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モバイル端末で電波の強さと方向がリアルタイムで分かる (電波を見える化するARアプリを開発)研究成果

モバイル端末で電波の強さと方向がリアルタイムで分かる
(電波を見える化するARアプリを開発)

平成26年2月21日

東京大学先端科学技術研究センター

1.発表者: 
  長谷良裕(東京大学先端科学技術研究センター 特任教授)

2.発表のポイント: 
◆モバイル端末(注1)の周囲の電波強度や到来方向を端末の内蔵カメラで撮影した風景画像に重畳して見られるAR(注2)アプリケーションを開発しました。
◆本アプリケーションにより、誰でも携帯電話がつながらない場所を調べることや旅先などで受信できる放送局を調べることが簡単にできるようになります。
◆本アプリケーションを開発するために、1)地形による電波遮蔽の影響を考慮しながらリアルタイムで電波強度を高速に計算できる電波強度シミュレータ(注3)を開発し、2)このシミュレータを無線局のデータベースに組み込んだシステムを構築しました。

3.発表概要: 
  放送や無線通信に使われる電波は目に見えないため、場所ごとに異なる電波の強度や到来方向を知るには専用の高価な測定器と大きな指向性アンテナを使って実測するしか方法がありませんでした。モバイル端末でリアルタイムに電波の強度を表示できる「電波の見える化」ツールが作製できれば、この問題は解消され、誰でも測定器なしに、たとえば、携帯電話がつながらない場所を調べたり、旅先や外出先でどの放送局が受信できるかを調べたり、TVアンテナの最適な向きを調べることが簡単にできるようになり、モバイル端末の利便性がいっそう高まると期待されます。しかし、このようなアプリケーションを実現させるためには、種々の課題があり実現には至っていませんでした。

  東京大学先端科学技術研究センターの長谷良裕 特任教授らは、無線局間の干渉計算用に、非常に高速で計算できる電波強度シミュレータを組み込んだ無線局情報データベースを開発・構築しています。今回、そのデータベースにインターネット経由でアクセスし、電波の強度および到来方向をAR(拡張現実)機能によって視覚的にわかりやすく表示するモバイル端末用アプリケーションを開発しました。

  本研究で開発したアプリケーションや技術により、一般のスマートフォンやタブレット等のモバイル端末が電波のヴァーチャル測定器となり、どの携帯基地局とつながるか、どの放送局が受信できるか等がわかる「電波の見える化」ツールとしての実用化が期待されます。

4.発表内容: 
  放送や無線通信に使われている電波は目に見えないため、個々の無線局からの電波がどの方向から来て、どのくらいの強度を持つかは、専門家向けの高価な測定器と大きな指向性アンテナを用いて実測するしか方法はありませんでした。多くの場所で測定するには大変な労力を要し、しかも、周波数帯ごとに違うアンテナをつなぎ替える必要もあります。

  一方、ジャイロやGPS機能が備わっているスマートフォンとAR機能とは元々非常に相性が良く、たとえば、内蔵カメラで撮影している山や星の風景画像の画面上にその山や星の名前を重畳表示したり、店の名前やセール情報を重畳表示したりするARアプリケーションが今までに開発され数多く流通しています。AR機能を利用して、無線局の電波強度表示に適用することができる「電波の見える化」ツールが作製できれば、誰でも測定器なしに、携帯電話がつながらない場所を調べたり、旅先や外出先でどの放送局が受信できるかを調べたり、TVアンテナの最適な向きを調べることが簡単にできるようになります。加えて、今までの一般的なARのように対象物の静的な情報を表示するだけではなく、サーバ側でスマートフォン利用者の位置における無線局の電波強度を瞬時にシミュレーション計算してリアルタイムでスマートフォン画面に表示させることによって、モバイル端末の利便性がいっそう高まると期待されます。しかし、このようなアプリケーションを実現させるためには、種々の課題があり実現には至っていませんでした。

  電波強度を瞬時にシミュレーション計算するには、送信側の無線局とユーザ間の距離に応じた距離減衰だけでなく、伝搬経路途中の地形による遮蔽効果(回折減衰)等も考慮する必要があり、断面図作成や遮蔽点探索に多くの計算時間が費やされるため、今までの電波強度シミュレータでは、周囲に多くの無線局がある場合には、電波強度をリアルタイム表示させることが困難でした。

