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新しい社会モデルの実装に向けて |  総長室だより~思いを伝える生声コラム~第5回

掲載日:2018年3月23日

実施日: 2017年12月20日

東京大学第30代総長 五神 真

新しい社会モデルの実装に向けて
 

日本は、工業立国を目指し、産業を労働集約から資本集約に移行させることで労働生産性を上げ、高度経済成長を遂げて有数の経済大国になりました。しかし今、社会・経済が大きく変化する中で、次の時代をどう切り拓くべきか真剣に考えるべき時を迎えています。

第1回では、農業を例に、産業のスマート化は、多様性を活かしながら発展する、格差の少ない社会の実現の糸口になるという話をしました。スマート化は最近「分散・遠隔・連結」という言葉でも表されています。例えば離れた場所に小さな農地がばらばらに存在していても、そこにセンサーを仕掛け、それらをインターネットで繋ぎ、気象データなどと組み合わせて、人工知能やロボットを駆使することで、高い生産性を実現できます。農地の大規模化と大型機械導入だけが生産性向上の道筋ではありません。知恵や情報の活用が価値を生む「知識集約型」の社会が訪れるのです 。

資本集約型社会の成長モデルにおいて、産業の中心は大都市で、港や高速道路がそれを支える重要な産業インフラでした。一方、知識集約型社会の基盤は、大量のデータをセキュアに扱える情報ネットワークと、それを活用できる人材です。両者が集積している大学は、新たな産業集積拠点として高いポテンシャルを持ちます。実はこの情報ネットワークについて、日本には世界で突出した強みがあります。それはSINET。47都道府県の大学等を100Gbpsの高速で繋ぐ学術情報ネットワークで、約1万チャンネルを同時にデジタル放送できるほど大容量の「情報ハイウェイ」です。非常に高性能なネットワークがすでに各地の大学で運用されています。これを活用して産業界と連携を深めることで、知識集約型社会における新しい産業の集積拠点を全国の大学の周辺に創り出せる可能性があります。

この夏、北見工業大学を訪問しました。同大は2017年、一次産業やエネルギーのスマート化を視野に入れて従来の学科構成を現代的な構成に変えました。さらに同大はSINETの北限に位置し、縁あって本学も研究用データサーバを設置させてもらっています。高度な情報ネットワークによって物理的な距離を乗り越えて連携できるという好例です。実際に訪問し、知識集約型社会における大学の役割は重要だと改めて感じました。

知識集約型の社会では、活動する場所はハンデになりません。新しい技術によってより多くの人が活躍できるインクルーシブな社会を実現できる可能性があります。各地域の大学との連携も強化して地方創生にも貢献していきたいと考えています。(つづく)

「学内広報」1504号(2017年12月20日)掲載



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