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細胞の「整流作用」? 粘菌が波を使って集まれる仕組み 誘引物質の進行波前面でのみ粘菌が応答する機構

掲載日:2014年11月14日

細胞性粘菌は、単細胞として過ごす時期と、細胞が集合して子実体と呼ばれる多細胞構造を形成する時期とを繰り返します。細胞性粘菌の集合の合図は、細胞間を波のように伝搬する誘引物質が担っており、細胞は誘引物質の濃度がより高い方へ移動します。しかし、それでは、誘引物質の波が進行方向からやってきて去りゆく過程においては細胞が元居た場所へ戻っていってしまう「走化性パラドクス」が生じます。細胞が去りゆく波に“惑わされず”、一方向に動いていく仕組みの解明が待たれていました。

誘引物質サイクリックAMP(cAMP)の波の進行方向(外向き)に対して、細胞性粘菌は逆向き(内向き)に移動して集合する(上)。しかし波の前と後ろは空間的に対称な濃度勾配であるため、勾配を単に登る運動では、波の背面で細胞は逆戻りしてしまい、これでは集合できない(下)。波の前面と背面では時間的に濃度が上昇しているか減少しているかの違いがあるが、細胞性粘菌では時間的に減少する勾配を無視するための性質(整流作用)があることが分かった。

© 2014 中島昭彦 澤井哲
誘引物質サイクリックAMP(cAMP)の波の進行方向(外向き)に対して、細胞性粘菌は逆向き(内向き)に移動して集合する(上)。しかし波の前と後ろは空間的に対称な濃度勾配であるため、勾配を単に登る運動では、波の背面で細胞は逆戻りしてしまい、これでは集合できない(下)。波の前面と背面では時間的に濃度が上昇しているか減少しているかの違いがあるが、細胞性粘菌では時間的に減少する勾配を無視するための性質(整流作用)があることが分かった。

東京大学大学院総合文化研究科の澤井哲准教授らの研究グループは、細胞性粘菌が誘引物質の高い側を検出して、移動するための信号が細胞内で伝達される現象に着目し、誘引物質が5、6分の時間スケールで減少している場合は、これが生じないことを明らかにしました。このような細胞応答は、「整流作用」と呼ばれる信号処理特性でコンピュータなどの集積回路に用いられるダイオードが一方向にのみ電気を流す特性と同等です。この「整流作用」は、誘因物質の濃度変化に応答する反応機構に、ある範囲での変化に対してのみ鋭敏に反応する性質があるために生じることも示されました。この発見は、微小流路内の高精度な層流制御技術と細胞内反応の定量的測定技術の開発、および理論モデルによる検証から可能となったものです。

今回の結果は、誘引物質の波の背面でなぜ、方向を検出する応答が生じないかという粘菌に固有の問題だけでなく、多細胞組織のように外部刺激が時間的にかつ空間的に大きく変化する環境における、細胞の移動方向の決定の動作原理について、大きな手がかりとなるものです。ヒトを含む動物の発生や創傷治癒、免疫反応などにおける細胞移動の機構の理解と、その操作法の開発につながることが期待されます。

プレスリリース

論文情報

Akihiko Nakajima, Shuji Ishihara, Daisuke Imoto and Satoshi Sawai,
“Rectified directional sensing in long-range cell migration”,
Nature Communications 5, 5367, Online Edition: 2014/11/6 (Japan time), doi: 10.1038/ncomms6367.
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大学院総合文化研究科 広域科学専攻 相関基礎科学系

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