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4つのセンサ・デバイスを国際学会MEMS2015で発表 東京大学IRT研究機構がポルトガル、エストリルにて研究成果

4つのセンサ・デバイスを国際学会MEMS2015で発表
東京大学IRT研究機構がポルトガル、エストリルにて

平成27年1月19日

東京大学大学院情報理工学系研究科

 

1.発表者: 東京大学IRT研究機構 下山 勲 教授

 

2.発表のポイント:
◆微小量の液滴(3 μL、直径 1.8 mm)の正確な粘度測定に成功
◆気圧センサの感度を大幅に向上し、1cmの精度で高度計測を実現
◆マスク表面に柔軟な湿度センサを形成し、口内湿度の計測に成功。口内湿度管理による
インフルエンザの予防に。
◆マイクロピエゾ抵抗型片持ち梁を用いた弾性表面波計測に成功

 

3.発表概要: 
東京大学IRT研究機構(IRT、*1)の下山勲教授らは、2015年1月18日から22日にかけてポルトガル エストリルで開催される国際学会MEMS2015(The 28th IEEE International Conference on Micro Electro Mechanical Systems)で、4つのセンサ・デバイスに関する発表をします。
(1) 粘度計
下山勲教授および同大学大学院情報理工学系研究科博士課程3年生のグェン タンヴィン大学院生らは、微小量の液滴(体積3 μL(マイクロリットル)、直径 1.8 mm)の振動をピエゾ抵抗(*2)型カンチレバー(*3)アレイで計測し、その振動の減衰率から液滴の粘度(*4)を正確に測定することに成功しました。従来の粘度計と比べ、必要となる液体のサンプル量を10分の1に少なくすることができました。大量の試料を準備することが難しい血液検査への応用が期待されます。
(2) 圧力センサ
下山勲教授および同大学大学院情報理工学系研究科修士課程2年生の渡辺諒大学院生らは、従来の気圧センサの性能を大幅に向上し、GPSでは計測できない、地面からの高度を1cm、気圧差で0.1Pa(パスカル)の精度で計測することに成功しました。これによって、マルチロータのヘリコプタの高度計測とホバリング制御システム、登り降りのエネルギー消費の違いを考慮した活動量計、上下に建設された一般道と高速道路を区別できるカーナビゲーションなどへの応用が期待されます。
(3) 湿度センサ
下山勲教授および同大学大学院情報理工学系研究科の竹井裕介特任助教らは、マスクの表面に柔軟な湿度センサを形成することで、口内の湿度計測を実現しました。インフルエンザウイルス繁殖防止のための口内湿度の管理などに役立つことが期待されます。また、衣服の通気性の評価や発汗の検出にも応用できる可能性があります。
本湿度センサは、イオン液体を布に塗布することで製作しており、柔軟な構造であるという特徴があります。
(4) 弾性表面波計測デバイス
下山勲教授および同大学IRT研究機構のグェン ミンジュン特任研究員らは、ピエゾ抵抗型片持ち梁(カンチレバー)で弾性表面波(SAW、*5)を計測することに成功しました。
従来、弾性表面波は圧電素子で計測されてきましたが、MEMS技術で作られた厚さ300nm(ナノメートル)のカンチレバーは、複雑な計測回路が要らず、広帯域の周波数において微小な弾性波を非常に敏感に検出できます。また、圧電材料とは異なり、ピエゾ抵抗型材料でデバイスを小型化しても感度が落ちないというメリットがあります。このデバイスは、携帯電話のバンドパスフィルタに使われているSAWデバイスとして応用できるだけでなく、広帯域の周波数に対応できる医療用超音波エコーのプローブや、構造物が破壊する前に発する超音波信号を計測することによるインフラ・ヘルス・モニタリングへの応用が期待されます。

 

