも気づきました。明治維新の原動力の一つとなった国学が東大に組み入れられなかったことがどのような意味を持つのか。普段、戦前/戦後という場合、前後70年という厚みを正しく捉えているのか。東大の次の70年、「UTokyo 3.0」を考える上で大変参考となるお話でした。歴史は過去を捉え直し、新たに知を積み上げていく創造的な営みだということも実感しました。クリエイティブであることは私の専門である物理学とも共通すると感じたのは新鮮な発見でした。歴史学はおもしろい。若い頃この話を聞いていたら、私の人生も変わっていたかもしれません。

池谷先生は、脳科学を題材に学び方について語られました。好きこそものの上手なれ。何度も失敗して学ぶことが大切。「やってみたい」という前向きな気持ちが良い結果を生むことが、最先端の脳科学のデータからわかるというものでした。2007年生まれの先進国の子供の50%は100歳以上生きるという分析もあるそうです。人生100年時代だからこそ、好きなことに楽しくチャレンジし続ける精神が必要なのです。

今後の社会は激しく変化します。若い人にはその変化を恐れるのではなく楽しむことができる人物になってほしい。それには、まず大人がチャレンジし、楽しむ姿を見せることです。そこで幅広い世代が新たな事に挑戦する場を東大が率先して提供したいと考えています。大学院学生に向けては、高い専門性を学内業務に活かして対価を払うオンキャンパスジョブの導入、子育てと学位取得の両立を促す保育園の増設など、多様で実質的な支援を進めています。世代、性別、国籍を問わず皆が活躍できるインクルーシブな社会のモデルを東大から発信していきたいと考えています。(つづく)

「学内広報」1502号(2017年11月24日)掲載



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