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東日本大震災の復興における、阪神淡路大震災の教訓研究成果

「東日本大震災の復興における、阪神淡路大震災の教訓」

平成23年8月17日

東京大学大学院経済学研究科


1. 発表者:
澤田康幸(東京大学大学院経済学研究科 准教授)
清水谷諭(財団法人世界平和研究所主任研究員)

2.発表内容:
1995年の阪神淡路大震災によって6,434人が犠牲となり、10万以上の住宅が全壊した。Review of Economics of the Householdの2011年12月号に巻頭論文として掲載予定の論文(“Changes in durable stocks, portfolio allocation, and consumption expenditure in the aftermath of the Kobe earthquake”)において、東京大学の研究グループ(経済学研究科准教授の澤田康幸と世界平和研究所の主任研究員である清水谷諭)は、「阪神淡路大震災が生み出した被害に対して人々がどのように対処したのか」ということについて、世帯レベルの詳細なマイクロデータを用いた統計分析の結果を発表している。本論文では、神戸で早期復興ができた理由として二つの点を発見している。第一には、人々が損害を被った資産に対して再投資を積極的に行ったという点、第二には、倒壊した家屋を再建するための資金の借り入れが機能したという点、である。他方、家具や日用品などの損害に対しては、人々は貯蓄の取り崩しや、その他品目の購買を控えることにより買い替えを行った。とはいえ、総じて様々な資産被害に対する効果的な保険メカニズムは存在していなかったため、将来課題としてはそうした保険メカニズムを構築することの重要性が示されている。

本研究結果は、東日本大震災の復興、とりわけ中長期における住宅再建において重要な教訓を持っている。つまり、阪神淡路大震災と同様に、住宅再建にはローンが重要な役割を果たすであろうということだ。しかし、今回の震災で家を失った10万以上の家計の世帯主は、阪神淡路大震災のときと比べて高齢であると考えられており、2005年の国勢調査によれば、例えば約3,600世帯もの家屋が津波によって流された陸前高田市における年齢の中央値は52歳であり、60歳以上の人口が全体の3割を占めている。一般に民間金融機関が60代の高齢者に通常の長期住宅ローンを提供することは難しい。他方、リバースモーゲッジ、つまり居住用不動産を担保として資金を借り入れ、死亡時に不動産の価値と債務残高を清算するしくみ、がこうした問題への優れたアイデアとしてしばしば取りあげられており、阪神淡路大震災後にもその有効性が注目された。しかし、日本ではこうした仕組みは結局広まっておらず、何らかの社会的文化的制約があると考えられている。また、東日本大震災後の住宅復興において仮にリバースモーゲッジ、の仕組みが導入されたとしても、資金規模が住宅再建費用を賄うには十分でない可能性が大である。

では、津波被害による住宅再建費用はどのように賄われるべきか?阪神淡路大震災の後になり、政府は最大で300万円までの資金を家の所有者に助成するという「被災者生活再建支援制度」を導入した。この資金により、被災者が生活再建をより円滑に進めることができるようになった。しかし、家屋の新築はこの金額でも不十分である。今回東日本で起こった津波や地震の被害による住宅資産の回復を支援するためには、政府補助を含むローンなどの補完的な融資の手段とリバースモーゲッジのような新たなアイデアを生活再建支援金などと共に複合的に活用してゆくことが必要とされるであろう。

3.発表雑誌:
Review of Economics of the Household, Springer. <DOI 10.1007/s11150-011-9124-7>
論文タイトル:“Changes in durable stocks, portfolio allocation, and consumption expenditure in the aftermath of the Kobe earthquake,”
著者:澤田康幸、清水谷諭
2011年12月号巻頭論文(Lead Article)

4.問い合わせ先:
澤田康幸(東京大学大学院経済学研究科 准教授)

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