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脳内の外界情報データベースが作られる仕組みを解明 -従来の定説を覆す発見-

掲載日:2013年8月12日

© Yasushi Miyashita,
A)(上)横から見たマカクザルの脳。右が前側。(下)上の点線のレベルで切った脳の断面図。左が外側。B) 対連合記憶課題において、サルが学習した6組の図形対。C) 下部側頭葉における図形間対連合の表象に至るメカニズムのモデル。
ニューロン集団による図形間対連合の表象は、低次側のTE野よりも、高次側の36野の方が強い(下のグラフ)ことから、従来は図形間対連合の表象は36野で形成されると考えられていました。本研究では、各領野の神経回路を調べることで、図形間対連合の表象は、まずTE野でその「前駆コード」が少数生成され、それが36野に運ばれて「増殖」することで、大勢を占める神経表象となることがわかりました。

東京大学大学院医学系研究科 機能生物学専攻 統合生理学分野の宮下保司教授、平林敏行特任講師らは、霊長類大脳皮質の階層的な領野構造に作り上げられる外界の情報データベース「外界の内部表現」(内部表象)の新しい計算原理を発見しました。

私たちは、脳の外界情報データベース「外界の内部表現」を通じて世界を認識しています。物体の視覚特徴の表象様式は大脳皮質の内部表現の中でも最もよく調べられています。しかし、個々のニューロンの活動計測に基づいた従来の見解では、ある脳領野における視覚特徴の神経表象は、その領野において生成され、支配的な神経表象になると考えられてきました。これに対して、低次領野において神経表象の「前駆コード」が少数生成され、それが高次領野において「増殖」する、という「前駆コード生成→増殖仮説」も立てられます。本研究では、マカクザル下部側頭葉の隣接した領野であるTE野と36野のそれぞれにおいて複数のニューロンから同時に活動を記録し、図形間対連合の神経表象を生成する神経回路を明らかにすることにより、後者の仮説が正しいことを初めて実証しました。

本研究により、私たちの脳が世界を表象する原理についての理解が深まるのみならず、階層的な構造をもつ人工データベースの効率的設計や、神経表象に関わる疾患に対する治療法にも繋がると期待されます。

本研究は、科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業(CREST)研究領域「脳神経回路の形成・動作原理の解明と制御技術の創出」の一環として行われ、研究成果は米国科学雑誌「Science」7月12日号に掲載されました。

プレスリリース [pdf]

論文情報

Toshiyuki Hirabayashi, Daigo Takeuchi, Keita Tamura, Yasushi Miyashita,
“Microcircuits for hierarchical elaboration of object coding across primate temporal areas”,
Science Vol.341, (2013): 191-195, doi: 10.1126/science.1236927.
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大学院医学系研究科 機能生物学専攻 生理学講座 統合生理学教室

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