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「変化を楽しむ」~私の経験から~ |  総長室だより~思いを伝える生声コラム~第6回

掲載日:2018年3月27日

実施日: 2018年01月25日

東京大学第30代総長 五神 真

「変化を楽しむ」~私の経験から~
 

今回は私の経験を例に、1502号で触れた「変化を楽しむこと」について話したいと思います。

一つ目は、2010年に工学部から理学部に移ったことです。工学部での22年間は充実していました。それでも移ったのは、人が動くことで新しい発想が生まれることを自ら示したい、と考えたから。研究室の引越は大変でしたが、この変化は非常によいものでした。

理学部と工学部では、学生にアピールするための伝え方が少し違いました。工学部では、「この研究にはこんな可能性や展開がある」と具体的に説明するのが効果的でした。理学部では、「この研究の価値は今はわからないし、どう攻めれば良いかもはっきりしない。でも面白いので一緒に考えよう」という言い方に奮い立つ学生が多いようです。面白さの感じ方や反応が多様であることを実感しました。理学部に移ってから、学生諸君と新しい研究の種を沢山播きました。仕込みの時期でしたね。それが今、素晴らしい芽を出し始めています。変化を自ら起こした成果だと思っています。

二つ目は、総長になったことです。これまで無縁だった先生方に会い、未知の研究分野に触れる機会が増えました。これまで考えもしなかったことを考えるようになり、新しい視点や物差しを発見しました。文系諸学、例えば歴史学、法学、言語学など、分野の多様さとともに、新しい知を創るという営みがすべての学問に共通するのだということを実感しました。「東大再発見」に心が躍る体験ができるのは、総長就任の一つのご褒美かもしれません。

学外での出会いも増えました。最近では、孫正義さんの育英事業でご一緒している将棋の羽生善治さんとの出会いが刺激的でした。永世七冠を達成した彼の凄さは誰もが知るところですが、将棋をより深く理解するためにAIという最先端技術にも躊躇なく挑戦する姿勢には学ぶところが大きいです。「変化を楽しむ」を体現するお手本だと思います。

総長であることは研究・教育にもプラスに働いています。自ら研究に直接関わる時間は減りましたが、視点が大きく広がり、学生や仲間に従来と違う助言ができるようになったと感じます。1501号で触れたように、時間スケールの捉え方は多様で、実学/基礎研究と長期/短期は2行2列で考えるべきである……など、様々な方と議論する中で、日々新しい発見があります。

進んで変化を起こすこと、挑戦することに意味がある、それが私の体験に基づく実感です。変化を楽しもう。このエールを体現する環境を創りたいと思っています。(つづく)

「学内広報」1506号(2018年1月25日)掲載



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