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ミクロ粒子の遠隔制御 自己駆動粒子は電気バクテリアの夢を見るか?

掲載日:2017年3月23日

© 2017 東京大学(左)”UT”の文字列。(右) 桜の花びらのモチーフ。粒子はフィードバック制御により、次々と提示される目標の位置に向かって運動する。中心が赤で白い円が提示した位置、青い線が粒子がたどった経路。

粒子の動きを遠隔から操作した実例
(左)”UT”の文字列。(右) 桜の花びらのモチーフ。粒子はフィードバック制御により、次々と提示される目標の位置に向かって運動する。中心が赤で白い円が提示した位置、青い線が粒子がたどった経路。
© 2017 東京大学

東京大学大学院理学系研究科の佐野雅己教授らの研究グループは、ミクロの大きさの粒子を遠隔から制御することで目的の場所へと移動させる方法を新しく開発しました。これらの粒子は、一度に大量に製作可能で、外から加えた電気エネルギー(電場のエネルギー)を利用して、水中で自ら動き(自己駆動粒子)、直進と回転の2種類の動きが可能です。

水中で自由に動き回ることのできる自己駆動粒子は、これまで各々が独自に向きを持って運動するため、粒子の行き先を制御することは困難でした。また、粒子の大きさが小さくなればなるほど、周りの原子・分子との衝突によって運動が徐々に乱雑になるため、小さな物体の運動制御における課題として立ちはだかっていました。

研究グループは、大腸菌などの微生物に見られる遊泳戦略にヒントを得て、遠隔操作で2種類の遊泳状態を切り替えることで、粒子を目的の場所に輸送したり、任意の経路に沿って動かしたりすることに成功しました。さらに、微生物のような小さな物体が、目標に向かって泳ぐための最適な戦略を理論的に明らかにしました。この最適な戦略は物体の大きさによって異なり、ある程度大きな物体は、運動の向きを常に制御して目標に向かうことが最適であるのに対して、大腸菌程度に小さい場合(1ミクロン)では直観に反して、向きが目標とずれ過ぎた場合だけ方向を転換する戦略が最適であることが分かりました。

本成果は微小な物体を制御するための基本原理だけでなく、将来的に、人工細胞に向けた技術開発や細胞への新しい刺激方法、ドラッグデリバリーなどに役立つ可能性があります。

「当初、まっすぐに進む自己駆動粒子を作製することを目指していました大量の回転する粒子ができてしまいました」と佐野教授は説明します。「これを失敗として捨てることなく、回転と直進の2つの状態を切り替えながら進む粒子の作製に向けて輸送するアルゴリズムを考案したため、失敗を成功に変えることができました」と続けます。

また、今回の研究成果に初めから取り組んだ真野智之さん(当時理学部大学生)とジャン・バプティステ・デルファウ博士は、「研究を始めた当初は、ここまで到達できるとは想像もしていませんでした」と話しています。

プレスリリース

論文情報

Tomoyuki Mano, Jean-Baptiste Delfau, Junichiro Iwasawa, and Masaki Sano, "Optimal run-and-tumble based transportation of a Janus particle with active steering", Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America Online Edition: 2017/03/15 (Japan time), doi:10.1073/pnas.1616013114.
論文へのリンク(掲載誌UTokyo Repository

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