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脳のネットワークをメンテナンスする 脳内の結合と認知機能を変化させる訓練法

掲載日:2017年10月20日

© 2017 山下 歩① 脳活動の変動をモニタリングできる装置を使い、②2つの脳領域(lM1,lLPと記されている領域)間の変動の類似性(時間相関)をコンピュータで実時間解析する。③相関値を緑の円の大きさとして本人に知らせる。これを何回も繰り返す。④時間相関は実験条件に応じて増加・減少のどちらにも変化させることができる。

脳の結合と認知機能を変化させる訓練のイメージ図
① 脳活動の変動をモニタリングできる装置を使い、②2つの脳領域(lM1,lLPと記されている領域)間の変動の類似性(時間相関)をコンピュータで実時間解析する。③相関値を緑の円の大きさとして本人に知らせる。これを何回も繰り返す。④時間相関は実験条件に応じて増加・減少のどちらにも変化させることができる。
© 2017 山下 歩

東京大学大学院人文社会系研究科の今水寛教授らの共同研究グループは、脳内の領域同士のつながりを変え、認知機能を変化させる技術の開発に成功しました。今回の成果は、領域間のつながりを正常化することで,認知機能を回復する方法の開発につながることが期待されます。

脳内の様々な領域は神経線維でつながっており、巨大なネットワークを構成しています。記憶や注意などの認知機能は、このネットワークに支えられています。加齢や脳疾患などで脳の領域間のつながりが変化すると、領域間で情報が正常に伝達されず認知機能が低下することが知られています。脳の活動の計測に使用される機能的磁気共鳴画像(fMRI)法を用いて、ヒトの脳活動の時間変動が領域間でどれくらい類似しているか(活動の時間相関)を調べると、領域同士のつながり方を解析できます。このような解析から、高齢者や脳疾患者では、特定の領域間の時間相関が過度に増加または減少し、認知機能が低下する場合があることがわかってきました。過度な増加・減少を正常化すれば、認知機能は回復する可能性があります。しかし,認知トレーニング(暗算など)や薬物治療などの従来法では、ネットワークの広い範囲に影響を与えるため、特定の領域間の相関に狙いを定めて増加・減少させることは困難でした。

研究グループは、 fMRI装置を使い、特定の領域同士の時間相関を実験参加者に即座に知らせることを繰り返すと、次第につながり方が変化することを2015年に確認しました。今回は、実験参加者を2群に分け、片方の群には相関を増加させる訓練、他方の群では減少させる訓練をしました。訓練の前後で、注意の持続力を検査する課題など、複数の認知課題を行い、認知機能が変化するかを調べました。その結果、相関を増加または減少の両方向に変化させることに成功し、変化の方向に応じて認知機能の変化が異なることを明らかにしました。この結果は応用に向けた大きな前進と言えます。

今回の研究は健常者を対象としましたが、グループは今後、加齢や脳疾患による認知機能低下の回復に役立てるための検討を行う予定です。

今水教授は「本人の努力に基づく認知機能の回復・維持を効率的に手助けする方法として、高齢化社会で役立てて行きたい」と話します。「このような応用は、神経倫理の専門家や医師とともに慎重に進めて行きます」と続けます。

本研究は、国際電気通信基礎技術研究所(ATR)脳情報通信総合研究所の山下歩研修研究員と川人光男所長、横浜市立大学附属市民総合医療センターの早坂俊亮医師との共同で行われました。

プレスリリース

論文情報

Yamashita, A., Hayasaka, S., Kawato, M. & Imamizu, H. , "Connectivity neurofeedback training can differentially change functional connectivity and cognitive performance", Cerebral Cortex Online Edition: 2017/08/07 (Japan time), doi:10.1093/cercor/bhx177.
論文へのリンク(掲載誌

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大学院人文社会系研究科 基礎文化研究専攻 心理学研究室

大学院人文社会系研究科 基礎文化研究専攻 心理学研究室(今水学習機構研究室)

国際電気通信基礎技術研究所

科研費新学術領域「脳内身体表現の変容機構の理解と制御」

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