4.発表内容:
(1) 粘度計
血液の粘度計測は血液の流動性を評価するために非常に重要です。これを低侵襲で行うために、微小体積で計測できる粘度計が望まれています。従来の粘度計は毛細管型、落球型、回転型などのさまざまなものがありますが、粘度を計測するためには少なくとも50 μL以上の液体試料が必要でした。
そこで、下山教授らは、微小量の液滴(体積3 μL、直径 1.8 mm)の粘度の正確な計測を実現しました。計測原理は図1に示すように、液滴の振動をピエゾ抵抗型カンチレバーアレイで計測し、その振動の減衰率から液滴の粘度を算出します。液滴が乗っている基板を液滴の共振周波数で振動を加えると、液滴は大きく振動します。振動を止めると液滴の振動は徐々に減衰しますが、その減衰率は液体の粘度に依存します。粘度が高い液滴の振動は加振を止めるとすぐに減衰し、粘度が低い液滴は長く振動し続けます。液滴振動の減衰率は粘度に比例するので、液滴振動の減衰率を計れば、粘度が分かります。本デバイスで用いているピエゾ抵抗型カンチレバーは非常に小型かつ高感度であるため、微小な液滴の振動を正確に計ることができます。
実際に作製したデバイスの顕微鏡写真を図2に示します。デバイス上には、13個のカンチレバーが規則的に配置(アレイ状)されています。製作したカンチレバーアレイを用いて、粘性の異なる3 μLの液滴の振動を計測しました。実験結果から液滴振動の減衰率が粘性に比例することが確認され、提案したカンチレバーアレイによって液滴の粘度が計測可能であることを示しました。
今回提案した粘度計測計は数μLというごく微量のサンプルで粘度を計測できるので、将来的には家庭で血液の流動性が測れるようになるかもしれません。その他にも、計測に利用できる試料の体積に制限があるような液体の粘性評価にも有効です。

参考:
MEMS2015 website: http://www.mems2015.org/
N. Thanh-Vinh, K. Matsumoto and I. Shimoyama
“A viscometer based on vibration of droplets on a piezoresistive cantilever array”

 

(2) 圧力センサ
GPSを利用すると地表面での位置は計測できますが、地表面からの高度を計測することはできません。小型、マルチロータのヘリコプタでは、地表面からの高度を計測する方法の一つとして気圧計を利用しています。1cm高度が上がると、気圧が0.1Pa下がることが知られていますが、従来の気圧計は気圧で数Pa、高度で数10cmの精度でした。そこで、従来の気圧センサと、上下動による気圧差を感度よく計れるセンサを組み合わせることによって、センサの置かれた位置での高度や気圧を1cm、0.1Paの精度で計測することに成功しました。
このセンサによって、人の目が届きにくい橋梁の目視検査や災害時の画像情報を取得するマルチロータ小型ヘリコプタの高度計測とホバリング制御システム、階段や坂道の登りと下りで消費するエネルギーの正確な見積もり、登った階段の数を記録できる活動量計、また、一般道の上に高速道路が建設されたような状況でどちらの道を進行しているかが把握できるカーナビゲーションなどへの応用が期待されます。
このセンサは、図3に示すようなダイアフラム型の気圧センサと片持ち梁型の微差圧センサを組み合わせています。従来のダイアフラム型の気圧センサで階段昇降時の気圧を計測すると、図4のような結果が得られます。今回開発した気圧センサを用いると、図5に示すように従来の気圧センサでは計測できなかった高低差を精度よく計測できました。

参考:
MEMS2015 website: http://www.mems2015.org/
R. Watanabe, N. Minh-Dung, H. Takahashi, T. Takahata, K. Matsumoto and I. Shimoyama
“Fusion of cantilever and diaphragm pressure sensors according to frequency characteristics”

 

(3) 湿度センサ
下山教授らは、マスク表面にイオン液体を塗布した湿度センサを製作し、人間の呼気、吸気時の湿度変化を計測しました。図6に示すように、マスク表面に形成した湿度センサにより、呼吸時の口内の湿度が70%~80%程度に保たれていることがわかりました。一般的に、湿度40%未満の環境では、口腔粘膜が乾燥しインフルエンザウイルスの生存率が高くなるため、外気湿度の低い冬の時期には、湿度を40%以上に保つことが推奨されています。ヒトの口腔内の湿度の計測には、吸入装置などの大掛かりな計測機器が必要であったため、簡易に測定することは困難でした。今回、下山教授らがマスク表面に形成した本湿度センサによって、マスクを装着したときの口腔内湿度をリアルタイムに計測し、口腔内湿度に及ぼすマスクの有効性が示されました。また、衣服の繊維に湿度センサを形成することで、発汗の検出、衣服の通気性の評価にも応用が期待されます。
一般的な電気式湿度センサは、感湿体として多孔質のセラミックスや吸湿性の高分子膜を用いて、空気中の水分を吸収したときの電気容量、電気抵抗の変化から湿度を計測します。下山教授らは、この感湿体としてイオン液体をコーティングした不織布を用いることで、柔軟な感湿体を持つ湿度センサを実現しました。
イオン液体は、その分子構造に応じてさまざまな気体や水蒸気を選択吸着し電気抵抗が変化する性質があります。EMIMBF4と呼ばれる、水を溶かす性質を持つイオン液体を不織布や紙などに塗布し、その後イオン液体をゲル化し繊維表面に固定しました(図7)。
製作したセンサは、40%から80%の相対湿度の変化に対して線形に抵抗値が変化し、湿度に対する応答速度が一般的な半導体湿度センサの10倍も速いことが実験によりわかりました。これは、本センサでは繊維の一本一本が感湿体となるため表面積が大きく、水分の吸着、脱着が効率的に行えることに起因しています。これにより、呼吸のような速い周期の湿度変化の計測が実現しました。
本成果の一部は、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)共同研究事業「グリーンセンサ・ネットワークシステム技術開発プロジェクト」の結果得られたものです。

