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細胞死や免疫応答を調節する新たな分子メカニズムを発見研究成果

細胞死や免疫応答を調節する新たな分子メカニズムを発見

平成26年1月22日

東京大学大学院薬学系研究科



1.発表者:
一條秀憲(東京大学大学院薬学系研究科 教授)
松沢厚(東京大学大学院薬学系研究科 特任准教授)
丸山剛(元 東京大学大学院薬学系研究科 特任研究員)

2.発表のポイント:
◯神経変性疾患や糖尿病、アレルギー・炎症などで見られる過剰な細胞死や免疫応答を抑制するタンパク質(Roquin-2)を同定しました。
◯タンパク質Roquin-2は、活性酸素により誘導される過剰な細胞死や免疫応答を促進するタンパク質を分解して抑制できることを見出しました。
◯本成果は、活性酸素によって誘導される細胞死が関与する、神経変性疾患や炎症などの疾患に対する新たな治療薬の開発に貢献するものと期待されます。

3.発表概要:
  活性酸素(注1)によって誘導される細胞死は、脳や心臟などの虚血性臓器障害やパーキンソン病といった神経変性疾患、糖尿病、がんなど、さまざまなヒトの疾患に関わります。また、過剰な免疫応答はアレルギーや炎症を引き起こし、ぜんそくやリウマチなどの自己免疫疾患につながります。しかし、このような細胞死や免疫応答がどのような分子機構で調節されているかについては、不明な点が残されていました。
東京大学大学院薬学系研究科の一條秀憲教授、松沢厚特任准教授、丸山剛元特任研究員らの研究グループは、これまでに活性酸素によって誘導される細胞死や免疫応答を促進する細胞内のシグナル伝達分子(注2)であるタンパク質ASK1を発見し研究を進めてきました。今回の研究では、ASK1の分解を促進させる新たなタンパク質Roquin-2を発見しました。Roquin-2は、分解されるべきタンパク質の目印となる分子、ユビキチン(注3)をASK1に結合することで、ASK1の分解を促進させ、不活性化させます。この仕組みにより、生体内で起こる過剰な細胞死や免疫応答が適切に調節されていることが示唆されました。
本成果により、ASK1の活性を調節するRoquin-2のようなタンパク質を標的とすることで、活性酸素誘導性の細胞死が関与する神経変性疾患や炎症、自己免疫疾患など、さまざまなヒトの疾患に対する新たな治療薬の開発につながると期待されます。
本成果は、2014年1月21日(米国時間)に、米国の科学雑誌「Science Signaling」のオンライン版に公開されます。なお、本研究は、文部科学省脳科学研究戦略推進プログラムの一環として、また科学研究費補助金、先駆的医薬品・医療機器研究発掘支援事業、ならびに最先端・次世代研究開発支援プログラムなどの助成を受けて行われました。

4.発表内容: 
<研究の背景>
  生体内での活性酸素の過剰な産生は、生体を構成するタンパク質やDNA、細胞膜などに傷害を与え、修復できない程度まで細胞が障害を受けると細胞死が誘導されます。このような活性酸素で誘導される細胞死は、心筋梗塞や脳梗塞といった虚血性疾患や神経変性疾患、糖尿病、がんなどさまざまなヒトの疾患に関与することが知られています。また、過剰な免疫応答は、強いアレルギー反応や炎症を引き起こし、ぜんそくや皮膚炎、リウマチなどの自己免疫疾患につながります。しかしながら、このような細胞死や免疫応答が、どのような仕組みによって調節されているかについては、不明な点が残されていました。
東京大学大学院薬学系研究科の一條秀憲教授、松沢厚特任准教授、丸山剛元特任研究員らの研究グループは、これまでにASK1というタンパク質が活性酸素誘導性の細胞死や免疫応答を促進すること、ASK1が活性化されるとそれに伴ってASK1がユビキチン化され、分解されることも見出していました。しかし、ASK1のユビキチン化に関与する分子やユビキチン化の仕組みは明らかではありませんでした。

