東京大学教員の著作を著者自らが語る広場

白い表紙の下半分が山吹色

書籍名

日本仏教を捉え直す

著者名

末木 文美士、 頼住 光子

判型など

292ページ、A5判

言語

日本語

発行年月日

2018年3月1日

ISBN コード

978-4-595-31853-5

出版社

放送大学教育振興会

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日本仏教を捉え直す

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本書は、放送大学、ラジオ講座の印刷教材 (テキスト) として作成されたものである。本書の題名であり、また、放送授業の題目である「日本仏教を捉え直す」は、私たちが日本社会の中で生きているうちに、知らず知らずのうちに身に着けている仏教的な物の見方、何とはなしに定着した仏教知識、あたりまえのように体験する仏教的な文化について、もう一度見直し、そのルーツや現代における意義を、改めて考えてみるということを含意している。
 
本書では、「日本仏教の思想」「近代日本仏教」「日本仏教の深層」の三つの切り口で、日本の仏教に新たな光を当てようとしている。そのうちで、頼住が担当したのは、「日本仏教の思想」である。ここでは、仏教伝来、仏教と儒教との関係、聖徳太子、空海、法然、親鸞、道元、日蓮等について、適宜、原文を引用しながら、その思想的意味を検討した。その際、単なる概説的な紹介に留まるのではなくて、思想の構造が明らかになるように心がけ、また、このような検討を通じて、仏教の現代的意義が浮き彫りにされることを目指した。
 
仏教の現代的意義として、私が特に強調したのは、それが現在の喫緊の課題である「共生」を、真の意味で実現するための思想的基盤になるということである。その際に特に重要なのが、仏教の「空―縁起」という考え方である。私が、本書において扱った仏教思想家たちは、それぞれ多様な議論を展開しているが、その根底に共通するものは、この「空―縁起」の考え方である。
 
「空」とは、あらゆるものが固定的な実体でなく、また本質を持たないということであり、「縁起」とは、本質を持たないにもかかわらず存在が成り立っているのは、それが、他のさまざまなものとの関わり合いの中で、そのようなものとして、その時、その場で成立しているということである (関係的成立)。つまり、自己は自己以外のあらゆるものとの関係の中で初めて自己となっているのであり、自己が成立するとは、同時に、他者が成立することでもある。この意味で、自己と他者とは、互いが互いを成り立たせ合っているのであり、自己と他者とは一体であるということができる。このことを仏教の術語でいうならば「自他一如 (じたいちにょ)」「相依 (そうえ)」ということになる。
 
このことを踏まえて考えると、「共生」とは、個々のばらばらな要素としてのものどうしが助け合うというようなことではない。そもそも「自他一如」である基盤の上で、それを自覚しつつ行為することが「共生」の実現であると、仏教では考えるのである。理性をもって主体的に世界をコントロールする近代的人間は、ともすれば、世界の中心に立って、他者や自然を操作対象とするような孤立した人間、すなわち真の意味での共生をなしえない人間になりがちである。そのような近代人に対して、仏教が示唆するところは大きいということができるだろう。
 

(紹介文執筆者: 人文社会系研究科・文学部 教授 頼住 光子 / 2018)

本の目次

1  序説―仏教の展開と日本
2  日本仏教の思想1―仏教伝来と聖徳太子
3  日本仏教の思想2―空海
4  日本仏教の思想3―法然・親鸞と浄土信仰
5  日本仏教の思想4―道元と禅思想
6  日本仏教の思想5―日蓮と法華信仰
7  近代の仏教1―廃仏毀釈からの出発
8  近代の仏教2―近代仏教の形成
9  近代の仏教3―グローバル化する仏教
10  近代の仏教4―社会活動する仏教
11  日本仏教の深層1―日本仏教と戒律
12  日本仏教の深層2―葬式仏教
13  日本仏教の深層3―神仏の関係
14  日本仏教の深層4―見えざる世界
15  まとめ―日本仏教の可能性
 

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