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ピロリ菌の株間で胃を傷害する強さが異なる理由 がんタンパク質の構造の違いが鍵

掲載日:2016年10月19日

© 2016 Hatakeyama Lab.ヒトの胃の上皮細胞に注入されたピロリ菌がんタンパク質CagAは、細胞の増殖を促す働きとPAR1bの働きを抑えて胃の上皮細胞の構造を破壊するという二つの働きによってがんの発症を促す。CagAがPAR1bを抑える働きは、CagAとPAR1bの結合の強さに関係している。今回、CagAのCMモチーフの地域ごとのバリエーションによって、この結合の強さが異なることがわかった。

胃がんが発症するメカニズム
ヒトの胃の上皮細胞に注入されたピロリ菌がんタンパク質CagAは、細胞の増殖を促す働きとPAR1bの働きを抑えて胃の上皮細胞の構造を破壊するという二つの働きによってがんの発症を促す。CagAがPAR1bを抑える働きは、CagAとPAR1bの結合の強さに関係している。今回、CagAのCMモチーフの地域ごとのバリエーションによって、この結合の強さが異なることがわかった。
© 2016 Hatakeyama Lab.

東京大学大学院医学系研究科微生物学教室の畠山昌則教授らの研究グループは、ピロリ菌のがんタンパク質CagAの特定の領域(CMモチーフ)のバリエーションが、ピロリ菌が胃の粘膜を傷害する強さと関係していることを発見しました。本研究の成果は、ピロリ菌による胃の粘膜への傷害に対する新しい予防法や治療法の開発につながると期待されます。

ピロリ菌が胃粘膜に直接注入する病原タンパク質CagAは萎縮性胃炎、潰瘍、胃がんといったヒトの主要な胃粘膜疾患の発症に深く関与します。これらの疾患は日本、韓国、中国など東アジアで最も高い頻度で認められます。興味深いことに、東アジアに萬延するピロリ菌の種類とそれ以外の地域で見つかるピロリ菌とでは、それぞれが保有するCagAタンパク質の構造が異なり、CagAタンパク質の胃粘膜を傷害する働きが、このバリエーションによって異なる可能性がありました。

今回、研究グループは定量的な手法を用いて、地域ごとに異なることが知られているCagAタンパク質の領域(CMモチーフ)が、CagAタンパク質とPAR1bタンパク質の結合の強さに関連していることを明らかにしました。 CagAタンパク質は、PAR1bタンパク質と結合することによって、胃粘膜を傷害する働きを発揮します。

欧米型のCagAでは欧米型に特有のCMモチーフの繰返し構造が見られ、この繰り返し構造の数が増えるにつれ、CagAはPAR1bと強く結合しました。また、東アジア型のCagAは通常東アジア型に特有のCMモチーフが一つしかありませんが、CagAとPAR1bの結合の強さは、二つの欧米型のCMモチーフを持つ欧米型のCagAと同程度でした。一方、アマゾン流域のCagAも特有のCMモチーフを持ってはいたものの、このCagAはPAR1bと結合できませんでした。

これらの結果から、ピロリ菌のCagAタンパク質におけるCMモチーフの構造の違いがピロリ菌の胃粘膜を傷害する強さを決めていると結論づけました。

畠山教授は「ピロリ菌が保有する病原因子 CagA内の数カ所のアミノ酸残基の違いで、ピロリ菌感染者の臨床経過が大きく異なってくる可能性があります」と話します。「今後、胃がん発症のメカニズムの全容を解明する上でも重要な発見だと考えています」と続けます。

論文情報

Hiroko Nishikawa, Takeru Hayashi, Fumio Arisaka, Toshiya Senda and Masanori Hatakeyama, "Impact of structural polymorphism for the Helicobacter pylori CagA oncoprotein on binding to polarity-regulating kinase PAR1b", Scientific Reports Online Edition: 2016/07/22 (Japan time), doi:10.1038/srep30031.
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