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人工カプセルでたんぱく質の生け捕りに成功 自己組織化によって合成したカプセル分子内にたんぱく質を丸ごと閉じ込めた

掲載日:2012年10月25日

東京大学 大学院工学系研究科 応用化学専攻の藤田 誠 教授、自然科学研究機構 岡崎統合バイオサイエンスセンターの加藤 晃一 教授らは、人工的に作り出した直径7ナノ(ナノは10億分の1)メートルのカプセル内部に、たんぱく質を丸ごと閉じ込めることに成功しました。

有機分子とパラジウムイオンを構成成分とする自己組織化によって合成した、たんぱく質を丸ごと閉じ込めた巨大カプセル分子の構造 © Makoto Fujita
この生成物は、単一かつ精緻な構造を有し、その内部空間の内壁は親水性の糖鎖によってコーティングされているために、内部のたんぱく質は安定に保持されています。

自然界では、たんぱく質やDNAなどの生体分子が、ウイルスの殻などの巨大なカプセル状の物質に閉じ込められて構造や活性が制御されたり、必要とされる時まで貯蔵されたりすることが知られています。人工的な化学現象でも、有機小分子などがホストと呼ばれる中空分子に閉じ込められて構造や活性が制御されることが知られています。しかし、これまで人工的に合成した精密な構造を持つ分子カプセルは大型化が難しく、たんぱく質のような大きな生体分子を閉じ込めることができませんでした。

今回研究チームは、金属イオンといくつかの工夫をした有機化合物を混ぜ合わせるだけで自然に秩序ある構造に組み上がる「自己組織化」を利用して金属錯体(人工カプセル)を作製し、そのカプセルにたんぱく質を丸ごと閉じ込めることに成功しました。

この分子については、大型放射光施設SPring-8および高エネルギー加速器研究機構(KEK) フォトンファクトリーで収集した結晶回折データを基に、大学院新領域創成科学研究科(理化学研究所放射光科学総合研究センター兼任)の高田 昌樹教授と高輝度光科学研究センターの熊坂 崇副主席研究員のグループにより結晶中での分子構造が解析され、人工カプセルにたんぱく質が包み込まれた様子が明らかになりました。また、超遠心分析データを基に、大阪大学の内山 進 准教授のグループにより溶液中での分子量が解析され、溶液中でもカプセルがたんぱく質を安定に閉じ込めている様子が明らかになりました。

本手法により、巨大な生体分子を丸ごと精密な人工カプセルに包み込めることから、たんぱく質の構造決定や機能改変に応用することによって、創薬などの産業への貢献が期待されます。本研究成果は、2012年10月2日(英国時間)に英国科学雑誌「Nature Communications」のオンライン版で公開されました。

プレスリリース

論文情報

Daishi Fujita, Kosuke Suzuki, Sota Sato, Maho Yagi-Utsumi, Yoshiki Yamaguchi, Nobuhiro Mizuno, Takashi Kumasaka, Masaki Takata, Masanori Noda, Susumu Uchiyama, Koichi Kato ,Makoto Fujita,
“Protein encapsulation within synthetic molecular hosts”,
Nature Communications Online Edition: 2012/10/2 (London time). doi: 10.1038/ncomms2093.
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大学院工学系研究科

応用化学専攻

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