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白い表紙に青い文字で書名と副題

書籍名

シリーズ日本の政治 1 議院内閣制

著者名

川人 貞史

判型など

240ページ、四六判

言語

日本語

発行年月日

2015年4月24日

ISBN コード

978-4-130-32121-1

出版社

東京大学出版会

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議院内閣制

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本書は、現代日本の議院内閣制の政治制度を比較政治学的に各国と比較して相対化することにより、日本の議院内閣制の作動が、他のシステムとは異なることを明らかにする。同じ議院内閣制でありながら、イギリスやドイツの首相たちが総選挙後に議会議員任期まで政権担当することを展望しているのに対して、日本の首相は4年後の任期までの展望を持たないし、持つこともできていない。そして、日本の首相は次の総選挙を待たずに退陣することがきわめて多い。
 
現実の政治の展開をいわば後追いして説明し、あまり疑問を差し挟まないマス・メディアの報道や、特定の政治的立場から政治現象を捉えて論評を加える政治評論は、日本の首相たちが、それぞれ特有の政治状況において政権運営に失敗したために、次々と交代せざるを得なかったと説明するが、本書は、それでは、日本の政治過程を適切に捉えることができていないことを批判する。そして、現代政治学の理論と実証にもとづく研究成果が現実の政治の改善に貢献できることを主張する。
 
日本の首相が長期の展望を持てない主な理由はいくつかある。第1に、首相は解散権を自由に行使できるため、4年間の任期満了まで解散せずに政権担当することを当然とは考えていない。第2に、自民党,民主党など主要政党の党首の任期は3年であり,党首選挙で敗れると首相も辞任する。また、党首が任期満了前に辞任した場合には、後任者の任期は残任期間となるので、党首選が頻繁になる。第3に、3年ごとの参議院選挙で与党の選挙結果が悪いと首相の責任が問われる。第4に、政治家やマス・メディアや政治評論家たちが、比較的短期間の政局の変化を期待しており、毎月実施される内閣支持率の動向や国会運営や、地方選挙の結果、景気状況などすべてを、首相の政治的責任と結びつけて議論しがちであることである。こうして、日本政治における常識は、首相と内閣の任期が衆議院の任期よりも短いということである。
 
本書は、日本の議院内閣制のさまざまな側面について、政治制度とアクターの相互作用に着目した比較政治学的分析を行っている。日本国憲法に規定された議会と内閣の信任関係、衆議院の解散の制度と運用、二院制議会における立法、国会における与野党関係、内閣と行政官僚制の委任責任関係などについて、単に制度の規定にとどまらず、制度ルールがアクターの行動選択肢を制約するコンテクストの中で、自分の効用最大化をめざすアクター同士の相互作用によって、特徴的な政治的帰結をもたらすことを示し、これまで明らかにされていなかった日本の議院内閣制の特徴と動作のあり方を解明している。
 

(紹介文執筆者: 法学政治学研究科・法学部 教授 川人 貞史 / 2016)

本の目次

序 章 現代民主政治と議院内閣制
 1 各国で異なる議院内閣制の作動の理由
 2 本書の構成
第1章 議院内閣制の政治制度
 1 議院内閣制の起源と発展――イギリス
 2 議院内閣制の特質
 3 委任と責任の連鎖
 4 日本の内閣制度
第2章 議会と内閣
 1 内閣の存立と議会
 2 信任関係
 3 解散
 4 立法と2院制
第3章 政党と内閣
 1 議院内閣制における政権と政権合意
 2 議院内閣制における与野党の対立と協調
第4章 首相・内閣・大臣
 1 首相と内閣
 2 官邸・内閣官房・内閣府と閣僚
 3 首相動静に見る政権中枢
第5章 内閣と行政官僚制
 1 行政国家と官僚制への委任
 2 官僚制の政治的コントロール
終 章 議院内閣制と日本政治
 
参考文献 / あとがき / 索引
 

関連情報

シリーズ日本の政治【全11巻】
シリーズ著者 川人 貞史 編
https://www.utp.or.jp/book/b297525.html
 
書評:
Gregory W. NOBLE 評「Toward a Responsive Two-Party System? - A Review of ‘Series: Japanese Politics’ Gi’in Naikakusei (Parliamentary Government)」 (『Social Science Japan Journal』Vol. 19, No. 1, pp 85–97 2016年)
https://academic.oup.com/ssjj/article/19/1/85/2451776
 
藤村直史 評 (『選挙研究』第31巻第2号p.157-159 2016年1月14日)
http://www.bokutakusha.com/books/2016/1.html
 
書籍紹介:
蒔田 純『子どもの誤解を招く?教科書における議院内閣制と三権分立』 (『アゴラ』 2018年8月11日)
https://agora-web.jp/archives/2034206.html
 

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