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大飯原子力発電所の写真

書籍名

大飯原子力発電所はこうしてできた 大飯町企画財政課長永井學調書

著者名

永井 學 (語り手)、 金井 利之、 五百旗頭 薫、 荒見 玲子 (聞き手)

判型など

420ページ

言語

日本語

発行年月日

2015年4月

ISBN コード

978-4-86162-100-0

出版社

公人社

学内図書館貸出状況(OPAC)

大飯原子力発電所はこうしてできた

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原子力発電所について議論する際の困難の一つに、争点の重苦しさ、人々の価値対立の激しさ、地域に残したしこり、大都市消費圏と僻地生産圏との分断と相互無理解、さらに企業城下町としての電力会社の大きな第二次元権力などを反映し、自由闊達な推進派の立ち入った証言が少ない、ということがある。この欠落を埋めようとしたのが、本書である。
 
福井県の嶺南地域は、福島県に匹敵するほどに原子力発電所が集中して立地している。中でも大飯町(合併して現在はおおい町)は、人口が最も少ない一方で、発電所の出力は最大であった。この町の役場で企画財政課長や助役を歴任し、誘致に向けた実務の中心を担ったのが、永井學氏であった。本書は、その証言を五回にわたって聞き取った成果である。
 
国・県と電力会社からどのようにコミットメントを取り付けたか、町内の分断を避けるべく、誘致への手順をどのように設計し、実施したか、そして内外の事故に対してどのように対処したか、を詳細に語っている。
 
これだけで、本書には充分な学術的・社会的価値があるものと自負する。それに加えて、二つの意義があると考えている。
 
一つは、原子力発電所誘致以外での地域振興の試みも詳細に語っている点である。元来、永井氏は農協職員であった。町職員となった後も、農業・酪農の指導に努めた。第一次産業による発展の限界に直面した上で、原子力発電所に町政の前途を賭けた。過疎地の悲哀と憤慨を嘗め尽くした永井氏の舌鋒は、いわゆる原発反対派のみならず、中央の政府、学者、電力会社にも向けられることがある。永井氏のこうした気骨ある精神によって、本書は同人の主観的な記憶であることはもちろんであり、きわめて主観的な記録であると同時に、立地自治体が直面した権力状況の、ある程度客観的な記録ともなり得ている。
 
もう一つは、町が立地によって得た収入や支援によってどのように地元地域を開発しようとしたかについても取り上げている点である。ここでも永井氏は重要な役割を果たしており、防犯灯の設置から中学校の建設、圃場整備、上下水道の普及、海岸埋め立てによる大規模な商業施設の建設、町内企業の育成まで多彩な事業について証言している。証言を躊躇する論点についても、原則としてそのやり取りを再現することを永井氏は認めている。
 
永井氏が、誘致から開発にいたる自らの行政マンとしての奮闘に自負を抱いているのは明らかである。だが永井氏の気骨は、究極的には町の現状そのものへと向けられる。町政の現状や危機管理の水準について、本書では自賛や礼賛とは言い難い診断が下されている。原子力発電所によって所在自治体がどの程度発展し得るのかは、重要な争点である。これを検討する上で、本書は一方の立場からの重要な資料となり得るであろう。
 
編者は本書によって原子力発電所について特定の立場を表明する意思は持っておらず、議論のための資料を遺すことに集中した。その狙いは大いに達成されたと考えている。
 

(紹介文執筆者: 法学政治学研究科・法学部 教授 五百旗頭 薫 / 2019)

本の目次

第一章 はじめに
第二章 苦闘の時期
第三章 原子力発電所1・2号機建設紛争
第四章 大飯町の町勢の飛躍的発展へ向けて
第五章 スリーマイル事故と1号機運転再開
第六章 3・4号機増設問題
第七章 3・4号機増設による振興計画
第八章 町政の安定
第九章 大飯町からおおい町へ
第十章 原子力行政の最前線で
 

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