東京大学教員の著作を著者自らが語る広場

白い表紙に工場機械のイラスト

書籍名

工場の経済地理学

著者名

松原 宏、 鎌倉 夏来

判型など

248ページ、A5判

言語

日本語

発行年月日

2016年6月10日

ISBN コード

978-4-562-09206-2

出版社

原書房

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工場の経済地理学

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最近、子供たちの夏休みの課題として、あるいはまた産業観光の目玉として、工場見学が人気を集めています。国や自治体の政策担当者にとっては、工場は雇用と税収を生み出す大切なもので、いかに工場を誘致するか、そして最近では、どのようにしたら工場を閉鎖させず維持できるか、こうしたことが政策課題となっています。このように工場は、身近な存在、重要な政策対象でありながら、工場を本格的に取り上げた学術書はほとんどありませんでした。本書は、工場の内部の工程やレイアウトの特徴、工場の機能や全社的位置づけ、地域における工場の役割、国際競争力の観点からの位置づけなど、工場に焦点を当てて、さまざまな観点から特徴や課題を明らかにしたものです。
 
2014年9月に「まち・ひと・しごと創生本部」が設けられて以降、国の各省庁や地方自治体では、人口減少社会への対応が重視されるとともに、地方圏域で魅力ある「しごと」をどのように創出するかが問われています。そこでは、東京一極集中を是正し、地方移住や本社機能等の地方移転を進める施策が打ち出されています。しかし、一度集まってしまったものを動かすことはなかなか困難です。これに対し本書では、すでに立地している工場の機能に注目し、工場の進化を政策的に促すことを提起しています。外観は昔ながらの工場でも、よく調べてみると、海外の工場に新製品や新技術を伝播する「マザー工場」であったり、生産機能と研究開発機能とが一体化した拠点になっていることを発見する機会が増えてきています。
 
もちろん、こうした工場がどこにでもあるわけではありません。グローバル競争の荒波のなかで、閉鎖を余儀なくされた工場も多く、なかなか厳しい現実があるのも確かです。けれども、日本国内には、さまざまなショックに耐え、製品や工場の機能を変えながら、力強く存続している工場が少なくありません。本書はこうした中核工場の地域定着と進化過程に注目し、理論的検討を行うとともに、産業の視点と地域の視点をもとに実態把握を行い、今後の政策的課題を考えていくことを目的としています。
 
本書の前半では、さまざまな統計資料をもとに、日本の工場の現状と課題、主要産業の工場立地変化を把握できるようにしていますが、後半の地域編では、首都圏近郊や地方圏の工場の実態を紹介しています。とりわけ第6章は、「工場カルテ」を用いた三重県での工場訪問調査の記録で、さまざまな業種の30を超える工場について、写真を交えながら、生産工程の工夫や工場の強さの要因などについて解説しています。産業立地政策の歴史をまとめた最後の章も含め、日本経済の今後のあり方を考える上で、「工場の進化」が重要なキーワードになることを納得していただければ幸いです。
 

(紹介文執筆者: 総合文化研究科・教養学部 教授 松原 宏 / 2016)

本の目次

第1章 工場の経済地理学 - 研究史と課題 -
第2章 日本の工場の現状と課題
第3章 主要産業の工場立地変化
第4章 九州における半導体工場の変遷
第5章 首都圏近郊における大規模工場の機能変化
第6章 地域中核工場の経済地理学 - 三重県の工場 -
第7章 今後の産業立地政策と工場

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