東京大学教職員・学生の手記「東日本大震災の発生を受けて留学生に係る対応」

東日本大震災 - 東京大学教職員・学生の手記

平成23年3月11日に発生した東日本大震災発生時の様子やその後の行動、対応、感想等を本学関係者に手記として執筆してもらいました。

東日本大震災の発生を受けて留学生に係る対応

工学系研究科附属国際工学教育推進機構助手 白石 淑子

 私は、国際工学教育推進機構の中で留学生支援業務(工学系と情報理工学系)を担当させていただいている。2012年11月現在、工学部8号館1階(国際推進課各業務チーム配置)の廊下を歩いていると、円滑に英語や日本語でコミュニケーションがとれている留学生、日本語が解らず困った顔をしている留学生、何か怒って英語を機関銃のように捲し立てている留学生、日本人チューターと一緒に来る留学生など様々である。また各講義室ではいろいろな民族の顔をした留学生が楽しそうに日本語を勉強している(毎日3クラスで60人ほど)。私個人としては3.11から3ヶ月ぐらいは、いろいろな想定外の事態に対応し、それ以降は日々の多忙な業務に戻り、このような昔から変わらない情景を眺めながら、大震災や災害リスクの中で、教職員それぞれの個人が安全に機敏に行動できるシステム作りを意識するようになった。本記録では、3.11に8号館1階スタッフが現場で経験し考えたことをもとに、今後の留学生管理強化について組織的に取り組みの必要性を報告させていただきたい。

2011年3月11日(スタッフの声から)

『1回目の地震ですぐに8号館広場に出た。その後日本語教室に戻ったがまた揺れたので少し静観し揺れが大きくなった時点で声を掛け合い外に出た。正確な情報が重要で、言葉が十分に理解できない留学生はさぞかし不安であったと思う。』

『8号館前広場に多くの人が出てきた。皆何がどこで起きたのかわからない様子だった。2号館の最上階が大きく揺れているのが見えた。8号館広場でも号館の下やそばにいるのは危なく、離れたほうがいいと思った。再度、大きく揺れが来た時離れた。8号館はH型鋼で耐震工事をしてあったので崩れなかったのかもしれない。』

『夕刻になる頃、交通網が遮断され、運休停止で帰宅できない留学生は大学に泊まりこみ翌日帰宅した。』

『多くの留学生が母国の両親から早く帰って来るように言われ、日本でのニュースはどうなっているのかきかれた。』

『3.11以降何回か留学生数調査が東大本部から来た。震災で国内外を流動している留学生を把握できず、またわかりにくい仕分け表に人数を入れていく作業は各専攻事務室で負担になった。』

