再生のアカデミズム実践編 第2回:「311まるごとアーカイブス」

プロジェクトで復興を支援する再生のアカデミズム実践編 第2回

再生のアカデミズム《実践編》

  3.11の東日本大震災、それに伴う原発事故という未曽有の大災害から1年が経ちました。この1年間、東京大学では様々な形で救援・復興支援を行ってきました。そして、総長メッセージ「生きる。ともに」に表れているよう、先の長い復興に向けて、東大は被災地に寄り添って活動していく覚悟でいます。この連載では、救援・復興支援室に登録されているプロジェクトの中から、復興に向けて持続的・精力的に展開している活動の様子を順次紹介していきます。

「再生のアカデミズム《実践編》 第2回」は、東京大学学内広報NO.1424 (2012.4.23)に掲載されたものです。

プロジェクト名:

311まるごとアーカイブス

吉見 俊哉 教授 (東京大学大学院情報学環)

東日本大震災にかかわる映像や資料を収集し、デジタル保存、公開する「311まるごとアーカイブス」(正式名称:東日本大震災・公民協働災害復興まるごとデジタルアーカイブス)という取組みが進んでいます。被災した市民や自治体、研究機関、大学、NPO、ボランティア、民間企業などが協働で取組むプロジェクト。本プロジェクトの世話人になっている吉見教授(情報学環)にお話を伺いました。

広報課 「311まるごとアーカイブス」とは?

 吉見 大震災の経験を人類共通の資産として後世に伝えるプロジェクトです。震災直後、ある自治体職員から「津波被害の状況を把握したいが災害対応に追われてできない。被害状況の記録を手伝って欲しい」との相談があったことをきっかけに、スタートしました。

 具体的には、現在の事態や将来に向けての対応をできるだけ正確に記録し、残すために以下3つの事を行っています。(1) 東日本大震災の被災地に関するあらゆる記録で、後世に残す必要があると思われるものをデジタルでアーカイブする。(2) アーカイブされた記録は、いつでも誰でも閲覧でき、利用できるような環境を整備する。(3) 収集された記録は人類共通の資産として、今後永久に保管し活用することを目指す。

 このプロジェクトは様々な機関が連携・協働して取り組んでいます。学内でも生産技術研究所の岩井将行助教にフィールドミュージアムづくり(写真【1】)でNFC(近距離無線通信)やスマートフォンの技術を活用して協力いただいていると聞いています。記録すること、記録を収集することに加えて、アーカイブの活動を通じて、地域の絆を再生し、復興を支援することも大事なミッションと考えています。

 
写真【1】大船渡市長にフィールドミュージアムの説明をする岩井助教

広報課 アーカイブスを構築することの意義は?

吉見 記録を残すことの価値は少なくとも3つあるでしょう。1つは、記録そのものの価値。将来の災害を予測するために非常に重要な科学的な価値があります。また、震災以前の祭りの風景の映像などは、文化的にも非常に重要です。2つめは、記録するという行為の価値です。プロジェクトによって、既存の地域や組織を超えた協働性がつくられていく、そうした関係の束そのものが非常に価値あることです。3つめは、活用して生まれる価値です。教科書をつくるなど、アーカイブの活用によって生まれてくる価値があります。

 従来アーカイブは静的なもので、専門家がつくるものと考えられていました。それが、専門家だけでなくいろいろな人が参加し、動的なものになってきています。ソーシャルメディアの普及とともに、扱うデータもケタ違いに膨大になり、つくる側と使う側の区別がなくなってきています。高度に情報化した日本で起きた災害を扱う「311まるごとアーカイブス」の取組みは、アーカイブの新しいプロトタイプになるでしょう。

 

 

JR大船渡駅ホームから盛方向を望む震災前(写真上)と震災後(写真下)

震災前、震災後、復興の過程における写真や映像を収集。被災した方が自ら復興を記録していくことにも大きな意義がある。「311まるごとアーカイブス」では、そうした活動に携わる人材養成やしくみ作りの支援も行っている。

写真提供:神山康氏 311まるごとアーカイブス

 海を越えたハーバード大学のライシャワー日本研究所(所長:アンドリュー・ゴードン教授) で立ち上げた「2011東日本大震災デジタルアーカイブ」でのグローバルな視点からの記録収集・分析の取組みとも緊密な協力体制を整えています。3.11に関する記録の収集・保存は、全世界のために役立つため、日本に閉じた取組みではありません。収集する情報の幅を広げるためにも、プロジェクトの輪を広げ、国を超えての連携も必要になってきます。

広報課 研究者の役割は?

吉見 アーカイブするべきデータは多岐にわたり、材料はそれぞれの機関が持っています。それをまとめ上げ、被災地、研究者、海外等で有効に活用してもらうためのシステムの構築が必要です。そこでの研究者や大学の役割は大きいと思います。また、日本にはこうした災害アーカイブを体系的に推進する公的な制度や財源がないので、大学が政府との窓口になることも想定できるでしょう。

  このプロジェクトは、様々な組織が連携して行っているので、東大としての関与はごく一部になりますが、学術面での大学としての役割を果たすことが求められています。

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「再生のアカデミズム《実践編》」 第2回
構成: 東京大学広報室
掲載: 東京大学学内広報 NO.1424 (2012.4.23)

 

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