東京大学教員の著作を著者自らが語る広場

薄水色の表紙にグリッド状に並んだブルーのドットの模様有り

書籍名

岩波テキストブックス 西洋政治思想史 視座と論点

著者名

川出 良枝、 山岡 龍一

判型など

322ページ、A5判、並製

言語

日本語

発行年月日

2012年1月24日

ISBN コード

978-4-00-028907-8

出版社

岩波書店

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西洋政治思想史 - 視座と論点

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本書『西洋政治思想史 - 視座と論点』は、川出と山岡龍一の共著である。その最大の特徴は、時間軸に沿って思想家を並べて叙述するという、西洋政治思想史や政治学史の通常の概説書の形式を大胆に組み替え、重要なテーマごとにまとめるという編成をとったところにある。
 
もちろん、テーマごとの編成ということでいえば、ブルンナー、コンツェ、コゼレックが編者となった8巻からなる概念史研究『歴史の基礎概念』(Geschichtliche Grundbegriffe: historisches Lexikon zur politisch-sozialen Sprache in Deutschland, 1972-97) のような学問的成果が存在する。だが、本書の狙いは、こうした概念史研究の方法論、すなわち、一つの概念の意味変容を追うことで政治的な言説の構造変化を解明するという方向性とも、やや異なる。本書がめざしたのは、正義や権力、自由や参加といった政治における重要な概念について、西洋の政治的思考がいかなる枠組みで論争を積み重ねてきたのかを、より明快な形で読者に提示するところにあった。いわば、古代ギリシアから現代に至る政治の諸問題についての論争史の試みである。歴史的文脈を無視することなく、同時に、現代に生きる我々にとってアクチュアリティを伝えるためには悪くない形式であったと、執筆者二人は密かに自負している。
 
テーマごとに議論の流れを追うという構成をとる場合、きわめて重要になってくるのが、無数にあるトピックスの中から、何を選び、何を捨てるか、ということである。ユニークな概説書を作りたいという二人の野心は、実のところ、形式の問題以上にトピックスとして何を選択するか、というところに向けられていた。まずは王道中の王道である「法の支配」「権力」「富と所有」「迫害と寛容」「参加と統合」などのトピックスが選ばれた。それと同時に、欧米で急激に進んだ政治思想研究の新しい展開の成果を大幅に取り入れることをめざした。ジョン・ダンやスキナーやポーコック等、いわゆるケンブリッジ学派による政治思想史研究の成果を盛り込むべく、「統治の諸形態」や「公共の利益」や「政治とレトリック」といったトピックスを立てた。「正義と善」がジョン・ロールズを強く意識したものであることは自明であるし、ジェンダー研究の隆盛をにらみつつ、「政治と性」という重要な問題にスポットライトをあてた。
 
執筆者としては、それぞれの論点に対して、さまざまな思想家が、ときには時代を大きくまたぎ越してさまざまなアプローチを行い、そこにあたかも時空を越えた論争が展開されているかのような叙述を行った。この小さな書物を読み終えた読者が、ここで取り上げた諸問題をめぐる論争に自ら参加し、さらなる思索を展開していくなら、本書は大半の目的を達成したと言えよう。
 

(紹介文執筆者: 法学政治学研究科・法学部 教授 川出 良枝 / 2017)

本の目次

まえがき
1 西洋政治思想史とは何か
2 統治の諸形態
3 法の支配I
4 キリスト教の衝撃
5 政治と性I
6 権力
7 富と所有
8 迫害と寛容
9 権力批判の論理
10 公共の利益
11 政治とレトリック
12 共同体から個人へ
13 法の支配II
14 参加と統合
15 社会的連帯の基礎
16 政治と性II
17 政治と教育
18 正義と善
19 政治と歴史
あとがき
西洋政治思想史年表
参考文献
人名・書名索引
事項索引

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