『日本へ戻らなくてはいけないのにビザがおりなく困った留学生がいた。』

『落ち着いても、独りで暮らしている学生は不安で窓口に相談に来ていた。』

『3.11の2日後仙台松島へ40人留学生と見学に行くことになっていた。旅行会社へキャンセルの対応、参加学生への連絡対応をした。』

『震災に対する日本語教室、留学生支援チーム、国際交流室、各専攻事務室、東大全学の連携が必要だと思った。』

留学生「安全安心」管理強化について

留学生管理業務 組織的取り組みの必要性
留学生データ管理 工学系・情理系で16専攻事務室を通じて安否確認することになる。専攻事務室での安否確認は早くて3日間、平均して5-6日間かかった。海外学会中、帰国者、韓国や関西方面への避難者の確認は1か月以上かかるケースもあった。情理系は交流室からもML(メーリングリスト)で確認し172名の7割は翌日には確認した。専攻事務室の中には、1人のスタッフが35研究室へ187名の安否確認をしなくてはいけないケースもあった。さらに研究室の中にはキャンパスが本郷、駒場、柏に分散し、他研究機関や他大学へ委託研究していたり、海外各地へ調査中の留学生もいる。大規模な集団の留学生に対する正確な安否確認ができるシステムの構築が必要である。現時点においても全学でそのようなシステムは作られておらず、国内外からアクセスできる学務システム(UT-mate)に機能追加してみることはできないのであろうか。研究生はUT-mateの利用資格はないので他のシステムが必要になるのかもしれない。
研究科留学生数国籍数
工学部・工学系研究科1099名84ヵ国
情報理工学系研究科172名40ヵ国
(2012年5月1日現在)
留学生居住管理 大震災が夜間に発生したことを想定した場合、単独行動をしてしまう可能性の高いのがアパートで暮らしている留学生である。日本人学生大学院生を対象とした生活実態調査(2009年)では、実家の所在地が関東である割合が59.5%(5年間変化なし)なので、両親や身近な家族がいない留学生はリスクが高い。大学を通じて入寮する宿舎にはJASSO※1お台場、駒場、白金台、三鷹、柏、豊島、追分があり入寮者の正確な安否確認、入退去確認情報管理が、本部→各研究科→各専攻事務室→研究室ルートに依存しないシステムが必要である。
研究科留学生数民間アパート入居者数割合
工学部・工学系研究科1037名665名64.1%
情報理工学系研究科172名116名67.8%
(2012年5月1日現在)
非常時における留学生ビザ管理 再入国ビザを取得せず帰国してしまった留学生が、今度は日本に入国できないケースが多々起きた。このことで在外日本大使館と入国管理局の指示にズレがあり、留学生本人も現場スタッフも板挟みになって解決するまで身動きがとれない状態が起きた。またビザの更新中で手元にパスポートがなく、在日大使館へ片道臨時パスポートを出してもらい強制帰国を行った。日本に戻ろうとしてもパスポートがないので、特別処理で大使館がビザを出してくれる事例があった。通常の留学生ビザ管理は、学務システムを利用し改善してきているが、緊急で一時帰国してしまった留学生から「ビザのことで助けてほしい」とメールに受入教員も現場スタッフも右往左往するだけだったので、3.11で起きたこのようなトラブルを全学で整理しておく必要がある。
奨学金管理 幾つかの外国大使館が留学生に帰国命令を出していた。文部科学省奨学金のルールである受給サインの締切に戻ることができず、命令書のコピーをメールで送ってもらい本人サインではなく大学機関としての代理押印で緊急処理を行った。奨学金について非常緊急時のルールの明文化が必要である。
入学管理 入学時期の変更により、シラバスの変更、講義日程の変更を留学生に周知した。留学生が自国で自然災害が起きることもある。例えばタイの洪水では、修了時期が遅れ、1か月半遅れで渡日した者や、4月入学を10月入学に変更する者がいた。研究生で入学した場合、大学院入試が8月、2月とあり、また専攻によっては修士、博士入試の有無も各年で変更することがあるので、予測のつかない自然災害と個別の入学時期調整に奨学金支給条件も絡み、現場スタッフは親身に相談にのっているが、教員も含めて対応にばらつきも生じており、受入体制についての業務知識の共有化が研究科内で必要になってきている。
研究室・チューター 各研究室に所属する留学生数はまちまち(1~5名、6名~10名、11名~15名…)である。多いところは1研究室に35名の留学生が所属している。チューターは工学系で200名、情理系で20名であるが新規渡日1年以内の留学生がその対象である。研究室での日本人学生は優しく留学生に接してくれていると思うが、事務処理は、研究室秘書への負担が多くなっている事実もある。(そのような実態から工学系で初めてIMSビザサービス※2を導入し全学展開した。)

安全への意識

 8号館1階工学系情理系国際スタッフで、4月入学と10月入学者にガイダンスを開催し、自己紹介、事務配置と業務内容、キャンパスルール、国際化活動の紹介、図書館利用の指導を行っている。「付帯学総」保険(任意加入であるが工学系と情理系で導入している)も説明し、長期間の留学生活のリスク管理を指導している。今年10月のガイダンスでは、社会基盤学の先生から「日本の震災のリスクについて」、コンピュータ科学の先生からは、「最先端の研究生活を送るためのルールの重要性」について話していただいた。3.11以降では、新しく入ってくる留学生も大地震についての意識は高く真剣に耳を傾けている。研究室単位で非常事態の行動を話し合っておいてほしいことと、わたくしたち工学&情理系国際スタッフでは効率的工夫から生まれた時間で留学生に話しかけることを心がけ、身の回りから実践できる安全安心について話し合うようにしている。私は昔からお守りを信じている。両親が旅行してきた釜石大観音のお守りはいつも持ち歩いている。釜石で起こることを耳にすると嬉しかったり悲しかったりする。留学生もそれぞれの母国からのお守り、日本でのお守りから守られていてほしい。

集合写真

工学&情理 新規留学生合同ガイダンス(2012年10月15日)

※1 JASSO:独立行政法人日本学生支援機構
※2 IMSビザサービス:行政書士法人IMSによる留学生等の在留資格申請手続き及び受入れの委託業務



カテゴリナビ
アクセス・キャンパスマップ
閉じる
柏キャンパス
閉じる
本郷キャンパス
閉じる
駒場キャンパス
閉じる