<研究の詳細>
  今回、一條教授らの研究グループは、活性酸素誘導性の細胞死や免疫応答を促進する細胞内のシグナル伝達分子であるASK1というタンパク質に注目し、その分解を促進させる新たなタンパク質を同定し、細胞死や免疫応答を適切に調節する仕組みを見出しました。具体的には、特定のタンパク質を消失させるRNA干渉法(注4)を用いたスクリーニング(注5)によって、ユビキチン化に関わる約1500の遺伝子の中から、このASK1のユビキチン化分解を促進するタンパク質を探索したところ、Roquin-2という新たなユビキチン化酵素タンパク質を発見しました。解析の結果、Roquin-2は、実際にヒトの細胞において、活性酸素の刺激によって活性化したASK1をユビキチン化し、分解を促進すること、また、活性酸素によって誘導される細胞死を抑制することが分かりました。さらに、実験に広く用いられている原始的なモデル生物である線虫において、Roquin-2がASK1を分解することによって、細菌に対する免疫応答を調節していることも見出しました。これらの結果は、Roquin-2が、ASK1のユビキチン化分解を介して、活性酸素による細胞死や免疫応答を調節するタンパク質であること、また、このRoquin-2によるASK1の分解は、原始的生物である線虫からヒトまで進化的に保存された重要な仕組みであることを示しています。以前に、研究グループは、Roquin-2とは逆の働きをする、ASK1からユビキチンを外すタンパク質としてUSP9Xを同定し、USP9XがASK1の分解を抑制してその活性を持続させ、活性酸素誘導性の細胞死を促進することを見出していました。この結果も合わせると、生体内で起こるASK1を介した活性酸素誘導性の細胞死や免疫応答は、USP9Xや今回同定されたRoquin-2のバランスによって適切に調節されていることが示唆されました。

<社会的意義・今後の期待>
  今回の重要な研究成果として、ASK1タンパク質のユビキチン化分解の調節を介して、活性酸素によって誘導される過剰な細胞死や免疫応答を抑制する新たなユビキチン化酵素タンパク質Roquin-2を発見しました。Roquin-2は、このような過剰な細胞死や免疫応答を原因とする虚血性疾患や神経変性疾患、炎症や自己免疫疾患など、さまざまなヒトの疾患に対する新たな治療標的となることが期待されます。

5.発表雑誌: 
雑誌名:Science Signaling

論文タイトル:
Roquin-2 promotes ubiquitin-mediated degradation of ASK1 to regulate stress responses.

著者:
Takeshi Maruyama, Toshihiro Araki, Yosuke Kawarazaki, Isao Naguro, Susanne Heynen, Pedro Aza-Blanc, Ze’ev Ronai, Atsushi Matsuzawa and Hidenori Ichijo

6.問い合わせ先: 
東京大学大学院薬学系研究科 薬科学専攻 細胞情報学教室
一條秀憲 教授

東京大学大学院薬学系研究科 薬科学専攻 細胞情報学教室
松沢厚 特任准教授

※「文部科学省 脳科学研究戦略推進プログラム」に関するお問い合わせ
脳科学研究戦略推進プログラム 事務局 (担当:大塩)

7.用語解説: 
(注1)活性酸素:スーパーオキシド、ヒドロキシラジカル、過酸化水素、一重項酸素など、酸素に由来する反応性の高い分子の総称。ミトコンドリアでのエネルギー産生や細胞膜での酵素反応等によって生成される。
(注2)シグナル伝達分子:細胞内外のさまざまな環境の変化を感知し、その情報を核や細胞内の小器官へと伝達する一連の分子群。
(注3)ユビキチン:76個のアミノ酸からなる比較的小さなタンパク質で、他のタンパク質の修飾に用いられ、タンパク質分解やDNA修復、小胞膜輸送、シグナル伝達など多様な生理機能に関わる。特にユビキチンが共有結合によって鎖状に連なったポリユビキチンは、タンパク質分解酵素複合体であるプロテアソームによって認識され、分解されるべきタンパク質の目印となることが分かっている。
(注4)RNA干渉法:標的とする遺伝子と塩基配列が同じ二本鎖RNAを細胞内に導入すると、標的とする遺伝子のmRNAが分解され、その遺伝子の発現が抑制できる技術手法。
(注5)スクリーニング:目的とする遺伝子やタンパク質などを、多くの群の中からさまざまな手法を用いて選別・特定する作業。

8.添付資料:

20140122_01

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