東京大学教員の著作を著者自らが語る広場

黒い表紙に赤字で書名と戦後の参加活動の写真

書籍名

Civic Engagement in Postwar Japan The Revival of a Defeated Society

著者名

鹿毛 利枝子

判型など

216ページ、156 x 234mm、ハードカバー

言語

英語

発行年月日

2010年12月

ISBN コード

978-0-521-19257-6

出版社

Cambridge University Press

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ガールスカウトや地域の合唱団、ロータリークラブといった参加活動は「平時の」活動である。戦争が激化すると中断されざるをえない。しかし戦争が終わり、平時が戻ったとき、人々は戦争前の参加活動に戻るのだろうか。とりわけ、戦争に負けた場合、どうなるのだろうか。

社会科学的な通説では、一般に参加活動は所得や教育水準に大きく規定されると考えられてきた。多くの先進諸国の研究では、所得の高い人ほど、また教育水準の高い人ほど、結社に参加するとされてきた。これにはさまざまな理由が挙げられてきた。参加活動はある種の「贅沢品」であり、一定の所得がなければ参加することはできない。また結社の側も、比較的所得の高い人を勧誘の対象とすることが多いことが分かっている。しかし戦争に負ければ、当然、社会全体としての所得水準は低下する。所得水準が低下すれば、結社に参加するだけの経済的余裕がなくなるはずであり、参加水準も戦前と比べて低下するはずである。また社会が戦争によって大きな被害をこうむれば、心理的なトラウマなども重なり、人々は参加活動から身を引くはずである、とされる。

このような通説的な理解からすれば、戦時中の物理的・経済的被害の大きかった日本では、戦後参加活動に停滞がみられたはずである。しかし本書は、オリジナルのデータを用いて、戦後日本では、参加活動に飛躍的な拡大がみられたことを示す。しかも本書は、戦後の参加活動の拡大が、高度成長の始まる前、つまり人々の生活がもっとも困窮していた終戦直後から始まっており、かつその拡大の程度に都道府県間で顕著な差がみられることを明らかにした。さらに本書は計量分析と事例分析を併用して、戦後参加活動の拡大に都道府県間で差が生じた要因を探り、(1) 戦時中の動員経験と、とりわけ (2) 戦前の参加活動水準が、戦後の参加活動の拡大を大きく規定したことを示した。つまり、戦前において結社への参加活動が活発であった地域では戦後の伸びも目覚しく、逆に戦前に結社への参加活動が比較的低調であった地域では戦後の伸びも比較的緩やかであった。

特筆すべきは、戦後の参加活動の伸びが、その地域が戦時中に受けた被害水準には影響されなかったという分析結果である。つまり戦前において結社への参加活動が活発であった地域では、戦時中の被害水準にかかわらず、戦後、急速に参加活動が伸びた。集会などのために必要な施設が壊れてしまっても、人々は、戦前からの参加の記憶やネットワークを頼りに、場所を見つけて集まり続けた。逆に戦前に参加活動が比較的低調であった地域では、物理的・経済的な被害が小さくても、参加が伸び悩んだ。

このように本書は、著者が日本国内各所で集めたオリジナルのデータをもとに、戦争という究極の条件の後、参加行動がなぜどのように変容するかを明らかにし、参加をめぐる従来の政治学的理解に対して、新たな知見を提示したものである。

(紹介文執筆者: 総合文化研究科・教養学部 准教授 鹿毛 利枝子 / 2017)

本の目次

1. Introduction
2. Civic engagement: the dependent variable
3. War and civic engagement: a theoretical framework
4. Quantitative analysis: the rise of civic engagement across forty-six Japanese prefectures
5. The long-term effects of wartime mobilization: cross-national analysis
6. Repression and revival of the YMCA Japan
7. Wartime promotion and postwar repression of a traditional martial art
8. Civil society and reconstruction in postwar Japan
9. Conclusions.

関連情報

書評:
Aldrich, Daniel P. "Civic Engagement in Postwar Japan: The Revival of a Defeated Society." Pacific Affairs 85.3 (2012): 645-647.
 
Avenell, Simon. "Civic Engagement in Postwar Japan: The Revival of a Defeated Society (review)." The Journal of Japanese Studies 38.2 (2012): 488-493.
 
George, Timothy S. "Rieko Kage. Civic Engagement in Postwar Japan: The Revival of a Defeated Society. New York: Cambridge University Press. 2011. Pp. xv, 195. $85.00." The American Historical Review 117.2 (2012): 506-507.
 
Haddad, Mary Alice. "Civic Engagement in Postwar Japan: The Revival of a Defeated Society. By Kage. New York: Cambridge University Press, 2011. 214p. $89.00." Perspectives on Politics 10.04 (2012): 1104-1105.
 
SAKAMOTO, Haruya. "Civic Engagement in Postwar Japan: The Revival of a Defeated Society." Social Science Japan Journal 15.2 (2012): 273-276.
 
van der Meer, T. "Review of: R. Kage (2011) Civic Engagement in Postwar Japan: The Revival of a Defeated Society." American Journal of Sociology 117.6 (2012): 1832-1834.
 
Hammack, David C. "Book Review: Civic Engagement in Postwar Japan: The Revival of a Defeated Society, by R. Kage." Nonprofit and Voluntary Sector Quarterly 42.3 (2013): 622-627.
 
Endo, Masako. "Civic Engagement in Postwar Japan: The Revival of a Defeated Society.  By RiekoKage. New York: Cambridge University Press, 2011. 216 pp. $85.00 (cloth)." Journal of East Asian Studies 16.1 (2016): 186-188.
 

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