東京大学教員の著作を著者自らが語る広場

白い表紙中央に飛行機誕生時のモノクロ写真

書籍名

飛行機の誕生と空気力学の形成 国家的研究開発の起源をもとめて

著者名

橋本 毅彦

判型など

424ページ、A5判

言語

日本語

発行年月日

2012年9月24日

ISBN コード

978-4-13-060309-6

出版社

東京大学出版会

出版社URL

書籍紹介ページ

英語版ページ指定

英語ページを見る

飛行機が発明されたのは1903年のこと。以来現代社会の形成に大きな影響を及ぼしてきた。航空機の発展を支えるのが航空工学という学問分野であり、その中には空気力学という研究分野が存在する。本書は、その研究分野がどのように生まれ発展したか分析したものである。もともと飛行機は発明家がつくり出し、技術者が次々に改良を加えて実用化していったものである。しかし、それまでの技術と異なり、早い時期から政府が本腰を入れて航空機の開発にも関わるようになった。科学者技術者からなる専門の委員会を組織し、航空機とその製造や運航に関わる事項を研究したり検討したりしてもらった。アメリカのNASAの前身はそのような航空機の研究開発に関わるNACAという機関。そのモデルになったのがACAというイギリスの組織である。1909年に設立されたその組織、優秀な物理学者や機械工学者たちが研究すべきことを決め、政府の実験研究施設で実際の研究がなされていった。このような一つの新規技術をめぐる国家的な研究開発のあり方は、それ以前にもなかったわけではないが、この航空機の研究開発の開始以降、頻度も規模も増していったことから「国家的研究開発の起源をもとめて」というサブタイトルをつけることにした次第である。しかし本書の中心的な課題は、体制や制度と行った側面よりも、研究の中身をより踏み込んで分析することにある。航空工学の一部であり、流体力学の一分野として生み出された空気力学という専門分野は、この初期の時代に理論と実験の関係に関して根本的な検討が加えられつつ、境界層や層流・乱流といった基礎概念が形成されていく。本書ではそれらの事情をイギリスの科学者技術者の議論を中心に据えつつ、ドイツやアメリカの研究者にも目を向け論述した。最後に、日本の研究者にも目を向け、「層流翼」という翼型の開発をめぐる研究過程を詳細に追いかけ、戦前日本における先端的な研究のあり方について検討した。

(紹介文執筆者: 総合文化研究科・教養学部 教授 橋本 毅彦 / 2016)

本の目次

序章 飛行機と技術 -- イギリスの空気力学という視点
第1章 最初の研究プログラム -- 安定性の風洞実験
第2章 風洞実験は信頼できるか -- 寸法効果をめぐる論争
第3章 新しい空気力学の誕生 -- 境界層、不連続流、そして誘導抗力
第4章 プラントル理論の受容 -- 揚力理論の解明と咀嚼
第5章 理想的な流線型をもとめて -- 技術予測と長期研究計画
第6章 一九三〇年代における境界層の探求 -- イギリスの科学研究とアメリカの技術開発
第7章 戦前日本の空気力学研究 -- 谷一郎の境界層研究と層流翼の開発
終章 国家的研究開発の内実をもとめて
おわりに
註、参考文献、付録、図出典一覧、初出一覧、索引

このページを読んだ人は、こんなページも見ています