  今回、東京大学先端科学技術研究センターの長谷良裕 特任教授は、このシミュレーション計算を高速化するため、電波の伝搬経路途中にある多くの遮蔽点ごとの遮蔽損失を個別に計算するのではなく、多くの遮蔽点を1つの大きな仮想遮蔽点で置き換えて計算する手法の導入や、全国の地表面標高データをハードディスクではなく半導体メモリ上に常時展開すること等により、ユーザ位置から半径100km以内にある100局程度までの無線局の全ての電波強度を1秒以内で自動的に高速計算できる電波強度シミュレータを無線局データベースの中に組み込んだシステムを構築しました。

  このシステムにより、放送局や携帯基地局等の無線局情報をあらかじめ無線局データベースに蓄積してしまうことで、任意の地点での電波強度や到来方向だけでなく、周波数ごとの電波の混雑具合等も目に見える形で表示する「電波の見える化」ツールを実現する可能性を提示しました。具体的には「電波の見える化」ツールを用いると、一般に広く普及しているスマートフォンやタブレット等のモバイル端末で、端末の周囲にあってデータベースに登録されている無線局からの電波強度および到来方向が、アンテナなしでリアルタイムにわかるだけでなく、AR機能により、内蔵カメラを通して見ている風景画像中に無線局の名前や電波強度を示すアイコンが提示され、無線局の方向や電波の強さを視覚的に確認できるようになります(図1,2)。また、アイコンをタップすることで、無線局の位置・周波数・送信出力等の詳細情報やその無線局周囲の電波強度マップ等も表示させることができます(図3)。つまり、モバイル端末を電波のヴァーチャル測定器として使うことができるようになり、誰でも簡単に携帯電話がつながらない場所を調べたり、旅先や外出先でどの放送局が受信できるかを調べたり、TVアンテナの最適な向きを調べることができるようになります。

  今回は、地域や無線局数が限定された試験運用にとどまりますが、将来的に各種無線局の詳細情報(周波数、位置、アンテナ高、送信出力等)を共通的に網羅するデータベースが整備されれば、広く一般の方々でも任意の場所での無線電波の使われ方や混雑度合いを簡単に確認できるようになります。さらに、表示するデータも、単に無線局ごとの電波強度や到来方向だけでなく、周波数別の強度分布や定点での実測値との比較、無線局間の干渉予測と回避手段等への拡張も期待されます。また、周波数の有効利用や電波利用の啓蒙活動等への効果も期待されます。

  なお、本研究開発の一部は、総務省の委託研究「電波資源拡大のための研究開発」の一環として実施されたものです。
 
5.発表雑誌:
  電子情報通信学会 移動通信ワークショップ(2014年3月3~5日、早稲田大学理工学部にて開催)にて「地形を考慮して利用可否判断を行うホワイトスペースデータベース」という題目の講演の中で発表予定です。
  また、電子情報通信学会 総合大会(2014年3月18~21日、新潟大学にて開催)にて「電波伝搬シミュレータを利用したスマートフォン用電波の見える化ツール」という題目で発表予定です。

6.問い合わせ先:
  東京大学先端科学技術研究センター 長谷良裕 特任教授

7.用語解説: 
  (注1) モバイル端末:現時点ではAndroid OS で動く端末のみをサポートする。
  (注2) AR(Augmented Reality拡張現実):現実に見ている世界に何らかの追加情報を重ねて表示し、現実世界を拡張した情報が見られるようにする機能または技術のこと。
  (注3) 電波強度シミュレータ:電波の送信点から受信点までの伝搬経路途中にある地物での遮蔽や回折効果を計算して、任意の受信点での電波強度をシミュレーション表示する計算機ソフトウェアのこと。

8.紹介ビデオ:
  内容をより理解していただくための簡単な紹介ビデオを下記サイトからご覧いただけます。
http://youtu.be/QQwz4aqy1_0

9.添付資料:

20140221_01
図1.開発したアプリケーションの使用例

20140221_02
図2.画面例(AR表示画面)

20140221_03
図3.画面例(電波強度マップ画面)

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