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匂いの濃度を効率的に表現する脳の計算メカニズムの発見 カイコガのフェロモン情報処理機構から明らかになった匂い濃度の相対化表現

掲載日:2015年1月23日

環境中には、匂いの情報を特徴付けるさまざまな情報が存在する。その中でも、匂いの濃度情報は、食べ物や交尾相手の場所を探し当てる上では重要である。従来、嗅覚神経細胞が匂いの濃度によってどのような反応を見せるか(匂い濃度応答特性)を調べた研究は、神経細胞に1発の匂いパルス刺激与えた場合の反応が調べられているものがほとんどで、断続的に匂いパルス刺激を与えた場合の動的な特性は不明な点が多かった。

嗅覚の神経回路で匂い濃度を相対化する機構を概念的に説明した図。

© 2015 Ryohei Kanzaki.
嗅覚の神経回路で匂い濃度を相対化する機構を概念的に説明した図。

東京大学先端科学技術研究センター神崎亮平教授、藤原輝史氏(大学院情報理工学系研究科、当時)をはじめとする研究グループは、構造が単純なガのフェロモン処理回路を用いて、嗅覚神経細胞は断続的な匂いパルス刺激に対して動的に反応することを明らかにした。またこの動的な変化においては、匂いの絶対濃度が過去の濃度と比較した場合の相対的な濃度に変換されていた。これは、嗅覚神経細胞は匂いの絶対濃度を静的に表現するという従来の見解と異なる。

この結果は、匂い濃度を相対的に表現することで、神経回路はわずかな濃度の差を増幅して伝搬することができ、濃度識別の向上、匂い源探索に役立つと解釈できる。この匂い濃度の表現を変換する過程は末梢の神経回路機構ではなく中核の神経回路機構により担われていた。この神経回路内で鍵となる要素は出力を担う神経細胞の活動を抑制する神経群だった。この神経群は、過去の匂い刺激により誘発された長期抑制の効果によって、次の匂い刺激に対する出力を担う神経細胞の興奮を過去の匂い刺激の濃度に比例して抑制することで匂い濃度を相対化していた。

嗅覚処理機構は視覚や聴覚などの感覚器とは異なる情報を扱うにも関わらず、これらの感覚処理機構と類似した処理機構を備えていることが明らかになり、幅広いシステム神経科学の研究者にとって興味深い知見である。

論文情報

Terufumi Fujiwara, Tomoki Kazawa, Takeshi Sakurai, Ryota Fukushima, Keiro Uchino, Tomoko Yamagata, Shigehiro Namiki, Stephan Shuichi Haupt, Ryohei Kanzaki,
“Odorant concentration differentiator for intermittent olfactory signals”,
Journal of Neuroscience 34 2014 16581-16593, doi: 10.1523/JNEUROSCI.2319-14.2014.
論文へのリンク(掲載誌UTokyo Repository

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