多細胞化をもたらす遺伝子をゲノム解読で解明 はじめて明らかになったがん抑制と多細胞進化の共通原理
東京大学大学院理学系研究科の野崎久義准教授らの国際研究グループは、単細胞が多細胞へと進化する初期の段階で鍵となる遺伝子群は、がん抑制遺伝子であることを発見しました。これは、多細胞生物の緑藻である群体性ボルボックス目のうち原始的な多細胞であるゴニウム(学名 Gonium pectorale、図)の全ゲノム解読により明らかとなったものです。
私たちヒトは複数の細胞からなる複雑な多細胞生物です。そんな私たちでも太古の昔はひとつの細胞からなる単細胞生物であり、「多細胞化」により誕生したと考えられています。単細胞生物から多細胞生物への転換は、さまざまな真核生物で起きたと推測されていますが、その初期段階の原因遺伝子に関しては謎に包まれていました。
今回、国際研究グループは、ゴニウムの全ゲノムデータを単細胞クラミドモナスと細胞の役割分担が進んだ多細胞ボルボックスのものと比較解析した結果、ヒトではがん抑制遺伝子である細胞の周期を調節する遺伝子が多細胞化の原因であることが明らかとなりました。また、国際研究グループは、多細胞化の初期においては細胞周期調節遺伝子群の進化が起き、その後に細胞の役割分担の遺伝子群が進化するという、単細胞から多細胞へ進化する際のシナリオを描きました。
「2010年には群体性ボルボックス目では、単細胞の祖先種にあたるクラミドモナスと最も進化したと考えられるボルボックスの全ゲノム情報が2010年に比較解析されています」と野崎准教授は話します。「今回はそのクラミドモナスと群体性ボルボックスの中間的な進化の段階にあるゴニウムの全ゲノムを解読して、多細胞化の理解を深めることを目的としていました。今後、群体性ボルボックス目の全ゲノム情報を更に解読することで、多細胞化をより明らかにしていきたいと思います」と続けます。
なお、本研究は国立遺伝学研究所、アリゾナ大学、カンザス大学等とともに行われました。
論文情報
The Gonium pectorale genome demonstrates cooption of cell cycle regulation during the evolution of multicellularity", Nature Communications 7, Article number: 11370, doi:10.1038/ncomms11370.
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