再生のアカデミズム実践編 第4回:「仮設まちづくり支援/研究プロジェクト」

プロジェクトで復興を支援する再生のアカデミズム実践編 第4回

再生のアカデミズム《実践編》

  3.11の東日本大震災、それに伴う原発事故という未曽有の大災害から1年が経ちました。この1年間、東京大学では様々な形で救援・復興支援を行ってきました。そして、総長メッセージ「生きる。ともに」に表れているよう、先の長い復興に向けて、東大は被災地に寄り添って活動していく覚悟でいます。この連載では、救援・復興支援室に登録されているプロジェクトの中から、復興に向けて持続的・精力的に展開している活動の様子を順次紹介していきます。

「再生のアカデミズム《実践編》 第4回」は、東京大学学内広報NO.1426 (2012.6.25)に掲載されたものです。

プロジェクト名:

仮設まちづくり支援/研究プロジェクト

大方 潤一郎 教授 (東京大学大学院工学系研究科 都市工学専攻)

工学系研究科の大方潤一郎教授(都市工学専攻)は、震災後の復興支援に向けて、本学の中でも一早くアクションを起こした一人です。大月敏雄准教授(建築学専攻)らとコミュニティ型仮設住宅の提案をし、遠野市と釜石市で採用されました。現在は大方教授が中心となり、仮設住宅地におけるコミュニティ・インフラ整備へ活動を発展させているという情報を得て、お話を伺ってきました。

 

「い・しょく・じゅう」のコミュニティづくり

広報課 先生や大月先生は、全学組織の高齢社会総合研究機構(IOG)*のメンバーでもいらっしゃいますね。

大方 IOGでは、柏市の豊四季台団地地域において「高齢社会のまちづくり」を目指した事業展開を3年くらいやってきました。そこで分かったことは、いくら空間をバリアフリーにしても、引きこもりがちな高齢者は外に出てこない。コミュニティと交流するきっかけを作って外に出ないと、虚弱化し引きこもり、時には自殺に至るということまで起こるということでした。

 そこへ大震災が起き、復興後のまちづくりが議論され始めましたので、我々は「ケアタウン構想」を打ち出し、構造的に引きこもりになりがちな従来の仮設住宅から脱却した、コミュニティ型仮設住宅の提案をまとめました。IOGのつながりで福祉の側へアプローチし、釜石と遠野で採用してもらいました。

広報課 その後、東大と縁の深い大槌町でも活動を展開していますね。

大方 大槌町で保健師による全戸調査を行っていた医学部チームの手伝いをしたことをきっかけに、役場との信頼関係ができました。

 仮設住宅地に対してアドバイスしてくれと町から依頼を受けましたが、大槌では山奥に2千戸ほどの仮設住宅が散らばって建てられ、また住宅・店舗・サポートセンターがバラバラに建っている状況が出来上がっていました。ですので、後付けの環境づくり、特に公共サービスではなく住民が相互扶助できるしくみを中心に居住環境を整えるという提案をし、昨夏から町と一体となってコミュニティづくりを始めました。

広報課 具体的にはどんな活動をされているのでしょう?

大方 「い(医: 対人的ケア、社会的サービス環境)・しょく(職・食:住民の自立的生活を支える社会経済的環境等)・じゅう(住:物的・空間的住環境)」の3側面で攻めて行く作戦です。ちょうど外部資金が採択されたため、フットワークもよくなりました。院生の冨安君が現地に住み込んで一連の支援活動のコーディネートを行っており、我々も頻繁に足を運んでいます。

 まずは「じゅう」から「住環境点検活動」を始めました。住民と一緒に仮設住宅地を回り、問題箇所を写真に撮り地図に張り付け整理、それを仮設住宅の代表者会議へ出し、必要に応じて町・県・国へと働きかけました。これによって仮設住宅の環境改善がだいぶ進みましたね。具体的には、車イスのためのスロープ設置や断熱材の後付け、洗濯干しのための軒の設置に至るまで。建物周りの取り付け道路の舗装や街灯・標識の設置も一部改善されました。住民全員で提案したことが形になった成果です。

広報課 行政へ働きかけるところにも関わるのですね。

大方 都市計画の分野では、役所のコンサル的な仕事を普段から行っています。専門家の立場で問題を整理し提案をまとめ、住民側にも説明し、行政側には住民の要望として持っていく――同じやり方です。

 住環境の改善や医学系と連携した高齢者の実態調査・ケア等を行ってきましたが、仮設コミュニティにおける人のつながりを作るための企画等、ソフト面での環境整備にも着手しています。空間の問題は目に見えますが、ソフト面は暗中模索です。新年会、花見など企画してやっていますが、効果はまだ分かりません。でも、引きこもりの背景は最近分かってきたことなので、やはり専門家が介入して試行錯誤しながら、行政へ働きかけながらやっていかないといけないでしょう。

 「しょく」では、住民中心で展開するコミュニティビジネスも考えています。例えば、一人暮らしの高齢者が集うカフェや託児所。これらはコミュニティにとっても必要な場であると同時に、時間を持て余している高齢者の就業にもつながります。

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「仮設住宅住みこなし通信」(月刊)を仮設住宅の住民向けに発行している。これも信頼関係づくりの一環。「これを楽しみに仮設生活を過ごしています」という声が励みになる。

仮設後のコミュニティに継承したい「相互扶助のしくみ」

広報課 今後の展望を教えてください。

大方 最終的には地域の人たち自身が動かしていくしくみにしなければいけません。いずれ仮設を出て本来のコミュニティに着地した時にどう継承していくか、その時に自立できるものを用意しなければ、という点を意識しています。ソフト面の充実に向け、関係NPOとの関係構築、きっかけづくりの企画、コミュニティビジネスの具体化…等々。そして、住民の中にコミュニティを引っ張っていく人を作ること。自治体によっては人材派遣会社にアウトソーシングし支援員を配置していますが、多くは談話室の管理程度が主な業務です。コミュニティ活動をファシリテートできる調整能力の高い人が必要なのです。いずれも先例がなく難しい。被災地でなくてもできている地域は余りありません。でも、被災地だから、今までバラバラだった人達が集まって生活している環境だからこそ、上手くいく可能性もあると思っています。

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住環境について話し合う住民のみなさん。ひとりの「不満」から団地の「提案」へ

 

 

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「再生のアカデミズム《実践編》」 第4回
構成: 東京大学広報室
掲載: 東京大学学内広報 NO.1426 (2012.6.25)

 

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