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極めて高い悪性度の小児白血病に関連する遺伝子を発見 小児T細胞性急性リンパ性白血病における融合遺伝子を同定

掲載日:2017年12月15日

© 2017 関正史小児T細胞性急性リンパ性白血病(T-ALL)において、生存期間を解析するとSPI1融合遺伝子例では明らかに死亡例が多く、全7例中6例が診断後3年以内に死亡していることがわかりました。

新規SPI1融合遺伝子例とその他のT-ALL症例の生存期間の関係
小児T細胞性急性リンパ性白血病(T-ALL)において、生存期間を解析するとSPI1融合遺伝子例では明らかに死亡例が多く、全7例中6例が診断後3年以内に死亡していることがわかりました。
© 2017 関正史

東京大学医学部附属病院小児科の滝田順子准教授、関正史助教、木村俊介研究員らの共同研究グループは、白血球になるもとの細胞から発生する血液のがんの一種である小児T細胞性急性リンパ性白血病(T-ALL)において、極めて高い悪性度に関連する特定の融合遺伝子(複数の遺伝子の連結により生じる新たな遺伝子)を初めて同定し、遺伝学的特性と臨床的特性がその他のT-ALLとは大きく異なることを明らかにしました。本研究は、より正確な治療法と治療の適正化につながると期待されます。

近年の薬物療法を中心とした集学的治療の強化により小児白血病の約15%を占めるT-ALLは、全体として約70%の治癒が期待できますが、成長障害、臓器機能障害、不妊など治療後に発生する障害(晩期障害)が大きな課題となっています。また、治療抵抗例や再発した場合の治癒は極めて難しいのが現状です。従って、分子病態に立脚した治療の最適化は、小児T-ALLの治癒率改善と重篤な副作用や晩期障害の回避に重要といえます。

今回研究グループは、次世代シーケンサーと呼ばれる従来に比べ極めて高速にDNAの塩基配列を読むことが可能な技術を用いて小児T-ALL 123例のゲノム(すべての遺伝情報)上にみられる遺伝子異常や融合遺伝子を含む構造変化、遺伝子発現の異常の全体像を解明しました。その結果、極めて高い悪性度に関連し、SPI1という遺伝子を含む融合遺伝子を約4%の例に同定しました。SPI1は血球の分化に重要な遺伝子の転写を制御するタンパク質(転写因子)ですが、白血球になるもとの免疫細胞の一種であるT細胞では発現が低下することが分化に重要と考えられています。SPI1融合遺伝子はSPI1の高発現によるT細胞の分化の停止と細胞増殖をもたらし、それが白血病化を引き起こす可能性を示しました。また遺伝子発現パターンと分子学的特徴から小児T-ALLは5群に分類されることを見出し、それぞれの群を特徴づける遺伝子発現や遺伝子異常と臨床的特性を明らかにしました。このように本研究では、SPI1融合遺伝子を有する群が他とは異なる特徴的な一群であることを示し、新たなT-ALLのサブグループであることを示しました。この成果は、T-ALLの予後予測、精度の高い分子診断法の開発に貢献し、治療の最適化の実現に役立つものと期待されます。

「今まで予後不良な小児T-ALLを示す遺伝学的特徴は報告されていませんでした」と滝田准教授は話します。「SPI1融合遺伝子を有する群は、非常に予後が不良です。この群に対しては治療リスク分類をあげて、より強力な治療を行う必要があると考えられます。また、精度の高い分子診断を利用した標的治療も将来的には有用かもしれません」と続けます。

なお、本成果は京都大学大学院医学研究科腫瘍生物学講座の小川誠司教授らとの共同研究により得られたものです。

プレスリリース

論文情報

Masafumi Seki, Shunsuke Kimura, Junko Takita, et al. , "Recurrent SPI1 (PU.1) fusions in high-risk pediatric T cell acute lymphoblastic leukemia", Nature Genetics Online Edition: 2017/07/04 (Japan time), doi:10.1038/ng.3900.
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