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白い表紙に天才児たちと質問のイラスト

書籍名

天才児のための論理思考入門

著者名

三浦 俊彦

判型など

192ページ、A5判

言語

日本語

発行年月日

2015年6月12日

ISBN コード

978-4-309-24713-7

出版社

河出書房新社

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天才児のための論理思考入門

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私が学生の頃は「水平思考」とか「右脳思考」が流行っていました。理詰めで堅苦しく考えるよりも、イメージ・連想・ひらめきによって洞察を得る柔軟な姿勢の方が有望だという「イメージ」が強かったのでしょう。ところがいつのまにか、「左脳思考」の人気が高まってきたようです。理路整然とした理由づけを重んじ、概念の定義・命題の構造・推論の規則など、論理学の基礎を踏まえて考えること。直観やイメージといったあいまいなものを信ずる右脳思考より、ルールに従った万人共通の討論技能が求められるようになったのは、堅実志向・安全志向の堅苦しい時代だからでしょうか。いや、ロジカルであることこそフェアで謙虚な態度であり、長い目で見て個々人のひらめきを一層生かせる道なのだ、そう認知されてきたのでしょう。
 
本書『天才児のための論理思考入門』は、そうした左脳思考路線のクリティカルシンキング本です。ただし素材として、右脳的要素を色濃く取り込みました。というのも、「子どもが抱く (素朴な) 疑問に答える」というコンセプトで書かれた本だからです。TBSのテレビドラマ『エジソンの母』(2008年) の脚本監修を私が務めたとき、毎週、番組公式ホームページに解説記事を執筆しましたが、本書はそれをもとにしているのです。
 
ドラマの舞台は小学校1年生の教室。ハイテンションの転校生が質問を連発して新任女性教師を振り回し、クラスを混乱させる話。子どもの気まぐれな疑問に、大人が可能な限り論理的に答えようとするとどうなるか、その実演が本書というわけです。番組で使われた質問は「どうして1+1=2なの?」といった論理的問題から、虹、電気、大陸移動説などの自然科学的問い、「どうしてよい絵と悪い絵があるの?」「子どもは残酷なお話を読んではいけないの?」といった芸術や倫理の問いまで及んでおり、好奇心旺盛な質問攻めに手加減なしで受けて立つべく、大人が自ら考えつつ答える、という自問自答的な書き方になりました。答え方への自覚を保つため、「物理的な応答」「規範的な応答」「反問型の応答」などに分類するという、やや哲学的な工夫も施してあります。
 
ドラマ放送時間中には、公式サイトの掲示板をはじめ、ネットの実況板がものすごい勢いで伸びていきました。その中には、私の責任範囲にあたる論理問題がらみのコメントもあったので、できるだけ本文に反映させてあります。とくに激しかった批判については、「おわりに」(あとがき) で論じました。批判者を説得できたかどうか…。
 
本書出版の一か月後に、台湾から翻訳のオファーがあり、『如何教出有邏輯力的孩子』(中国語繁体字版) が2017年1月に刊行されました。版元の人類智庫數位科技股份有限公司は、児童書を得意とする出版社のようで、独特の天才児イメージ漂うデザインの本に仕上がっています。

(紹介文執筆者: 人文社会系研究科・文学部 教授 三浦 俊彦 / 2017)

本の目次

はじめに

Step1 問いそのものを問い直そう
1時間目 どうして「どうして」なの?
 問1 どうして1+1=2なの? | 発見とルール
 問2 どうしてまっすぐな虹はないの? | 名目種と自然種
2時間目 どんな疑問にも科学は答えられる?
 問3 世界は昔、ひとつの大陸だったの? | 科学的倫理
 問4 どうして気球は空を飛べるの? | 「すべて」と「なんでも」の違い
 問5 この世に解けない問題ってあるの? | 宇宙の形
3時間目 「自然」であれば、すべて良いのか?
 問6 オオカミはウサギを食べるけど、それは悪いことじゃないの? | 自然主義の誤謬
 問7 やさしくすると、意地悪するより損するの? 得するの? | 弱肉強食という誤謬

Step2 身のまわりに働いている力と法則
4時間目  論理の法則
 問8 赤根「花房くんは、ウソつきだ!」花房「赤根くんの言うとおりだよ!」って、どっちがウソつきなの? | ウソつきのパラドクス
 問9 「メビウスの輪」ってなあに? | 逆・ウソつきのパラドクス
5時間目 社会の法則
 問10 「こくみんのぎむ」ってなあに? | 「権利」と「義務」の関係
 問11 みんなが平等にお金持ちになることは、できないの? | 「みんな」と「誰でも」の違い
6時間目 芸術の力
 問12 どうして良い絵と悪い絵があるの? | 芸術の評価
 問13 子どもは、残酷なお話を読んではいけないの? | フィクションの効用
 問14 どうして「やぎさん ゆうびん」は、白ヤギさんと黒ヤギさんがグルグルして、いつまでもお手紙が終わらないの? | 基底のない対話
7時間目 自然の力
 問15 どうして電線にとまっても、スズメはビリビリしないの? | 科学理論の中心としての電気
 問16 どうして下じきで頭をこすってから持ち上げると、髪の毛もくっついて上がるの? |万有引力と電気力

Step3 思考のスケールを広げてゆくと…
8時間目 人間と地球の未来
 問17 地球はいつかなくなるって、ほんとうなの? | 生物進化の余命
 問18 人間は火星には住めないって、ほんとうなの? | 人から宇宙人へ
9時間目 空間と時間の可能性
 問19 ワープって、なあに? | 物体テレポーテーションと情報テレポーテーション
 問20 タイムマシンがあったら、過去にも未来にも、どこでも行けるの? | 親殺しのパラドクス

おわり

関連情報

本書の原形 『エジソンの母』公式ホームページ「規子先生の課外授業」
http://archive.fo/y1KVT
 
本書「おわりに」(あとがき) 所収の論考の原形 (『エジソンの母』放送時のブログ記事)
http://green.ap.teacup.com/miurat/1424.html
 
書評: 総合文学ウェブ情報誌 文学金魚
http://gold-fish-press.com/archives/34786
 

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