再生のアカデミズム実践編 第6回:「八戸市活力創出まちづくり支援プロジェクト」

プロジェクトで復興を支援する再生のアカデミズム実践編 第6回

再生のアカデミズム《実践編》

  3.11の東日本大震災、それに伴う原発事故という未曽有の大災害から1年が経ちました。この1年間、東京大学では様々な形で救援・復興支援を行ってきました。そして、総長メッセージ「生きる。ともに」に表れているよう、先の長い復興に向けて、東大は被災地に寄り添って活動していく覚悟でいます。この連載では、救援・復興支援室に登録されているプロジェクトの中から、復興に向けて持続的・精力的に展開している活動の様子を順次紹介していきます。

「再生のアカデミズム《実践編》 第6回」は、東京大学学内広報NO.1428 (2012.8.27)に掲載されたものです。

プロジェクト名:

八戸市活力創出まちづくり支援プロジェクト

堀 繁 教授 (東京大学アジア生物資源環境研究センター)

あまり知られていないかもしれませんが、青森県八戸市も東日本大震災にともなう津波により被災した地域の1つです。国指定天然記念物にもなっているウミネコ繁殖地である観光地域(蕪島地域)が壊滅的な被害を受けました。5~6年前から八戸市の中心市街地の活性化事業に関わっていた堀繁教授(アジア生物資源環境研究センター)は、市からの依頼を受け、観光地の復興に乗り出しています。

 

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蕪島の中心にある蕪嶋神社とウミネコ。ウミネコが島一体を覆い尽くす風景には圧倒される。(提供:八戸市)

観光振興で地域全体の活性化

広報課 八戸市の被災状況を教えて下さい。

 八戸は、津波被害の一番北端の場所です。幸い人的被害はありませんでしたが、一番被害を受けたのが、八戸の宝とも言うべき観光地である蕪島(かぶしま)地域でした。蕪島には、毎年約3万羽のウミネコが営巣のために春早くから訪れます。間近でウミネコの営巣の様子を観察できる国内唯一の場所として、天然記念物にも指定されている地域です。そこの観光案内や飲食店など全部やられたのは、大きな打撃でした。

広報課 先生の研究テーマの1つに観光地の活性化というものがありますね。

 はい、これまでも国内のいくつかの観光地の活性化に向けた設計計画に携わってきました。ですので、蕪島地域の復興にもこれまでの実績を活かせると思います。

 単に現状に戻す災害復旧の考えから、今はこれを契機に元より良いものにしようという復興という考えが常識になっています。体に例えると、単にケガをしたところを治すだけでなく、それによって身体全体が元気にならないとダメということです。八戸市の復興も、被災した蕪島地域のみならず八戸市全体の振興も含めて考えています。

 具体的には次の2つの点が重要です。

 まず、自然保護をより徹底するということ。ウミネコは敏感な生き物で、環境が変わると営巣を止めてしまうということが分かっていますので、天然記念物であるウミネコを守るという観点から自然保護を徹底しなければいけません。

 もう一点は、ご多分にもれず八戸も他の地方の例と同様に疲弊している地域ですので、観光振興によって地域全体の活性化を目指すという点です。この点については具体的に、まずは観光客を増やすためのより魅力的な地域づくりを、ホスピタリティ(もてなし) ディベロップメントという考え方を中心に再構築し展開します。そして次に、来てもらった人にお金を落としてもらわなければ活性化しませんから、そのしくみを考えます。商品開発をし、楽しい雰囲気やおしゃれなお店等を増やすということを考えています。売れるお店、施設、地域、という観点です。でも、これは漁業組合との関係からなかなか簡単にはいかなかったりもします。

 こういったことを念頭に、20~30年先を見据えた計画を昨年市長へ提案しました。市民への説明も経て、これから実行に移す段階にきています。

 

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【復興構想図】過近接でウミネコに脅威を与えている駐車場を移転し、跡地に築山園地、その築山に埋め込んだ休憩観察舎などを提案。他にも、蕪島全体を眺める滞留拠点、アンジュレーション豊かな斜面と一体のプロムナードなど地区全体の整備構想をまとめた。さらに、寂れた駅前通りのホスピタリティ・ディベロップメントの提案など市全体のまちづくりを支援している。

広報課 実行に移す時に難しいのは何でしょう?

 絵に描いたものを形にするには、資金が必要です。どうやってお金をとってくるのかということを戦略的に考えなければいけません。都市と地方の格差と言いますか、役所の人とは言え、地方は情報が不足しています。環境省のこういうプロジェクトがあるとか、どうしたら資金調達できるかというところまで専門家が関わらなければなりません。いろんな経費を組み合わせて効果的に実施できる方策を一緒に考えます。

 よく「地域住民の意識改革から始めよ」といった意見がありますが、私は意識が変わるのは最後だと思っています。専門家などが先導して実際に経済的にも潤ってからが、地域にとっては本当のスタートなのです。そこまでは私も市と一緒にやっていこうと思っています。

3万羽のウミネコの風景と共に

広報課 頻繁に八戸には行かれているのですか?

 月に2回くらいは行っています。こうしたプロジェクトは教育の側面も大きいので、学生達も一緒にやっています。センターから旅費が出たので助かりました。八戸とのつきあいは長いのでやりやすいのですが、漁業組合の方の、いわゆる漁師言葉というのはいまだに分からないですね(笑)。

 ウミネコの飛来数は震災後も変化なかったと聞いています。自然は強いと実感しますね。地球に生命が誕生してから何十億年という長い歴史の中で大きな災害は幾度もあったわけで、あのような大震災でも生き物は大して驚かないということなのでしょう。彼らにとって、自然災害よりもむしろ人為的なモノ・コトのほうが脅威となっているのではないでしょうか。3万羽のウミネコの風景は壮観ですよ。この環境をそこなわず、人が集い、地域全体が活性する復興に向けて、息の長い支援をしていきます。

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「再生のアカデミズム《実践編》」 第6回
構成: 東京大学広報室
掲載: 東京大学学内広報 NO.1428 (2012.8.27)

 

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