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表面の凸凹が液体・液体転移を加速する 液体・液体転移の制御に新たな道

掲載日:2017年3月28日

© 2017 Hajime Tanaka.ラビングで生じた溝が液体2によって完全に充填される様子を顕微鏡で捉えた図(スケールバーは10μm、上)とその模式図。

ラビングで生じた表面の溝が液体2によって完全に充填される様子
ラビングで生じた溝が液体2によって完全に充填される様子を顕微鏡で捉えた図(スケールバーは10μm、上)とその模式図。
© 2017 Hajime Tanaka.

東京大学生産技術研究所の田中肇教授と北海道大学低温研究所の村田憲一郎助教(研究当時、東京大学生産技術研究所)の研究グループは、単一の成分からなる物質が、液体の状態において、構造の異なる二つの状態の間を行き来する液体・液体相転移が、液晶ディスプレーで液晶分子の向きをそろえるのに広く用いられる表面のラビング処理(表面を一方向にこする処理)により加速されることを発見しました。

液体・液体転移は液体の温度を変化させることで起こる現象です。これは、高い温度では、液体1が液体2より安定な状態ですが、低い温度では、この関係が逆転し、液体2の方がより安定な状態となるためです。液体1が液体2に変化する仕方は、2種類あり、一方は温度が変化してから長い待ち時間ののちに変化が見られ(核形成・成長型)、もう一方は、より低い温度で、温度が変化してからすぐに変化が見られる(スピノーダル分解型)という特徴があります。これまで液体・液体転移については、基礎的な研究が中心でしたが、その応用が課題となっていました。

今回研究グループは、液体・液体転移を示す有機液体である亜リン酸トリフェニルを、液晶ディスプレーに広く用いられるラビングにより表面処理された容器に封入すると、通常は核形成・成長型の液体・液体転移がみられる温度においても待ち時間が無くなり、その結果、転移の速度が大幅に速まることを発見しました。また、この原因が、ラビング処理で表面にできた大きさが数ナノメートルの凸凹により、表面とより相性のいい液体2がスピノーダル温度(液体1が液体2へと変化する様式が変わる温度)以上でも、温度変化後すぐに形成されるようになるためであることが明らかとなりました。さらに、ラビングはスピノーダル分解型の液体・液体転移には全く影響も与えないこともわかりました。このことは、液体・液体転移に実際に核形成・成長型とスピノーダル分解型の二つの転移様式が存在し、その転移がスピノーダル温度において急峻に起きていることを直接支持する実験的証拠であるといえます。

「単一成分からなる液体に、二つ以上の液体状態が存在し、その状態の間を転移するという液体・液体転移は基礎的な観点から大きな注目を集めてきましたが、これまで応用という観点からの研究はほとんどありませんでした」と田中教授は説明します。「今回の結果は、ラビングという表面をこするという簡単な処理によって、液体・液体転移の転移速度を大幅に加速できることを示した点で、液体・液体転移現象の応用への新たな展開につながるものと」期待を寄せます。

プレスリリース

論文情報

Ken-ichiro Murata and Hajime Tanaka, "Impact of surface roughness on liquid-liquid transition", Science Advances Online Edition: 2017/02/18 (Japan time), doi:10.1126/sciadv.1602209.
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