参考:
MEMS2015 website: http://www.mems2015.org/
Y. Takei, K. Matsumoto, and I. Shimoyama
“Ionic-gel-coated fabric as humidity sensor”

 

(4) 弾性表面波計測デバイス
弾性表面波(以下、SAW)は物体表面に沿って現れる特徴的な弾性波であり、1885年にレイリー(Rayleigh)によって発見されて以来、今日まで数多く応用されてきました。
今回、下山教授らは、従来の方法によく使われている圧電素子ではなく、ピエゾ抵抗型片持ち梁(カンチレバー)でSAWを計測することで、小型・高感度・広帯域のSAW計測デバイスを実現しました。従来の圧電素子に比べて、MEMS技術で作られた厚さ300nmのカンチレバーは、複雑な計測回路がいらず、広帯域の周波数において微小な弾性波を非常に敏感に検出できます。また、圧電材料とは異なり、ピエゾ抵抗型材料はデバイスを小型化しても感度が落ちないというメリットがあります。このデバイスは、携帯電話のバンドパスフィルタに使われているSAWデバイスとして応用できるだけでなく、周波数が広帯域の医療用超音波エコーのプローブや、構造物が破壊する前に発する超音波信号を計測することによるインフラ・ヘルス・モニタリングにも応用できると期待されます。
本デバイスでは、カンチレバーと周りの壁との隙間を液体で埋めた構造を用いています(図8)。空気中においたカンチレバーは、計測できる周波数がせいぜい数十kHz(キロヘルツ)ですが、液体と空気の境界面にカンチレバーを設けることにより、超音波によって振動する液体表面に従ってカンチレバーが振動するので、計測可能な周波数帯域がMHz(メガヘルツ)まで非常に広くなります。このピエゾ抵抗型カンチレバーはシリコン基板のデバイス層内に作られており、カンチレバーの表面にはピエゾ抵抗層が存在します。振動によってカンチレバーが変形してピエゾ抵抗層の抵抗値が変化し、この抵抗値の変化を計測することで、SAWによる振動の伝わり方を定量的に計測することができます。カンチレバーの大きさは150 μm(マイクロメートル) × 100 μmで、厚さは 300 nmです。さらに、カンチレバーの周りは1 μmと非常に狭い隙間をもち、表面張力によって液体が下の空気室に漏れない構造になっています。液体としてシリコンオイルを使用することによって、100MHzオーダーまでSAWを計測できることを確認しました。
本成果の一部は、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)共同研究事業「インフラ維持管理・更新等の社会課題対応システム開発プロジェクト」の結果得られたものです。

参考:
MEMS2015 website: http://www.mems2015.org/
N. Minh-Dung, P. Quang-Khang, N. Thanh-Vinh, K. Matsumoto and I. Shimoyama,
“Measurement of surface acoustic waves propagation using a piezoresistive cantilever array”

 

5.問い合わせ先: 
東京大学IRT研究機構
東京大学大学院情報理工学系研究科 教授 下山 勲(しもやま いさお)
URL : http://www.leopard.t.u-tokyo.ac.jp/

 

6.用語解説: 
(*1) IRT研究機構:少子高齢化社会をロボット技術で支えることを目的とし、2008年4月1日に東大総長室直轄として誕生した研究組織。
(*2) ピエゾ抵抗:応力・たわみによって電気的な抵抗値が変わる材料。
(*3) カンチレバー:一端が固定され、他端は動くことができる梁。
(*4) 粘度:物質のねばりの度合。
(*5) 弾性表面波(SAW):物体表面に沿って現れる特徴的な弾性波。

 

7.添付資料: 

 


図1:今回開発した、液滴粘度の計測原理

 


図2:粘度計のために製作したピエゾ抵抗型カンチレバーアレイ

 


図3:片持ち梁型とダイアフラム型の圧力センサを持って、階段昇降をしている様子

 


図4:開発した圧力センサで計測した階段一段分の高さ

 


図5:階段一段分の高さを開発した圧力センサで計測した結果

 


図6:マスク表面に湿度センサを取り付け、呼気と吸気を検出

 


図7:イオン液体でコーティングされた不織布の拡大図

 


図8: 弾性表面波を計測するデバイスの概念図および設計・試作したデバイスの写真

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