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失われたスピン情報…実は失われていなかった!? スピン軌道相互作用の下で保存される隠された保存量

掲載日:2012年10月10日

電気素子の微細化が進み、ナノスケールに達すると、開発技術に大きな障壁が立ちはだかります。電子の量子論的な効果が無視できなくなり、これまでの素子が上手く機能しなくなるのです。そこで近年、電子の量子論的な特性である「スピン」を積極的に利用するスピントロニクスが注目されています。

spin-orbit interaction

©Naoyuki Sugimoto and Naoto Nagaosa
スピン軌道相互作用下で、電子のスピンが不純物に当たって弾性散乱され、向きが次々に変っていく様子。ツイスティッドスピンは変化しない。

従来のエレクトロニクスでは、コンピューターの言葉「0・1」を電荷の有無で表現するのに対し、スピントロニクスではスピンの二つの向き「アップ・ダウン」で表現します。

ただし、スピンの向きに「0・1」の情報を担わせるのは、電荷ほど簡単な話ではありません。電荷は、勝手に生まれたり消えたりすることのない「保存量」ですが、固体中のスピンの向きは、一般に保存量ではありません。特に、固体中の電子の動きでスピンが影響を受ける「スピン軌道相互作用」によって、スピンの向きが変わってしまうことが知られています。

東京大学大学院工学系研究科の永長直人教授と理化学研究所強相関量子科学グループの杉本直之特別研究員は、スピン軌道相互作用の下でもスピンの情報が保たれていることを理論的に発見し、数値計算で確認しました。

彼らは、スピン軌道相互作用を「複数種の磁場」として表現することで、スピン軌道相互作用下でも変わらない「ツイスティッドスピン」という新しい保存量が存在することを発見しました。スピン自体は保存量ではないものの、その情報はツイスティッドスピンに含まれており、スピン軌道相互作用をゆっくりと(断熱的に)弱くすると、元のスピンの方向も緩やかに復元されることが分かりました。

複数種の場の下での保存量に関する今回の発見は、スピントロニクスを用いた次世代デバイスの実用化に近づく大きな一歩であると共に、量子の世界の電子状態を記述する量子場の理論においても重要な成果です。

(東京大学本部広報室 南崎 梓, ユアン・マッカイ)

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論文情報

Naoyuki Sugimoto and Nagaosa Naoto,
“Spin-orbit echo,”
Science [336] (2012): [1413-1416], Online Edition: 2012/6/15 (Japan time), doi: 10.1126/science.1217346
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