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濃いオレンジ色の表紙

書籍名

日蘭関係史をよみとく 上巻 つなぐ人々

判型など

上巻340ページ、下巻256ページ、A5判、上製、紙カバー装

言語

日本語

発行年月日

2015年7月9日

ISBN コード

978-4-653-04311-9 (上巻)
978-4-653-04312-6 (下巻)
ISBN978-4-653-04310-2 (上・下 セット)

出版社

臨川書店

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日蘭関係史をよみとく(上巻) つなぐ人々

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西暦2000年は、日蘭交渉400年の年だった。大々的にシンポジウムが開催され、その前後には相次いで関連書籍が刊行された。それにより、日蘭関係史研究にとっても、それまでの足跡をまとめる区切りの年となった。このように、歴史学のカタチだけでなく内容までもが、現在の「日本」と「オランダ」という国民国家の存在から影響をうけている一面があることは否めない。
 
一方で、そのようなお祭りが終わった後も、日本語やオランダ語の史料を丁寧に読み込もうとする研究者の歩みは止まることがない。『日蘭関係史をよみとく』上下二巻は、新たな視角で史料と向き合う17名の研究者 (うち、女性14名、外国人6名) の論考を収録する。上巻は、人―外交使節、領事、唐人、長崎奉行、商館員と地役人、通詞、京都と江戸の蘭学者、絵師―に焦点を当てる。
 
第一部は、「国書」が基軸をなす徳川政権の外交のなかでオランダ人はどう振舞ったのかを中心に、日蘭関係全体の枠組みを扱う。
 
第二部では、長崎の現場においてどのように日蘭関係が維持されていたのかについて、具体的な事例を検討する。近年日本でも世界でも進展が目覚ましい、身分論や仲介者論、マイノリティ・スタディーズへの日蘭関係史からの応答である。
 
第三部は、留学や教師の招聘ができない状況下で、いかに日本人が新しい情報や知識を採り込み、深化させていったのか、その過程を追う。
 
本書の特徴は、「日蘭関係史」を掲げておきながら、中国、インドネシア、インド、オランダ以外のヨーロッパ諸国とも大いに関連する内容となっているということである。つまり、最初の段階でとくに意図したわけではないのだが、国民国家の枠を超えつつある。
 
江戸時代においてすらなお途切れることなく広がっていた人々のつながりは、これからの世界との関わり方を示唆する。同時に、現在の歴史学の一つの潮流をなすグローバル・ヒストリーの考え方を検証ないしは批判するにおいても役立つものと言える。世界をどのようにとらえるのか、この大きな問いに対し、本書が一助になればと思う。また、「彼ら」との出会いこそが「我々」の社会をつくりだしたということにも、思いを致してほしい。「彼ら」「我々」の区別は、まさに出会いがあったからこそ生まれたものである。それとともに、彼らがそこにいなかったなら、我々の社会も違ったものになっていただろう。
 
さらに強調したいのは、歴史学において本当に新しいことをいうためには、やはり一次史料を読む必要がある、ということである。本書の反省点を挙げるとすれば、その主張が前面に出過ぎたことだろうか。主張に間違いはないのだが―しかも、世界的にも史料を丁寧に読むという技能や姿勢が失われつつあるので、いよいよ重要なのだが―、読む人にとってはつまらないかもしれない。次の書物は、もっと読者優先に、準備中である。
 
なお、下巻は、「運ばれる情報と物」を扱っている。合わせて手に取っていただきたい。
 

(紹介文執筆者: 史料編纂所 准教授 松方 冬子 / 2018)

本の目次

序論 (松方冬子)
第1部  日本とつきあう
  第1章  17世紀中葉、ヨーロッパ勢力の日本遣使と「国書」(松方冬子)
  第2章  幕末の日蘭関係と諸外国-仲介国としてのオランダ- (福岡万里子)
  第3章  長崎の唐人社会 (パトリツィア・カリオティ / クレインス桂子 訳)
第2部  長崎にすまう
  第4章  天明前期の長崎情勢と長崎奉行の特質-戸田出雲守氏孟を中心として- (鈴木康子)
  第5章  出島とかかわる人々 (松井洋子)
  第6章  オランダ通詞と「誤訳事件」-寛政の「半減商売令」をめぐって-(イサベル・田中・ファンダーレン)
第3部 蘭書にまなぶ
  第7章  草創期の京都蘭学-≪辻蘭室文書≫の書誌的考察- (益満まを)
  第8章  江戸幕府の編纂事業における「厚生新編」と蘭学の「公学」化(上野晶子)
  第9章  蘭学と美術-北山寒巌・馬道良の事蹟と舶載の世界地図をめぐって- (勝盛典子)
下巻へのいざない (松方冬子)
 

関連情報

新刊紹介:
朝日新聞「読書」2015年9月13日朝刊
『史学雑誌』125編 第3号、2016年3月
 
書評:
『日本歴史』第819号、2016年8月
 

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