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記者会見「高速コンピュータを用いた大規模解析により、臨床血液検査に関係する46の新しい遺伝子を一度に発見」研究成果

記者会見「高速コンピュータを用いた大規模解析により、臨床血液検査に関係する46の新しい遺伝子を一度に発見」

記者会見「高速コンピュータを用いた大規模解析により、臨床血液検査に関係する46の新しい遺伝子を一度に発見」

 

ご説明内容の要旨:
 2003年にスタートした文部科学省リーディングプロジェクト「個人の遺伝情報に応じた医療の実現プロジェクト」では、これまで約20万人の患者の方に協力いただき、患者の方の臨床情報と血液・DNAサンプルを収集してきました。これらのサンプルは東京大学医科学研究所内の「バイオバンク・ジャパン」にて保管・管理され、個別化医療の実現に向けた研究に利用されています。
 これまでこれらのサンプルを用いて、薬の効果や副作用に関わる遺伝子、病気のなりやすさに関わる遺伝子、また病気の早期発見につながるマーカーなど数多くの研究成果を報告してきました。今回、東京大学と理化学研究所の共同研究により、一人当たり50万箇所の遺伝的多型を「バイオバンク・ジャパン」に保存された14,700人分について決定しました。この膨大なデータを高速コンピュータにより網羅的に、数学的に解析した結果、我々は20項目の血液検査と関連する重要な46個の新しい遺伝子を一度に発見しましたので発表します。

論文の表題:
「日本人における、多数の血液学的および生化学的形質の、ゲノムワイド関連解析(GWAS)」
(Genome-wide association study of multiple hematological and biochemical traits in a Japanese population)

発表雑誌:電子版ネイチャー・ジェネティクス (Nature Genetics online)
論文のオンライン発表日:日本時間2010年2月8日午前3時

日時:平成22年2月3日(水)15:00~16:00
場所:理化学研究所東京連絡事務所(丸の内 新東京ビル7階)

発表者:
松田浩一(東京大学 医科学研究所 ヒトゲノム解析センター シークエンス技術開発分野 准教授)
鎌谷直之(理化学研究所 ゲノム医科学研究センター 副センター長 統計解析・技術開発グループ グループ・ディレクター)

司会: 武藤香織(東京大学 医科学研究所 公共政策研究分野 准教授)


発表内容の特徴と注目点:
1.解析方法 
 方法はゲノムワイド関連解析(GWAS)という、2002年に理研で世界に先駆け開発された方法である。GWASは最先端の研究手法の一つであるが、今や世界で行われるようになっている。多数の人々から得られた遺伝子や、臨床データなどの膨大なデータを数学と高速コンピュータにより解析する。今回の解析には(1cmに3文字を書いて)、地球一周以上にもなるゲノムデータが解析に用いられた。

2.意義
 これまで、医学において分子の重要性を発見する方法は「候補遺伝子アプローチ」であり、実験や分子生物学が重要な役割を演じたが、それに加え「全ゲノムアプローチ」が可能となり、数学が重要な役割を果たすようになってきた。漁業が「一本釣り」(候補遺伝子アプローチ)から「トロール漁法」(全ゲノムアプローチ)に変化した事に例えられる(図1)。トロール漁法が可能になった理由は「海図」ができたからである。つまり、「ヒトゲノム」が完成したために、論理的、数学的に病気などに関連する遺伝子を発見する方法が主流になったのである。今回は、それが病気だけでなく、生物の色々な階層、即ち、細胞、蛋白質、小分子に応用可能であることを示した。
 この研究は基本的にゲノムの多様性と人間の色々な階層の多様性との関連を数学的に発見する研究である(図2)。ゲノムの多様性を蛋白質(TP、アルブミン、Hb、およびγGTPなどの酵素)、小分子(尿酸、クレアチニン、BUNなど)、細胞数(白血球数、赤血球数など)、細胞のサイズ(MCV)の多様性の関連を探索する。このように生命の各レベルの関連を数理的に解明することができたことは画期的な事である。

3.研究結果の概要
 今回の46個の遺伝子の発見は、1つ1つが極めて重要な発見である。例えば、赤血球数やヘモグロビン濃度(血液の濃さ)に関連する遺伝子が明らかとなり、病気の予防や治療に役立つ可能性が示された。それ以外にも、白血球数、血小板数、痛風に関係する尿酸値、アルコールによる肝臓への影響に関係するγGTP、肝臓障害の指標となるアルカリフォスファターゼ(ALP)・AST(GOT)・AST(GPT)、筋肉障害や心筋梗塞の指標となるCK、蛋白質の濃度を示すTP・アルブミン、腎臓障害の指標となるBUN・クレアチニンなどに関係する遺伝子も多数見つかった。詳細については当日お示しします。

4.今後の展望
・本研究によりCK, BUN, γGTP, ALPなどの検査値が遺伝子によりかなり違う(ALPは99、CKは13も違う)ので、今後は遺伝子情報を基に個人ごとの検査値の基準値設定が必要となる(オーダーメイド臨床検査)。
・疾患に関係する遺伝子と、今回の血液検査に関係する遺伝子を組み合わせることで疾患のより正確な診断や、原因究明、更には早期発見や個別化医療が可能になる(オーダーメイド医療)。
・今回は、14,700人分、一人当たり50万箇所の遺伝子多型を用いたデータを解析したが、更に大量のデータが出つつある。医学や生物学において、今後、数学と高速コンピュータの重要性は飛躍的に高まるであろう。次世代スパコンが医療などに極めて有用である事を示唆する大きな成果の一つである。

本件お問い合わせ先:
東京大学医科学研究所 ヒトゲノム解析センター シークエンス技術開発分野 准教授 松田浩一

理化学研究所ゲノム医科学研究センター 
副センター長 鎌谷直之

図1~3はこちら

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