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飢餓の記憶の形成に必要な分子が作られるしくみ たった一つの神経細胞のインスリン受容体が線虫の学習能力を左右

掲載日:2016年6月23日

© 2016 富岡 征大線虫の神経系でDAF-2cが作られる神経細胞(赤紫色)と作られない神経細胞(緑色)を蛍光タンパク質で可視化した。DAF-2cはRNA加工法の切り替えにより限られた少数の神経細胞でのみ作られる。

線虫の神経系でDAF-2cが作られるしくみ
線虫の神経系でDAF-2cが作られる神経細胞(赤紫色)と作られない神経細胞(緑色)を蛍光タンパク質で可視化した。DAF-2cはRNA加工法の切り替えにより限られた少数の神経細胞でのみ作られる。
© 2016 富岡 征大

東京大学大学院理学系研究科の富岡征大助教、飯野雄一教授、東京医科歯科大学の黒柳秀人准教授らの研究グループは、特定の種類のインスリン受容体を一部の神経細胞で作らせるしくみが飢餓時の記憶の形成に必要であることを、線虫を用いて明らかにしました。遺伝子のもつ多様な機能を適切な細胞で発現させることで記憶の能力が決まるしくみの解明のさきがけとなると期待されます。

土の中に棲む線虫(C. elegans)は、餌を食べた際や絶食時に経験した塩の濃さを記憶し、その濃さの塩に近寄ったり避けたりする行動が学習できると知られています。研究グループは、このうち飢餓時の塩の濃さを避ける学習のために、ヒトでは血糖値の調節に重要なインスリン受容体が味覚神経細胞ではたらくことをこれまでに明らかにしていました。

線虫にはインスリン受容体の遺伝子が1種類しかありませんが、RNAの加工法が変わることより複数の種類のインスリン受容体が作られます。これまでに、DAF-2cという特定の種類のインスリン受容体が学習行動に必要であることが分かっていましたが、このDAF-2cが作られるしくみや作っている細胞の種類は不明でした。

今回、研究グループはDAF-2cが味覚神経細胞を含む限られた種類の神経細胞でのみ作られることを発見しました。線虫の神経系にはたった302個の神経細胞しかありませんが、個々の神経細胞が個性的な役割を担っています。これらの神経細胞の中の特定の細胞のみでRNAの加工法を切り替えてDAF-2cを作り出すしくみを明らかにし、このしくみが線虫の学習行動に重要であることを示しました。

「今回の研究から、記憶や学習に関わる神経細胞の特性を作り出すしくみの一端が明らかになりました。」と富岡助教は話します。「今回見つけたのと同じようなしくみで哺乳類の神経細胞の特性や学習能が決まっている可能性があり、今後の研究の進展が期待されます」と続けます。

論文情報

Masahiro Tomioka, Yasuki Naito, Hidehito Kuroyanagi, Yuichi Iino, "Splicing factors control C. elegans behavioural learning in a single neuron by producing DAF-2c receptor", Nature Communications Online Edition: 2016/05/20 (Japan time), doi:10.1038/ncomms11645.
論文へのリンク(掲載誌UTokyo Repository

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