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水のような単一の成分からなる液体に2種類の液体の状態が存在 長年の論争に決着

掲載日:2016年11月16日

© 2016 Hajime Tanaka. 黒線は、冷却直後の(アニールなし)の試料(液体1)、青線は、-57℃(216 K)に600分間保たれた(アニールされた)試料(液2)の結果。黄色い線は、温度 Trcから冷やした後、温度を上昇させた際の結果。

2種類の亜リン酸トリフェニルの液体状態の熱挙動
黒線は、冷却直後の(アニールなし)の試料(液体1)、青線は、-57℃(216 K)に600分間保たれた(アニールされた)試料(液2)の結果。黄色い線は、温度 Trcから冷やした後、温度を上昇させた際の結果。
© 2016 Hajime Tanaka.

東京大学生産技術研究所の田中肇教授と小林美加特任助教の研究グループは、単一成分からなる物質が、液体の状態において、構造の異なる二つの状態の間を行き来する液体・液体相転移が、分子性液体である亜燐酸トリフェニルに存在することを裏付ける決定的な実験的証拠を示しました。

液体の構造には気体と同様に秩序がなくランダムであると仮定すると、液体と呼べる状態は1種類しかないと結論付けられます。ところが、水をはじめとして単一成分からなるいくつかの分子性液体では、これまで知られていなかった結晶とは異なる新しい状態(アモルファス相)が最近見つかり、液体の新しい状態ではないかという可能性が議論されてきました。

分子性液体においては、この新しい相は、結晶が融ける温度(融点)以下に冷やされた状態(過冷却状態)にしか存在しません。しかし、このような状態ではナノメートル程度の大きさのナノ結晶も同時に形成されるため、新しい液体の状態への転移ではなく、単なる結晶化であると考える説も有力で、この説を決定的に打破する証拠は見つかっていませんでした。

今回研究グループは、従来の実験手法に比べて4桁速く高速に、温度を上昇・下降できる装置を用いることによって、ナノ結晶の形成を抑えることで、分子性液体の亜リン酸トリフェニルに、2つの液体の状態間を移り変わる液体・液体転移が存在する有力な証拠を突き止めました。また、研究グループは、この液体状態の変化は、ゆで卵を生卵に戻すことのできないように一度起こると二度と元に戻らない変化ではなく、双方の状態を行き来できる可逆的なものであることを明らかにしました。

本成果は、分子性液体における液体・液体転移の存在そのもの、その可逆性を明確な形で示したといえます。また、この研究で用いた実験手法を用いて、他の物質においても液体・液体相転移が存在することを実証できると期待されます。

「単一成分からなる物質に、二つ以上の液体状態が存在するか否かという問題は、液体の本性を理解する上でも重要かつ基本的な問題ですが、長年論争に決着がついていませんでした」と田中教授は説明します。「今回の結果は、液体固有のガラス転移現象に注目することで、最近見つかったアモルファス相が第二の液体の状態であることを明確に示したもので、この長年の論争に決着がつき、液体・液体転移研究の新たな展開につながるものと期待しています」と続けます。

プレスリリース

論文情報

Mika Kobayashi and Hajime Tanaka, "The reversibility and first-order nature of liquid–liquid transition in a molecular liquid", Nature Communications Online Edition: 2016/11/14 (Japan time), doi:10.1038/ncomms13438.
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