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白い表紙にグレーとブルーの題字

書籍名

経済学の基礎 価格理論 Elements of Price Theory

著者名

竹野 太三

判型など

324ページ、A5判

言語

日本語

発行年月日

2017年9月28日

ISBN コード

978-4-13-042146-1

出版社

東京大学出版会

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経済学の基礎 価格理論

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経済学の経済とは経世済民 (けいせいさいみん) に由来するもので、世を治め、人々を苦しみから救うことを意味します。これは社会科学の目的と言ってもいいでしょう。経済学は、経済全体の動向を表す失業率や経済成長率などについて考察するマクロ経済学と、家計や個別の企業などの行動について考察するミクロ経済学に分けることができますが、双方とも、さらに狭い複数の専門分野に分かれています。他の分野同様、経済学にも様々な理論があります。例えばゲーム理論は数学の分野としても認知されていますが、マクロ・ミクロを問わず、経済学全般で用いられる大変重要な理論です。個別の企業の意思決定に関わる考察を含むので、ゲーム理論はミクロ経済学の根幹に位置付けられています。本書が紹介する価格理論は、ゲーム理論と同様、ミクロ経済学の根幹にある理論であるばかりか、およそ全ての経済学の分野や理論において、最低限必要とされる知見や概念を含むという意味で、経済学の根幹にある理論であると言えます。このように、価格理論は大変重要な理論ですので、本書ではゲーム理論の紹介を敢えて割愛し、その分の紙面も含めて価格理論の紹介をしています。そうすることで、例えば「なぜ効用関数を用いるのか」といった、経済学を初めて学ぶ方が一度は抱くであろう、自然でありながらも限られた紙面では答えることが容易ではない疑問にも、詳しい解説を施すことができました。

経済学は他の社会科学の分野よりも数学を積極的に用います。もちろん、このような考察方法は最初から決まっていた訳ではなく、経済学が進歩する過程の試行錯誤を経て確立されたものなのですが、その発端は今からおよそ150年前、経済学のあり方を提唱したレオン・ワルラスの次の言葉にあると言われています。


今日、政治経済学には数え切れぬ学派が存在している [...] わたくしは (これらのうち) 二つの学派しか認めない。一つは証明しない学派であり、他は自らの命題を証明する学派である。この後者こそわたくしが樹立を目指して進んでいるところのものである。
Leon Walras (1874) 'El'ements d' 'economie politique pure ou th'eorie de la richesse sociale  (p.473)


一般に、考察対象の現象を統一的に説明することができる、体系的な知見のことを理論と呼ぶとすれば、価格理論とは、価格が決まる仕組みを統一的に説明することができる、体系的な知見ということになります。価格理論は、高校の社会科でも紹介される、需要曲線と供給曲線について詳細に検討しますので、確かに価格決定の仕組みに関する理論なのですが、これは価格理論の表面的な説明でしかなく、その本質を表すものではありません。価格理論の本質は、私たちが日常生活を営むにあたり、市場を採用すること (あるいは採用し続けること) の是非を検討することにあります。これは、必要な物やサービスにお金を払って調達するという、私たちが日常生活で当たり前にしていることを、経世済民の立場から、当たり前で良いのか、という問題意識のもとに検討することでもあります。
 
本書は、大学一年次に学ぶことができる数学を用いて、経済学の基礎理論である価格理論について紹介しています。初学者の方には少し難しいかもしれませんが、経済学ではなぜそう考えるのか、といった根本的な考察方法についても説明していますので、時間をかけて学んでいただければと思います。
 

(紹介文執筆者: 総合文化研究科・教養学部 教授 竹野 太三 / 2019)

本の目次

はじめに
第I部 消費者の理論
1章 消費者の行動をどのように捉えるか
2章 効用最大化問題
3章 支出最小化問題
4章 比較静学

第II部 生産者の理論
5章 生産者の行動をどのように捉えるか
6章 生産技術
7章 利潤最大化問題
8章 費用
9章 供給

第III部 均衡の理論
10章 均衡をどのように捉えるか
11章 配分
12章 ワルラス均衡
13章 部分均衡
14章 一般均衡

第IV部 市場の失敗
15章 市場の失敗について
16章 外部性
17章 公共財
18章 独占
 

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